第11話 相棒 6 銃声と共に笑う者
家に火を放たれたとなると、屋内で身を隠すという道は捨てざるを得なかった。焼け崩れる他人の家と心中するつもりなどない。
とはいえ素直に正面から出ればそのまま犬の餌食となる、ならば裏から脱出するしかない。陽はキッチンのシンクに土足のまま跳び乗り「脚いってぇ……」そのままそこの窓を開け、
「……ちっ、気配がしやがる」
鏡獣の存在を肌で感知しながらも、その窓から外へ、住宅の裏庭へ飛び降りた。
「……いてて。やっぱりいやがるじゃねえか、たくさん」
様々な雑草が好き放題に茂る裏庭で、陽は鏡獣の群れに囲まれることとなった。数は六か……人型の基本的な雑魚鏡獣だが鋭利な四肢は人体にとって脅威であり、そして多勢に無勢であった。
準備さえあれば、雑魚鏡獣が数を揃えても陽の敵ではないのだが。
「犬よかマシだが……」
陽は覚悟を決め拳を構える。なんとか一撃お見舞いして怯ませその間に逃げよう。そうだフライパンでも借りてくればよかった、と気づいたが時既に遅し。
鏡獣の指が、獲物の血を求めヌルリと蠢く。
こちらから動くのは危険か。カウンターを狙うか……
「さあ、こいよ鏡オバケども!」
「動くんじゃないよ!」
陽の挑発に誰かの指示が鋭く重なる。陽以外の人間の声がそこにあるはずはなく、陽は反射的に声がした方向へ顔を向ける──上だ。
女が、宙に浮いていた。
そして銃声。乾いた破裂音が連続して周囲に響き陽の全身を包む。
「うおい!?」
これには陽も怯み上擦った声をあげる。
屋根ほどの高さか、どういう原理かまったく下降することなく女は空中に留まり続け、そこから地上の鏡獣たちへ銃弾の雨を浴びせる。二丁の拳銃が放つ弾丸は鏡獣たちの身に容易く穴を穿ち破壊していく。
地上にいる鏡獣たちは反撃のしようがない。無抵抗に撃たれ続けて一体が倒れ、二体が崩れ、三体が砕け……裏庭の鏡獣たちは、すべて拳銃により滅せられた。
安全が確保された裏庭に、女は紙風船のように緩やかに降りてくる。トレンチコートに身を包んだ、初老の女だった。
「無事かい、ぼうや」
キャスケット帽の下、女はそう言って不敵な笑みを見せた。




