7 ラクイーズ
昼過ぎ。ララの探知スキルを頼りに魔物との遭遇を回避し森を抜けた。
俺?ララより探知範囲が狭いせいで役立たずだ。くそ、言わせるな。
いくら人造精霊のスキルを引き出せると言っても、使い手があれならあれらしく、きっと努力が必要なのだろう。
さておき、俺たちは街道に合流して『ラクイーズ』の目前にまで来ていた。
石造りの高い壁が視界を遮っている。
門?みたいなところに人が列を作り、その隣には馬車や荷車。
まあ薄々は気づいていた。
道は舗装されてないし、車は走ってないし、飛行機は飛んでないし。
遺伝子組み換えを成し遂げた古代文明の技術力はおそらく引き継がれていないのだろう。
この場面だけでそう判断するのは早計ではあるが。
ともかくサバイバルナイフを収納鞄に戻し俺たちも列に加わる。
ララとリリと戯れること数十分。
俺たちの番が来る。銀ピカの鎧を着たおっさんが睨んでくる。
「身分証を提示してくれ」
あー詰んだか?
「すまん、こいつら共々持ってないんだが」
「辺境の村の出か?それにしては身なりがいいな。ま、いい。これに手を置いて魔力を流してくれ」
一辺30センチ程の鉄板みたいな物が出される。四隅に水晶がついている。
俺はその上に手を……置く前にララが置いた。次にリリ。最後に俺。
そんな警戒してくてもいいのに。
「犯罪歴はないみたいだな」
「へー、んなことが分かるのか」
「あったらこいつが赤く光るからな……お前、判定器も知らんのか。どこの山奥から出てきたんだ」
俺は判定器とやらに目を落とす。
指紋照合の魔力バージョンみたいな物か?ってことはデータベスがあるわけで。うーん、こっちの文明レベルがよく分からなくなってきた。
目を戻すと、おっさんがこっちをジロジロと見ていた。
「……山育ちなら即戦力になるか?いや、この細腕じゃロクに剣も振れんか……」
「なんだ?」
おっさんは小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「お前には関係ないことだ。最後に通行料として一人頭銀貨2枚もらうぞ。身分証があれば銅貨5枚だったがな。払えるか?」
銀貨1枚で銅貨10枚だろうと当たりをつける。
俺は収納鞄から小袋の口だけを取り出し手を突っ込む。
じゃらりと金貨に混じり大量の銀貨が見える。
そういや忘れていたが、時給銀貨2枚だったな、このバイト。もう一日以上経っている。
俺は銀貨6枚を払った後、門をくぐる。
ラクイーズの街に一歩踏み出したところで別のおっさんに呼び止められた。
今度は粗野な格好で背中にデカイ斧を担いでいる。
「兄ちゃん、身分証を持ってねえってことはどこにも属してねえだろ。冒険者ギルドに入れてやるよ。ありがてえだろ」
耳の穴をほじりながらそんなことを言ってくる。
冒険者ってなんだ?トレジャーハンターみたいなものか?
「結構だ。間に合ってる」
「けっ、いきがりやがって。テメエみたいな、なよなよした奴はどうせ肉壁にしかならねえ。こっちから願い下げだ」
足下に唾を吐かれる。
イライラゲージが限界突破しそうだったが、おっさんに「フシャー」といった感じで威嚇するララとリリに癒され、二人の手を引いてその場を離れた。
はあ……幸先が悪いなあ……。
ともあれ気持ちを入れ直し大通りを歩く。
石畳の道といい、建物の様式といい、中世ヨーロッパ風だった。どこにもガラス窓が見当たらないから余計に古臭い印象を受ける。意外と清潔そうなのが救いだ。
ん?両腕が後ろに引っ張られる。
ララとリリが立ち止まってじっと一つの屋台を見ていた。
オレンジっぽい果物が盛られた台があり、どうやらそれを絞ったジュースを売っているらしかった。
容器持参らしく、俺は収納鞄からコップを二つ取り出した。
お代は銅貨2枚。銀貨で払い、銀貨1枚=銅貨10枚であることを確かめる。
二人に手渡すと、こくこくと飲んだ後、コップをこっちへ差し出してくる。
「「主様も」」
「いや俺はいい。飲んどけ」
なんでか急にしょんぼりし始めた。
「主様と同じ物を食べたり飲んだりするのが夢でした」
「主様はリリと同じは嫌ですか?」
言葉を交わせるようになった分、色々とめんどくさ……げふんげふん。
「分かった分かった。少し分けてくれ」
「飲ませてあげます。はい、どうぞです」
「あっ、ララちゃん!主様〜、リリのも〜、リリのも〜」
二人共もう少し周りの目を気にしてほしい……。
そんな叶わぬ願いを内心呟きつつ、しばらくの間、俺たちは屋台から屋台を巡った。