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幕間 落葉の憂鬱

 落葉は、漫画家志望の二十四歳だ。大学を出たはいいものの就活に失敗し、そして今はアルバイトをしながら漫画を書いている。才能の芽は生える兆候すらなく、落葉は漠然とした不安感に常に苛まれている。


 一人暮らしをしているが、これは子供がいつまでも実家にいるなという親の方針だ。実質我が子を追い出す形なので、せめて路頭に迷わぬようにとその親から落葉の口座に毎月仕送りが行われているが、それも落葉が三十歳になると打ち切りの予定だ。


「どうしようかな……」


 就職するにしても、落葉はその自信を就活の過程で粉砕されているのでまったく行動の気力が起きない。そして漫画は全くカネになっていない……金のためだけに描くわけではないけれど、お金がもらえたらとても嬉しいしお金がないと死ぬ。


 今のコンビニバイトはたまたまうまく、日勤オンリーで採用されたけれど、フルタイムではなく流石に稼ぎが心許ない。コンビニバイトは覚えることが多く忙しなく、それは良心的な店長や同僚の協力でなんとかなっているが、実入りは良くない。

 ワガママ言わずにシフトの時間を広げるか、就活するしかないのだろう。


「養ってもらいたい……」


 作業机の前に座りモニターとにらめっこをしていた落葉は、執筆のためのデジタルペンを所定のスタンドに置いて深く息をついた。


 魔鏡、鏡獣……二年前、落葉は奇妙な化け物に襲われその命を落としかけた。しかし、一人の男と一人の少女により救われこうして生きている。

 陽と、千景。彼らは、人の世を脅かす魔物たちと戦っている。

 当然それは危険な仕事であり、小さな傷なら千景の力で治療出来るのだが死の危険は常に伴うはずだ。


 そんな彼らの仕事で救われた身で、危険なことはして欲しくないというのはエゴに過ぎるし、ましてやその仕事の収入で養ってもらいたいなどと……そう思うたびに、自分が嫌になる。こんな落葉を、二人は善人と評しているようだ。


 出来るなら、なにか二人の力になりたい。戦うことなど出来るはずもなく、ならば善い知り合いとして振る舞うしかない。


「お嫁にしてくれたら、家事でも何でもしますけど……」


 命を救ってくれた男の人に惹かれるのは、それだけは間違ったことではないと落葉は信じている。

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