第16話 相棒 11 いっしょにねんね
太陽の力はとうの昔に失われ、遮光カーテン越しに入り込む薄明かりのみが仄かな視界を確保している。
その光の中、少女が安らかな寝息を立てていた。口を半開きにして、実に心地よさそうに眠っている。
「かわいいもんだな……」
自室のシングルベッドの上に寝そべり、陽は、人形めいた美しさを持つ少女を見つめていた。
同じベッドの上で、二人が向き合う形で横になっている。一枚の夏用掛け布団を二人で被り、互いの熱を共有しあう。少女は……千景はかなり小柄とはいえ、やはり狭小感は否めない。だが、寝心地はそう悪くない。
同じベッドで千景と寝るのは何年ぶりだろうか。家族になってはじめのころは、わりとよくこうしていた気がする。
そもそも陽はべつに千景と一緒に寝たかったわけではないのだが、あのように誘われて断る理由もまた皆無だった。
多少の気恥ずかしさはあるものの、こうして穏やかな気持ちで夜を過ごせるのだから、問題などなにひとつない……マザコンやシスコンのそれに近いという自覚はある。それもけっこう重度の。
結局、陽は自分の気持ちをまともに言葉にすることがほとんど出来なかった。それでも千景に受け入れてもらえたのは、落葉が言うようにそれまでの二人の歴史があったからなのだろうか。そこに甘えすぎればまた亀裂が生じるかもしれないが、信じるべきものはあるのだろう。
陽が割った窓だが、アレは段ボールを貼り付け応急処置を施した。幸い、と言っていいのか防犯上は疑問だが隣人からの通報はない。
窓ガラス、というのは基本的に高額であり二枚修理となると費用は万を超えるだろうが、まあ、このなんの不安もなさそうな寝顔に比べたら安いものだ。
視界すべてを埋め尽くすカネを積まれても売り渡すことなど出来ない寝顔に、陽は、静かに手を伸ばす。確かな温もりが、そこに千景がいるということを実感させてくれる。
今日はいい夢が見れそうだ……陽は、深い安穏の中で目を閉じた。




