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魔王、貴族と交流する

「失礼、勇者様」

私は勇気を持って彼に声をかけた。

他の3人には王家がつけたと思われるボディガードが張り付いており、彼らの目にそぐわない者は挨拶さえままならない。

しかし、彼にはその類いがいない。

……あの3人は子供だが彼は成人している。

その為、自由にさせているのか?

理由はわからないが、勇者と近づきになるのは先も述べた通り政治的に良い事だ。

「私はスティーブン・クロフォードと申します。

このヒト族が治めるトワイライト王国の貴族籍に名を連ねる者でございます。」

紳士の礼をする。

彼は酒を飲みながら冷ややかな視線を送ってくる。

何故か冷や汗が出た。

勇者……偽物?偽りのスキル?

子供達3人はわからないが、この青年は少なくても本当な気がした。

「ところで…あちらはいいのか?」

「はい?」

「あれはお前の息子だろ?」

顎で指し示された方向をみれば……

「なっ!?」

息子がいた。

その息子が聖女様の元に行っていたのだ。

目を剥くにふさわしいだろう。

てっきり怒って頭を冷やしに中庭にでも行ったと思ったが。

いや、聖女様の元に行くのはいい。

問題は

「タイミングが悪いなぁ」

「まさしく。」

思わず頷き自然現象以外の理由で酒を飲む。

うむ、美味い。

思わず顔が綻ぶ。

そんな場合ではないのだが。

「この酒は美味いな」

勇者様が話しかけてくる。

「本当に…ああ、このような状況でなければ天上にも登れるでしょうに……ああ、失礼、私は息子を回収してきます。」

「それはやめた方がいいとおもうぞ?」

「何故ですか?」

「あの状況下で親が出しゃばること程恥ずかしいこともないだろう」

「………たしかに」

私は納得して改めて今の状況を見る。

息子が聖女様にお近づきになろうと近づいた。

丁度、ボディガードの目に敵わない令息達が追い払われひと段落ついたところだった。

ある意味絶好のタイミングで聖女様に顔を覚えてもらえる事も可能な瞬間だったといえよう。

偶々そのタイミングを見てしまったからこそ息子は私のハッパを真に受けてしまったのかもしれない。

しかし、そのタイミングに動いたものがもう1人いた。

あるいはあのタイミングで有象無象が引いたのは彼が動いたのを目ざとく察知したからかもしれない。

ギルバート・フォン・トワイライト

彼こそが我が国の王太子殿下である。

次期国王のこの方は間違いなく政治的手腕は現王を凌ぐものをもっている。

敏腕すぎることで知られる宰相殿も一目置いている存在だ。

しかし、人には美点あれば欠点もある。

彼の欠点、それは傲慢不遜自信過剰。

自分が人の上に立つものだと信じて疑わない男なのだ。

その彼がわざわざ己の足を聖女様の元まで運んだのだ。

基本、気に入った女は呼び寄せる殿下の珍しい対応、それにかちあった息子。

もう、一波乱あるようにしか思えない。

事態悪化を防ぐために息子を回収しようとしたら勇者様に止められた。

これは理想の女をモノにする男の戦い、たとえ相手が一国の王子であっても引くべきではないということか!

私は勇者の男気に感動する。

しかし、そうは言っても親としてはヤキモキしてしまうもので……

「この酒も美味い」

別の酒を飲む勇者様。

何種類もの酒がここにはあり、どれも美味い。

勇者は酔うようなそぶりも見せず酒を楽しんでいる。

かなりの度数なのだが、自分と同じくらいのペースで飲んでいく。

自分と同じペースで酒を飲めるのはドワーフくらいと思っていたが……

こんなことで好感度が上がる自分は実に単純だと自嘲する。

「なんだ!貴様は!!無礼だぞ!!」

その時、場を壊す勢いで王子の声が響き、慌てて私はそちらを見た。




***

sidエルゼル


どうしてこううまくいかないのか!!

私は腹ただしくて仕方がない。

私はあのクソったれが貴族の誰か…狙いはクロフォード侯爵とトラブルを起こせばいいと思っただけだ。

クロフォード侯爵は普段は温厚だが、一度切れるととんでもない強さを誇る。

年を重ねているが、今なお前線で魔族と剣を交えているのだから。

彼にちょっと撫でて貰えばあの不遜な人を一段低く見る男も猫のようにおとなしくなると踏んだ。

だから彼を侯爵のいる酒コーナーに誘導したのだ。

クソはこちらの目論見通り酒コーナーに移動した。

しかし、予想外だったのが途中通ったデザートコーナーで足が止まった事。

そしてあろうことか、全てのデザートを味見し始めたのだ!!

王家のパーティで用意されたデザートの種類がたったの数種類なんてことはなく。

数えてみたら25種類あった。

それを丁寧に一つずつ、場合によっては近くの給仕に声をかけて説明を求めたりしていた。

給仕もわかりませんとか言って逃げればいいものを丁寧に答える。

シフォンケーキにはいっている蜂蜜がどこ産かなんてどうでもいいよ!!

そのせいでクロフォード侯爵の元までたどり着くのに時間がかかってしまったのだ。

時間がかかってしまったせいで侯爵の近くにいた血の気の多い息子が侯爵から離れてしまった。

侯爵は大人だからそう簡単に切れないが、息子は違う。

怒りの沸点が低い。

きっとクソの態度に簡単に切れてくれるだろう。

息子が切れれば侯爵も息子を嗜めるような流れで軽く一撫でしてくれるに違いない。

そう踏んだのに。

それでもあのクソの態度はひどいからきっと侯爵すらも切れるだろう。

軽く撫でられた後私が助けてやれば、言うことを聞くようになるはず……

そう思っていたのに!!

何、普通に交流してんの!

いつもの態度はどうした!

侯爵にビビったか!!?

こいつなら禁断のセリフを出会って5秒で言うと思ったのに!!

当てが外れてイラついていたせいで息子がどこで何をしているのか気づいたのは、王子の声を聞いた時だった。

ばっと振り向けば、王子と息子が聖女の前にいた。

聖女の横にはアルフレッドが困惑していた。

「貴様、この私を誰と心得ている!?

いずれは国を率い、ヒト族を纏めあげこの世の平和と安寧を確かなるものにする男ぞ!」

「しかし、女性の扱いを知らないように思えるな。

聖女様は殿下に対して怯えているように思えたのだが?」

さすがは血の気が多い息子、傲慢不遜な殿下に一歩も引かない!!

「それはそうだろう、聞けば聖女殿は元の世界では一般市民…こちらでいうところの平民だったようだ。

それが一瞬で一国の王太子より直接声をかけてもらえるような立場になれば恐れるのも当然の反応といえよう。

しかし、それは環境が違いすぎて慣れていないだけであり、私そのものを拒否しているわけではないのは明白であろう。」

ギルバート殿下は才能が確かにあり、高貴な血筋に相応しく麗しい外見をしている。

その為、貴族令嬢からのアプローチは数多くあり、女性を袖にした事はあれどされた事がない男であった。

故に環境だけでなく王子のその傲慢さが苦手で怯えているなどと露にも思わない。

しかし、血の気こそ多いが人の心の機微に鋭い息子は聖女の心を的確に理解していた。

「いや、聖女様はあまり人馴れしていない様子。

故に殿下のその強引さに怯えていらっしゃるのです。」

「女は強引な男が好きなものだ」

但し美形に限る。

誰が言ったか格言が頭をよぎる。

王子は美形だが、強引にも程がある。

何事も程度というものがある。

「それは思い込みでしょう。

少なくても今は聖女様から離れて聖女様が落ち着くのを待つべきです。」

息子は至極真っ当なことを言った。

しかし、傲慢不遜さがなければねぇと言われる王子にその言葉は逆鱗に触れた。

「この私に命令するか!」

「そんな命令など、私は…」

「蜥蜴風情が!!!」


一瞬。

場が静かになった。


王子がしまった!といった表情をみせた。

自分でもわかったのだ、頭に血がのぼるに任せて言ってしまったこの言葉が所謂禁句であったことを。


「誰が…」

「「「蜥蜴だぁ!!」」」


この場にいたドラゴノイド全員がハモった瞬間だった。


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