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幕間 落葉の憂鬱 2

 朝日射し込むひとりきりのリビングで、落葉はパジャマから着替えもせずにスマートフォンを睨んでいた。


 スマホに恨みがあるわけではない。そこに表示されている情報は、とても喜ばしいものだ。


 それは、千景から送信された個人別メッセージが表示されているSNSアプリの画面だ。彼女が陽と仲直りしたことが報告されている。落葉は当たり障りのない祝福のメッセージを返したのでそのやり取りはもう終わっているのだが、しかし落葉は睨み続ける。


 やはり、二人は互いへの依存度が高い。それ自体に問題はなくその愛は素晴らしいのだが、千景は落葉と陽をくっつけようとしている。

 おそらく、千景の中でこれは矛盾していない。千景は、三人で暮らそうとしている。三人でキャッキャウフフしたいのだ。


 それは確かに理想的ではある。しかし、落葉がそこまで寛容になれるかというと……

 落葉と陽がそういう関係になるとしたら、生々しい話だがそこには当然ながら性生活が絡むのだ。千景はそのあたりをキチンと理解して想定しているのだろうか。


 千景の幸せを壊したくはない。落葉と千景の実年齢には大きな隔たりがあるが、彼女は落葉の友人であり、落葉は他に友人をもたない。


 陽がスパっと答えを出してくれればいいのだ。どうするつもりなのだ……千景がこの落葉のことをどのように彼へアピールしているのかは知らないが、なにかは確かに行っているらしい。落葉自身も、まあ、多少は色目使ってみたりしている……気づいていないとは言わせない。


 その上でもし陽が落葉を拒否するのならさっさと明確に拒否の意思表示をすればいいしその選択権は陽にあるのだ。それなのに陽はいつまでもハッキリと示さず……これだから童貞は困る。

 ……童貞云々については落葉もまったく同じなのだが。


 そも、一度命を救われたからといって、落葉がいつまでも彼に執着する必要はないのだ。誰と共にあるか、その選択権は落葉にある。

 陽など、情けないオジサンで、あまりイケメンでもないし、童貞だし……


 でも、優しいし、強いし、生活能力あるし、困ったことがあったら気軽にたすけてくれるし……

 なにより、あの日差し伸べられた手のことを落葉は忘れる事ができない。


 まだ子供のように夢見がちな落葉にとって、彼との出会いはまさしく王子様の到来だった。王子様と呼ぶにはやや萎れているし、崇拝されるような人でもないけれど。


 落葉は、姫でもなんでもないただの一市民である。今日の仕事は午後からだ……今はまだ朝なのだから、少しゆっくりしよう。

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