第37話 魔を討つ二人 2 すべて斬り裂く青い光
穴をくぐり、陽は魔鏡空間へ侵入した。
公園の魔鏡空間……大きな噴水は、天地が逆さまにひっくり返っていて、更に空中に高く浮かんでいた。配管が繋がっているはずもないが何故か水は通っているようで、地面へ向かって水を吹き出している。噴水を引き剥がされた地面は鏡面のように磨き抜かれた空間の断面となっていて、水を完全に弾いている。
遠くに見える電波塔は、やはり逆さまになっていてしかも深く地面にめり込んでいるようだった。ベンチは横倒しになっていたり半分埋まっていたりなど、到底利用できる状態ではない。樹木たちは整列という概念を捨て好き勝手バラバラな位置で枝を広げていた。
「おいおい、なんかオッサンが来たぜどうなってんだ?」
噴水がある方向とは反対の方角。ナタを持った青い顔出し全身タイツと、仮面の魔人が立っていた。
「なんか出れねえしよお、おめえの仕業かオッサン」
魔人は、手に何か持っているが少し距離が離れているためハッキリとは視認できない。だが間違いない、陽にはわかる、ソレは千景を封じたクソ鏡だ。
「……聞いてんのかオッサン! 答えろや!」
実にチンピラらしくイラついた男が、ナタを振りながら歩み寄ってくる。
陽はソレを眺めつつ、ポケットから羽根を取り出した。黒に染まった、一枚の艷やかな羽根。
「あん? なんだそりゃ」
チンピラは怪訝な様子で問う。それに対するこちらの答えは、極めて端的だ。
「これか? これは……そう、愛だな」
「はあ? なに言ってんだ」
「おまえには理解らねえだろうさ。──来いっ、新月!」
鏡像の天へ向け、羽根を掲げ上げる。陽の魂から、力が導びかれ羽根に集う。ソレは一つの形を──剣の形を成し、陽の手の中で実体化した。
光飲み込む闇の刀身と、加護を装飾する白銀の羽飾り、
「……さあ、覚悟はいいか」
新月。陽は剣を手に、悪しき者を殺意で捕捉する。
「はあ? なんだよその武器は。一体なんな──」
もはやチンピラと会話する意味はない。言葉を待たずに陽は地面を蹴り突風の如く男へ飛びかかった。反応が遅れたチンピラへ陽は遠慮なく右腕で新月の刺突を繰り出す。
やはり、その攻撃は防がれる。チンピラは棒立ちだが、その前方に飛び出した魔人が魔力障壁で陽の攻撃を受け止める。壁は身代わりとなってもろく崩れ去った。
「邪魔だぜどいてな!」
崩れた壁の向こう側へすかさず陽が叩き込むのは脚部。乱暴なケンカキックを受け魔人の体は軽々と硬いタイルの地面にころがった。
「てめえこのやろう!」
その様子を見てキレたチンピラが陽へ向かいナタを振り下ろす。単純なナタの軌道は、軽いバックステップで容易に回避できる。下ろしたナタは次には振り上げられ、しかしこれも陽の鼻先の空気を切るのみ。
「ほう、仲間意識はあるんだな。チンピラにしちゃ立派だ」
「ああ!? なめてんじゃねえぞ!」
「舐めるさ。ヒトの生命を舐めてきたてめえに敬意なんか払わねえよ」
「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ!」
ただ振り回すことしか知らないチンピラは、陽がその雑な攻撃を回避する度に苛立ちを増していく。そうだ、もっと興奮しろ。スキを晒せ。
「どこ狙ってやがる? 青いおサルさんよ」
「ああ!? てめえ死ね! おい魔人起きてんだろあれよこせ!」
起き上がって様子を見ていた魔人が、手に青く光る魔力球を生成する。それは陽ではなくチンピラの武器へと放たれ、そのナタは魔力を取り込み光の奔流を生み出した。
「おいおい、おまえも必殺技持ちかよ……」
ナタの刀身から溢れ出す光は、そのまま巨大な刀身を形作る。光によってナタを長大、巨大化させたそれはハイパービームナタとでも呼ぶべきか。大型噴水をまるごと一つ余裕をもって切断出来そうな光の刃、正直羨ましい。
「こいつが避けられるか! くらいやがれえええええ!」
避けられない。長大な刃は地面と平行に、円を描くように振り回される。ほぼ光であるそれに重量はほとんどなく、空気抵抗もわずかに高速で振られ、鉄柵や銅像を容赦なく切断しそのまま陽の肉体へ迫る。刃が長すぎる、逃げ切れない!




