第7話 相棒 2 ふたりの人生設計
「ねえねえ、ヨウ」
昼下りのリビング、ソファに深く腰掛けあんみつアイスに頬を綻ばせる千景。
「なんだ、千景」
「老後のことって考えてる?」
同じソファの上、彼女の隣に身を沈め、何も思考せず静かにチョコモナカアイスを口に運んでいた陽は、急に人生設計を問われ答えに詰まる。
「ええ、考えてないな……」
「考えたほうがいいよーそろそろ」
「そう言われてもな……」
老後のことを案じるとして、避けられないのは金のことか。金なら一応心配はいらないはずだ、そこそこ稼いでいるし、投資もしている。
今、笑顔でアイスを突くこの少女こそが、陽の収入の要だった。
鏡獣を倒した際に千景に吸い込まれる鏡の屑、それは莫大なエネルギーを内包し、魔人が手を加えることにより様々な物質へと変化させることが可能だ。簡単に言えば、鏡獣の屑から金が作れる。
千景が戦闘に使う爆弾やら疑似餌やらも屑を原料としている。鏡獣は憎むべき敵であると同時に資源でもあった。
そんな資源尽きてしまえばいいとも思うが、魔鏡の根源を叩かぬ限り終わりはなく、戦いと生活に資源は必要だった。
それでも、いつかは引退する日がするだろう。千景が言うように人は老いる、人間いつまでも戦士ではいられない。
「どこか静かな田舎に引っ越すか? 千景はどうしたい」
陽はとくに他意なく千景に意見を求める。
「……千景?」
だが、彼女の表情はなぜか喫驚の色を示し、かと思うと次には歓喜に染まり、そして陽の腕にしがみついた。
「な、なんだどうした。アイスあぶねえ」
唐突な絡みつきにやや狼狽えながらも、陽はアイスを脇に退け服の汚染を回避する。千景はアイスなど気にせず、猫のように甘える仕草で幸福感を表していた。
「チカゲはねー、どこでもいいよー」
「…………」
陽はなにか返そうとしたが、何も浮かばす、口を閉ざして千景に身を任せる。
千景が、普段から陽に対してこのように愛情表現をする女の子であれば陽も戸惑うことはない。スキンシップをしないわけではないが、ここまでダイレクトなことはあまりしない。寄り添う、見つめる、冗談を交わす……いつもはその程度だ。
悪い方向の異常ではない、心配することではなが……しかし、千景は柔らかいな。そして温かい。陽は微笑ましい気分に包まれる。
家族との触れ合いは、よいものだ。
触れ合い……千景の温もりにより、遠い記憶が掘り起こされる。まだ、陽が子供のときの話。
あのときまだ陽は幼く、親を殺害されたこともあり精神が不安定であった。そんな心を癒やそうと千景が正面からハグをしてきたことがあり、その後の陽は相手と自分に見かけ上の年齢差がなかったこともありしばらく性をこじらせかけて……
ああ、思い出してきた。千景の下着を盗んだところを本人に目撃され、かなり手酷くからかわれたことを。思えばアレが今のまったく健全な家族関係につながるが、やめてくれこのメモリーは忘却の彼方へ葬ったはずだ。
陽は頭を掻く。思い出を封印しこの場から逃げ出したくなったが、いま千景を振り解いて去ろうとすればなぜ拒絶するのかと悲しい視線を注がれるかもしれない。
……まあいい、このまま少し昼寝するか。千景の少し高めの体温を感じながら溜息をつき、陽は目を閉じる。
その後、残っていたアイスは睡眠中にすっかり溶けてしまい無残な姿となった。