それはどこから見た景色?
むかしむかしあるところにとても貧しい少年がおりました。
少年は誰から見ても不幸で、悲惨な人生を歩んでいました。
時には泥水をすすり、時には動物の糞尿で飢えをしのぎました。
時には裸足で荒野を走り、時には毒虫や猛獣の住む森に腰を下ろしました。
全てが少年に味方しようとはしませんでした。
しかし、少年は絶望を受け入れませんでした。
少年は希望を信じ続けました。
少年は上を見続けました。
あの途方も無い青空を。
そして、労働者になり、
金を手に入れ、町人となり、
人望を集めて、名主となり、
功績を称えられ、貴族となり、
国を治めて、王となり、
全てを手にいれ、神になったのです。
少年が手をかざせばやせた大地も花が咲き乱れ、
病に苦しむ人々も少年が触れれば瞬く間に元気を取り戻しました。
神となった少年を人々を皆、慕い、崇めました。
少年も今まで越えてきた道の上の人々を全て助けました。
少年は世界を究極の平和に導きました。
この少年にできないことはありませんでした。
少年はこの世の問題を全て消滅させました。
そして少年のすべきこともまた終わりました。
いつの間にか少年は目指し続けた空に届いていました。
少年の上には何一つありませんでした。
少年は上を見てきました。
絶望の底では人を見ました。
働き手となり生活を見ました。
町にまぎれて金を見ました。
媚に隠れて栄誉を見ました。
名を翳して権力を見ました。
上を見回し全てを見てきました。
今、少年の下には全てがありました
そして少年は絶望の意味を知りました。
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