第3話 破壊者の住む町 3 変身
「さて……」
空間に空けた穴をくぐり抜け、陽たちが辿り着いた場所。そこは、地下歩行空間だった。
先程までも地下歩行空間にいたのだが、眼前の光景はソレとは大きく異なっていた。
人間がいない。陽と千景の二人の他は、男も女も通勤者も観光客も、人間というものがひとつも存在していない。天井の照明はなにも意に介さず機能し続け、地下の視界を確保している。
「千景。生体反応は?」
「ないよ。感知範囲内には」
「そうか。鏡獣反応はいくつだ?」
「えっと、すごいたくさん」
人間はいない。だが、陽たちを歓迎する者は存在した。
カラフルな色付き鏡のパッチワーク人形とでも呼べばいいか。ほぼ大人の男サイズのそんな化け物……鏡獣の群れが、陽たち四方を取り囲んでいた。現世の人間たちほど多くはないが、視認の限界距離まで群れていて数えるのが嫌になる。
その中、陽たちの近くにいる一体がなにかを食べていた。棒状のそれは、見間違うはずもない──人間の腕だ。先程大声で話していた女子高生たちの制服、それとよく似た袖布が張り付いている。
その鏡獣は掻き込むように袖布ごと腕に齧りつき、豪快な音を立て噛み砕き、あっという間にすべて嚥下してしまった。爪の一枚もそこには残らない。
人間を食ったのだ。これは、そういう存在だ。
かつて陽の両親を殺害し、落葉を傷つけた、世界中のいたるところに巣食う異形。
人を攫い、食らう化物たち。
「……まあいい、全部壊すだけだ。千景!」
「あいよ!」
千景が天井へ向けて腕を突き上げる。開いた手の平が赤く眩く輝き出す。
光は球となり、そこから幾筋もの閃光が迸る。閃光は線となり曲がりくねり螺旋となり、千景と陽の全身を余すことなく食らい包み込む。
光がすべてを覆い、その中で千景が拳を握る。
拳に握り潰されたかのように、赤き光がすべて弾け飛んだ。弾けた光の粒子は近くにいた鏡獣共を襲い強く吹き飛ばす。
赤の中より現れしは、黒。
黒いドレスワンピースを纏い、白銀の大翼を背負う少女。
漆黒のマントを背負う、黒革鎧の男。頭部を守るは白銀の羽根つき中折れ帽。
男の手には、紅に光る刀身を持つ一振りの片手直剣。
陽は、自慢気にその刀身をそっと撫でた。
「働いてもらうぜ、暁月」