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13 チーズリゾット風と玉ねぎドレッシングのグリーンサラダ


『ピー』


 洗濯機の終了の音にハッとする。

 家には布を結構な量ストックしていて、それを伸縮ポールにかけてカーテン代わりにしたり、ベッドカバーにしたりと使っていたので、配置換えで埃っぽくなったそれらを、朝から二度目の洗濯物として洗濯機に放り込んでいたのだ。

 ヤスヒロさんの衝撃が大きすぎた。

 なんなんだあの人。鬼か。鬼だった。

 カーテンに使っていた方はそのままカーテンの位置に干し、ベッドカバーの方はもともとベッドの真ん中辺りに設置していた伸縮ポールに干す。

 なんだか湿っぽいような気がするが、今日は乾燥しているよりは湿度があった方が好都合。

 レジャーシートを敷いて真ん中にテーブルを設置、届けてもらったイーストと強力粉、無塩バターを取り出してテーブルに置いて、保存袋を大きさ違いで二種類とボウルと木べら、砂糖と塩と、卵に豆乳、薄力粉、と、こんなものかな?

 何度か作ったことはあるけれど、キッチンスケールも計量カップもないので、どうしようかな。米用の一八〇mlカップはあるから、何となく比率にそって水分で調整することに決めて、一応インターネットでレシピを検索して材料を確認する。

 強力粉二に対して薄力粉一、砂糖と塩は重さが違うから何となくで行くか。バターは包装紙にグラムのメモリが付いていたので、調整できそうだ。

 パン生地に折り込む用のバターは薄くスライスして小さい方の保存袋に入れて、手のひらで押しながら柔らかくして伸ばす。

 既に常温だったこともあって、結構楽に伸ばせた。

 パン生地に入れる用のバターを確保して残りは包装紙を外して保存容器へ。これで次回はグラム数が分からなくなるから、キッチンスケールも入手した方がいいだろうな。

 ボウルに粉物の材料を放り込んで、片付ける。

 強力粉と薄力粉が分からなくなるので、マスキングテープでラベルを付けて、インスタントドライイーストは缶の容器だったのでそのまま冷蔵庫に保管。調味料一式入っていた箱から油関係は出していたので空きがあり、綺麗に収まってくれた。

 卵を溶いて三分の一位と、スキムミルクがないので豆乳を少しと、ぬるま湯を合わせた水分を、粉物の入ったボウルの砂糖とイーストめがけて少しずつ入れる。

 木べらでざっくり混ぜながら水分で調整。多分ちょっと硬いかな? と感じるくらいでちょうどいいはず。バターも加えて捏ねまとめたら、手にビニール袋をかぶせて生地を持ち上げ、ボウルに投げつける。

 結構大きな音がするが、現在の私にご近所さんへの騒音問題は無い。ちょっと気持ちいい。でも疲れてきた。

 クロワッサンの場合はあまり捏ねない方がいいと言われているので、生地が全部まとまっていることを確認して丸くし、ボウルにラップをしてレンジに入れる。

 いつも大丈夫か心配になるのだが、家のレンジの場合はオーブンを選択して余熱ではなくいきなり本番の温度設定をすると発酵温度が設定できる。

 購入当初発酵出来ないのかと取扱説明書も見ずにボタンを押しまくった覚えがある。

 そういえば十年以上使っているな。自炊しなくなって何年たつっけ?

 溶き卵の残りにラップをかけて、再び折り込み用のバターを伸ばす。

 伸ばし棒がないので瓶をころころさせてたんだけど、この後パン生地を伸ばす時にも苦労しそうだな。

 長くて丸いもの……伸縮ポールじゃ長すぎて使えないのと、細すぎて使えないのしかないし、せめてキッチンペーパーの芯位の長さのやつないかな?

 ラップは使うかもしれないからアルミホイルならいけるかな?

 アルミホイルを箱から取り出してラップで巻いて伸ばし棒の代わりにしてみた。けど。

 これはちょっとベコッといきそうで心もとない。

 芯の部分もラップで塞いでしまっていたので、芯に沿うようにラップを中に入れて、細くて使えない伸縮ポールを入れてローラー式に転がしてみた。

 うん、これなら多少芯の形が変形するかもしれないけどいけそうだ。

 バターを保存袋いっぱいに均一に伸ばし終えて冷凍室に入れようとしたら平らな場所がない。保存容器を並べ替えて平皿を置いて、ようやくバターを入れられた。

 既に一仕事終えた気分になったがもう一仕事。

 お昼ご飯の準備をしよう。と思って固まった。

 レンジ使用中につきご飯は温められないしパンも焼けない。

 まぁ、発酵中だから出してもいいんだけど、何となく負けた気がしないでもない。

 炊飯器のシチューの残りは三皿分くらいかな。

 具材を足してカレー粉を入れようと思っていたので、一度炊飯器のスイッチを切り、窯を出す。

 一皿分を鍋にとって、別作業。

 一口大に切った鶏肉をとみじん切りにした玉ねぎを炒めて、カレー粉と塩、胡椒、少しだけ醤油を入れて濃いめに味付け、窯に入れてかき混ぜる。味見をしたらカレー感が薄かったので、まだ洗わずにいたフライパンにガーリックパウダーとカレー粉、バターと豆乳を入れて軽く炒めたものを追加。これで良さそうだ。

 しかしカレーってなんでこういい匂いがするんだろう。

 鍋に冷蔵庫から出したご飯も入れて、チーズとミニトマトを入れ、弱火で加熱。

 少し避けて置いたみじん切り玉ねぎにオリーブオイルと塩、レモン汁を混ぜてドレッシングを作って、サラダミックスにかける。

 鍋の方もご飯がシチューを吸って、チーズが溶けていい感じだ。

 皿に盛ってから仕上げにパセリと胡椒をかければ完成。

 洗い物は後にして、一息ついでにご飯にしよう。

 昨日の内に探していた、見たことのないシリーズ物のドラマで、人が死ななそうな、あまりストーリーのなさそうなドラマ、の、一話目を流す。

 よく分からないけど、主人公がご飯を食べるだけの四十分ほどドラマらしい。私にぴったりだと思った。


「いただきま……」


『ピ・ピ・ピ』


 さて食べますかと手を合わせたらレンジが設定時間完了を知らせてきた。

 立ち上がってレンジをのぞき込むと、食べている余裕はありそうだ。

 一度レンジドアを開けて閉める。何度も鳴るからね。


「いただきます」


 気を取り直して食事をし、ドラマの主人公が食事にありつく頃に私の食事は終わった。

 苦し紛れではあったが、久々に食べたリゾットの優しい感じはとてもいい。

 風邪をひいた時にお母さんが作ってくれるおかゆみたいなイメージなのかもしれないが、私にそのような思い出はない。

 風邪をひいた時こそスタミナだ! と、ニンニクたっぷりの焼き肉を出すような母だった。一度吐き戻して病院に行った時に医者に叱られてから、風邪には豚ミンパワーだ! と、豚肉の卵とじになったが、風邪により胃腸が弱るという事が少ししか理解出来なかった結果と言える。娘の為に栄養を考えて、という事は今なら理解できるが、当時はいったい何故? としか思えなかった。

 そんな母であるが会えないと思うと寂しい。ポロっと涙がこぼれる。

 今日は涙腺が緩いな、と思いながら涙をぬぐい、食器を台所に置いて手を洗い、レンジからボウルを出す。

 二倍に膨らんだパン生地を、かぶせていたラップを使って潰していく。ガス抜きという作業だ。

 ボウルの型を取るようにまんべんなく潰して、ボウルに面している方を内側になるように丸めなおし、ボウルに新しいラップをかけたら冷蔵庫へ入れる。

 バターを折り込むために生地は冷たい方が良いのだ。

 ドラマでは主人公が食事のラストスパートに入っている。本当に食べているだけなのだが、なんだか目が離せない。

 最後まで見てから食後の片づけをし、ドラマの次話を流しながらのんびりと次の工程の準備をする。

 パン生地を作るための場所がないので、テーブルにラップをかけ、テーブル全体を作業台にする。

 クッション関係も粉が付くと面倒なので部屋の端に避難して、椀に薄力粉を入れて、手を拭くための濡れタオルと、テーブルを拭くための布巾、さっき試した伸ばし棒代わりと用意していたもう一種類の大きな保存袋、保存袋を切るためのハサミとラップ、これでいいかな?

 猛烈な勢いで丼を食べているドラマを横目に、冷蔵庫からパン生地を取り出して保存袋に入れて、保存袋いっぱいまで伸ばしていく。

 どんぶりかぁ。やっぱり普通の親子丼も食べたいな。この間はアレンジしちゃったし。

 保存袋を使ったのはあくまでもアタリだ。丸めた状態から均一に四角く伸ばすのが難しかったのだ。

 テーブルに薄力粉を振って、保存袋を切り開いて、少し厚めに整った生地をテーブルに置き、冷凍室からバターを出して来て大きさを確認、十分に包めるくらいまで薄力粉を振ってさらに伸ばす。

 バターの方も袋を切り開いて、伸ばした生地の真ん中に置いたら、生地を折り畳んでバターを完全に包む。

 あ、空気抜き用の爪楊枝忘れてた。と思ったが、テーブルの下に置いてあるので、手を拭いて二本程取り出しておく。

 正方形に近い状態のバターを包み込んだ生地を、長方形になるようにゆっくりと伸ばして、空気が入って気になる部分は爪楊枝でつついて空気を逃がし、薄力粉を付けた指で穴をふさぐようになじませる。

 長方形になった生地を三つ折りにして、生地の数で考えるので、生地、バター、生地生地、バター、生地生地、バター、生地、として、これで四層。

 さっき伸ばした向きと違う向きに置き換えて、また生地を伸ばしていく。これをまた三つ折りにすれば、十層の生地になる。

 生地が室温に近づいてきたので、少しだけ伸ばしてラップでくるみ、再び冷蔵庫へ入れる。

 あまり温まるとバターが溶けて伸ばした時に生地から出てきてしまうのだ。

 伸ばしている間にドラマも終わってしまったので次話を、と思って、ふと気が付く。

 佐藤さんが来るタイミングと作業しているタイミングがかぶりそうなのだ。

 生地を冷蔵室から冷凍室に移動して、時間つぶしに五分程ドラマを見て、もうちょっとと、三分程追加で冷凍室で冷やしてから、作業を再開する。

 ゆっくりゆっくり伸ばして三つ折り、向きを変えて、ゆっくりゆっくり伸ばして三つ折り、これで八十二層、パイ生地だともう二~三回折り込むところだけれど、クロワッサンなので、このくらいでいいでしょう。

 軽く伸ばして今度は冷蔵室へ。

 生地を休ませたら成形して二次発酵だ。佐藤さんにも手伝ってもらおう。

 佐藤さん用にゴミ袋とビニル紐と洗濯ばさみでエプロンを作り、絶対怒られそうだと思いながら、手を拭くための濡れタオルと、テーブルを拭くための布巾を洗って準備を整える。

 ドラマ、内容があまり無い物を選んだから、時間感覚と追視による暇つぶしに最適なんだけど、これ、考えないという意味では寝てるのと一緒なのでは? と気が付いて、なんだかヒヤリと背筋に冷たいものを感じた。

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