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1 バイト

更新は不定期。

まずは5万文字が目標です。

頬と首に生温かくザラザラとした感触が這いずる。

目を開けると二匹の三毛猫が視界に入った。

頬を舐めているのがララ。首を舐めているのがリリ。

俺は二匹を抱きかかえるとベッドの下に降ろし、自分も立ち上がる。

ちゃぶ台には参考書が開いたままになっている。

とりあえず、トーストを焼く間に顔を洗う。

キャットフード缶を開ける。

ララとリリが餌をぱくつくのを横目で見つつ、トーストを齧りながら、数学の答えあわせをする。

「なんでこれが分からんかな……こんなことだから俺は……」

公式の単純な応用問題に自己嫌悪になりイライラする。

すると、するするとララとリリが寄ってくる。

まるで励ましているかのように。

俺は苦笑すると、二匹を膝の上に抱きかかえる。

「ここか?ここがいいのか?」

無防備な腹を掻いてやる。気持ち良さげに喉をゴロゴロと鳴らす。

あー癒される。

ささくれ立った心が癒されていく。

もしララとリリがいなかったらと思うとゾッとする。

毎日毎日、勉強漬け。

とっくの昔にストレスとプレッシャーで気が狂っていたに違いない。


俺、佐藤助さとうたすくは現在浪人中である。

世に言う最難関国立大学を受験。

模試の判定もそれなりで自信はあったが、結果は不合格。

失意のどん底を味わうこと半年。

二匹の手厚い(?)癒しによって最近になってようやく吹っ切れた。

それでも後悔の念はある。

こんなことなら滑り止めに私立も受験しておけばよかった、と。

二の足を踏んだ理由は金だった。

俺の両親は他界している。子供の頃の話で、以来叔父の家にやっかいになっていたのだが、高校入学と同時に一人暮らしを始めた。

その時渡された通帳には保険金やらが入っていて、今も千五百万程ある。

それくらいあれば仮に私立でも大学卒業までは十分だったろうが、生来の貧乏性がたたって、ケチってしまった。

それで国立一本に絞ったわけだが、浪人していては世話がない。

季節はもう夏が終わろうとしている。

今さら感はあるが、予備校とか行った方が絶対いいんだろうな……。

でも金がなあ……。


午前の勉強後。

俺はカップ麺をすすりつつ、スマホを弄っていた。

ネットでバイトを探していた。

考えた末に予備校に行くことに決めたのだった。

さすがに予備校にも行かず、模試も受けずの本番一発勝負は精神衛生上よろしくない。

ならば金がいる。ってことでバイトというわけだ。

バイトのため勉強時間を削っていては本末転倒な気もするが。

まあ、外に出て息抜きも必要だろう。

バイトの総合サイトをスクロールさせていく。

資格も実務経験もないので、基本、接客か肉体労働だろうが、勉強の片手間にできる楽な感じで、時給は千二百円程ほしい。

世の中舐め腐りすぎだろうと内心でつっこむ。

当然見つからず、早くも惰性になってきた時、一つの求人欄が目に入った。


「アトラリエ」

未成年者OK、未経験者OK

時給:2000円〜

内容:あなたがあなたのままでいられるお仕事です。


なんの考えもなく反射的に押してしまった。

すると、リンク先はレイアウトのないまっしろなページ。

「おめでとうございます。あなたは選ばれました。アトラリエに行ってくれますか?」

「YES/NO」

とだけ書かれてある。

変な広告に引っかかってしまったと舌打ちする。

腹立たしさに思わず「NO」を押す。

文面がいったん消える。再度、同じ文面が浮かび上がってくる。

落ち着けと自分に言い聞かせ、ネットブラウザの戻るボタンを押す。

だが、どういうわけか何の反応もない。

ネットブラウザどころか、スマホ自体も強制終了といった操作を受けつけない。

フリーズしてしまっている。

唯一可能なのが「NO」の無限ループだけ。

「おいおい、ウイルスとか勘弁してくれ」

修理が必要か?また金がかかるとげんなりする。

その時、「ナーッ」と激しい唸り声を聞いた。

見ると、ララとリリが飼って初めて見る怒りの顔で歯を剥き出しにしていた。

毛を膨らませながら飛びかかってくる。

腕に前足を引っかけよじ登ろうとしてくる。

俺はたまらず二匹を振り払い立ち上がると距離を取る。

「いきなりどうした。って、ちょ。お前ら、落ち着け」

執拗にジャンプしてくる。

どうもスマホを狙っている気がする。

一体何がそこまで二匹を駆り立てるのか混乱し、避けたついでに足がもつれ、ベッドに尻餅をついてしまう。

「あっ……」

そんな間抜けな声が漏れた。

なぜなら親指がスマホ画面の「YES」をしっかり押していたから。

次の瞬間、俺はまばゆい光に包まれた。

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