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幼女とおっさんは公園組

作者: 桐乃霧ノ助

「ふぅ。疲れた。」

ベンチに体重を預ける。

ミシッとベンチが軋む音がした。

そっか、お前も頑張ってるんだな......なんて感慨深く思いながらぼうっと空を見つめた。

こんな日曜の昼下がりぐらい、ぼうっとテレビでも見て過ごしたかったのだが......

『ホラ!手伝わないんだったら早くどっか行きなさいよ!掃除の邪魔なんだから!』

そう妻に怒られてしまった。

無理に掃除を手伝えと言わないところに優しさがあるが、そこは俺が平日に稼ぎに出ている分でお相子(あいこ)である。

何もやることなんてないしなぁ......と思いながら胸ポケットをまさぐる。


「おじちゃん、何してるの?」

「何もしてな......ん?」

どこから声が聞こえたんだ?

ベンチにもたれかかっていた体を起こして辺りを見渡す。

......誰も居ない?

「おじちゃーん。おーい!」

声が聞こえたのはもっと下だった。

そこに居たのは真っ白いワンピースを着たツインテールの可愛い女の子だった。

「おじちゃん、おじちゃん!一緒に遊ぼ?」

ぴょんぴょん飛び跳ねながら興奮気味に問いかけてくる。

......何だ、このちっこい生き物は!?


--------------------


「ねー!遊んでよー!!」

「嫌だよ。」

「えー、ケチー!」

ブーブーとまるで逃げ出すプロレス選手を見ているかのようなブーイングを受ける。

「おじさん、暇じゃないんだ。」

嘘である。

もしも幼女と遊んでいて親御さんに見られでもしたら、どう言い訳していいのか分からない。

「だっておじちゃん、何もしてないって言ったじゃーん!『ウソは男をだます時以外使っちゃいけない』っておかあさん言ってたもーん!」

親御さん!?独特すぎだろ!?


「おじちゃん?それ何?」

幼女は俺の胸ポケットを指さす。

取り出しかけていたタバコの箱がはみ出ていた。

「これはねー......子供が知らなくて良いヤツだよ。これやると体が悪くなっちゃうんだけどね、おじさんどーしてもやめられないから続けてるんだ。」

タバコの値段も年々高くなっているし、嫌煙家も幅を利かすようになってきた。

今が潮時だと思い続けてはや何年。

結局、気が付いたらスパスパやっているのである。

「あかねもついついおやつ食べ過ぎちゃうんだー。よ〇ちゃんイカおいしいよねー。手が止まらなくなっちゃう。」

おやつの好みが渋すぎる!

「おとうさんはナッツばっかり食べてお腹ボンッてなっちゃったし、おかあさんはチョコばっかり食べてお腹ボンッてなっちゃった。おじちゃんも気を付けないとお腹ボンッてなっちゃうよ。」

「大丈夫。これ吸ってもお腹ボンッにはならないから。」

でももっと危険なことにはなるんだよなぁ。

......一回、禁煙外来行ってみようかなぁ......


--------------------


結局、俺はあかねちゃんと遊んでいた。

『おじちゃん......私の事嫌い?』

なんて言葉を潤んだ目で上目遣いで言われたら誰も断れるヤツなんていないだろう!

あかねちゃん、将来絶対に大物になるよ。おじちゃんが保証してあげよう。


「ホラ。たかいたかーい。」

「おー、すごーい!」

めいいっぱいに腕を高く上げてグルグルと回してやる。

キャッキャッと喜んでいる姿を見るとなんだか和む。

「次はもっと高いほうが良いなぁ......そうだ!あそこでやって!!」

ジャングルジムを指している。

「殺す気か。」

あかねちゃんは「えー」と言いながらこちらを上目遣いで睨んでいる。

「ダメなものはダメです。」

「じゃあ、なんか面白いことやってよ!」

「それって無茶ぶりって言うんだよ、あかねちゃん。」

ん?待てよ......

一つある、面白いこと。


「えー、ここに一本のタバコがあります。」

「うん。」

「これをこうやってこうすると......ホラ!消えた!」

「え!?ウソ!すごーい!!」

俺の持ちネタ、つまるところ宴会芸だ。

上司からもウケが良い。

「そしてこうすると......こっちから出てきます!」

「すごい!すごーい!!どうやったの!?おじちゃんは『ちょーのーりょくしゃ』だった......?」

「そしてこうすると......ほい!増えた!」

一本ずつ仕込んだタバコを出していく。

あかねちゃんは目をキラキラ輝かせながらその様子を見ていた。

ぴょんぴょん飛び跳ねている。

父性が呼び起こされるほど可愛い。

「いいなー!私も増やしたーい!!ト〇ポ一本ずつ増やしてたくさん食べるんだー!おかあさんとおとうさんも増やしてみんなでいっぱい食べるんだー!!......待てよ。そしたらあかねが食べる分が無くなっちゃう。」

「かしこい。」

大分感覚がマヒしてきた。

「そうだ!おじちゃん増やしたらたくさん作ってくれるじゃん!あかねかしこい!!」

「俺は幼女にも社畜に扱われるのか......」


--------------------


「いやー、たのしかったぁ!!」

あの後、何回も何回もやってやってとせがまれたのでついついやってしまった。

おかげで指が疲れた。

「そういえば、なんで俺に話しかけたんだ?」

知らないおじさんには話しかけられても話すなと言われているような世代なのに、こんなおっさんに話しかけるなんて勇気があるなと思ってしまう。

「だっておじちゃん暇そうだったんだもん。」

「そうか?」

「やることなくてぐったりしてた。あかねもぐったりしてたし話してみようと思って。」

「へー。すごいね。」

大人になると知らない人にまで気に掛ける事をしなくなってしまう。

あかねちゃんはすごいと言われて少し不思議そうな顔をしていた。

それでいいのだ。

できればずっとそのままの心を持っていてくれと願う。

「おじちゃん!一緒にアレしよ!」

「分かった分かった。」

幸いまだまだ時間はある。


--------------------


それから沢山遊んだ。

シーソー、ブランコ、ジャングルジム。

公園には色々なものがあると改めて思った。

子供の頃は友達があまりいないタイプだったので公園の良さがあまり分からなかったが、今なら分かる。

こうやって遊ぶ時には友達と一緒の方が何倍も楽しいのだ。

そう分かったところで今更感が強いのだが......


そして少しはしゃぎすぎた。

「おじちゃん。ごめんね。」

「良いんだ......気にするな。」

俺の腰は爆発寸前になっていた。

最近は外に出て体を動かす機会がめっきり減っていた。

これが良くなかった。

今、動いたら死ぬ。

そんな感じだ。

「あぅっ!」

あかねちゃんがツンツン触ってくる。

「ツンツンするんだったらもんでくれればいいのに......」

「こう?」

ふにゃっとした柔らかい手が俺の背中を押す。

予想外の感触に少し体が驚いたが、気持ちよさで上乗せされて消えていく。

「もうちょっと下......」

「こう?」

「あぁ~そこそこぉ~」

気持ちよくてついつい変な声が出てしまう。

「もうちょっと強いほうが良いかなぁ......」

自然と心の声が漏れる。

マッサージ系の店に行ったことは無かったがこんな感じなのだろうか。

それならそういう店も良いなぁと思った。

「それじゃあしつれーして......」

「うん?」

あかねちゃんが靴を脱いでいる。

これはもしや......!?

「ふみふみ。」

「はぅあっ!?」

「どうかしたの!?」

「いやっ!そのまま続けて......下さい。」

この世のモノとは思えない感触、天にも昇る気持ちよさ。

「おきゃくさーん。これぐらいですかー。」

「ほえー。」

最早、気持ちよすぎて言葉も出ない。

重すぎない重さ。

「よいしょ。よいしょ。」

足の裏の極上の柔らかさ。

かかとの心地よい硬さ。

趣味嗜好が激変してしまうぐらい甘美な感触だ。

「おきゃくさーん、良い顔してますねー。」

「ほえー。」

どこでそんな言葉を覚えたのかというツッコミすらできない。

こんな時間がいつまでも続けばいいのに......


--------------------


「おじちゃん。ありがとうは?」

「本当にありがとうございました。」

「どういたしまして!」

あかねちゃんが得意そうな顔をしている。

「なんだかここに来る前より疲れが取れたような気もするよ。」

「じゃあ、お代は100円になります!」

「こやつ図太い。」

本当にどこでこんなことを覚えたのだか......


「そういえばさ、あかねちゃんはどうして公園に一人で来てるの?おかあさんとおとうさんは一緒じゃないの?」

「実はおかあさんとおとうさん......今、ケンカしてて。『そこの公園で遊んで来なさい!』って言われてきてたの。」

「......なんか、ごめん。」

自分から聞いておいて何だが悪いことを聞いてしまったと思う。

人それぞれに家庭の事情がある。

気を良くしていたからか、少しデリカシーに欠けた質問をしてしまったみたいだ。

「確か、たけのこがどうとかきのこがどうとかで大ゲンカになっちゃって......」

「うん。なんか心底どうでも良いケンカだから多分それは帰っても大丈夫なんじゃないかな?」

心配した自分が間違っていたような気がした。

「ホント?よかったぁ。」

あかねちゃんが心底ほっとしたような顔をした。

その笑顔が見られてよかった。


--------------------


不意にスマホが振動した。

スマホの画面には『あなたの可愛い妻』と書かれてあった。

勝手に変えられたのだろう。

別に見られて恥ずかしいことはあるが、やましいことは無いので別に良いのだが......

『せっかく外に出てるなら、卵と牛乳買ってきてくれない!?たりなくなっちゃって!あと安いものあったら......って言っても分かんないか!じゃあそれだけよろしくー!』

ツーツーツー。

流石のマシンガントーク。

電話で会話すら成り立たせない手際の良さよ。

「あかねちゃん。おじさん帰らなきゃいけなくなっちゃった。」

「ほんと!?」

「あー、すまん。じゃあな。」

俺はその場を立ち去ろうとした。

「おじちゃん!」

振り返るとそこには不安げな顔をしたあかねちゃんが居た。

「また来てくれる?」

首を傾げてそう言う。

「ああ。きっとな!」

「じゃあ、あかね達は『こうえんぐみ』だね!」

公園組か。

幼稚園にそんな感じで組の名前があったな......なんて思い出す!

「ああ。そうだな!」

「またね!」

「またな!」

今日はあっという間に時間が経ってしまった。

また会いたい。

そう思いながら俺はその場を立ち去った。

読んでくれてありがとうございます!

幼女との掛け合いを楽しんでいただけたならこれ以上の喜びはありません!


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毎週日曜に短編を出しているので、お気に入りユーザー登録すると自分が書いている長編の更新内容とともに届くので一石二鳥だと思います!


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