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魔王、パーティーに出席する

エルフ2人に先導されて私達は大広間に足を踏み込んだ。

500もの貴族達が私達に注目している。

耳をすませば聞こえる言葉。

曰く、本当に異世界から来たのか?

曰く、本当に魔王を倒してくれるのか?

曰く、大人が1人いるとはいえあんな子供に人類の未来を託してよいのか?

曰く、本当にたいそうなスキル持ちなのか?

曰く、あんなどこの馬の骨ともしれぬ者より私こそ勇者に相応しい。

懐疑心と好奇心と対抗心が渦巻いていた。

私達はロバートの言われた通り王の前につく。

王は鷹揚に頷くと私達と並んで貴族達と向き合った。

「さて、皆の者、今宵は私の呼びかけに応えて王城まで来てくれた事を感謝しよう」

魔法の効果で隅々まで響きわたる王の声。

「皆を呼んだのはひとえに我が国に仕える魔導師達が異世界より勇者を呼び寄せる事に成功した為だ。」

貴族達が王を見つめ、勇者たる私達を見つめる。

「皆も知っている通り、現在我らヒト族は魔王を戴く魔族と戦争中である。」

戦争ときいて3人が僅かに反応を見せた。

……あ、そうか150年前は憲法改正前か。

戦争を知らない世代かぁ。

戦争放棄時代の子は戦争アレルギーがあるってきいたぞ、大丈夫か?

「魔族達はヒトより体力も魔力も知識も何もかもが優れている。

しかし、強者としての振る舞いは傲慢不遜そのものであり、我らを虐げるばかり。

我らは魔族に対抗すべく剣をとり戦う道を選んだが、その道は険しく想像より困難きわまりなかった。」

ようは抵抗したけどちっとも歯が立たず異世界に助けを求めたと。

弱者は強者に従えって知らないではむかったんだから大人しく殺されてしまえばいいのに。

「しかし!我らは決して膝を折らない!

我らヒトの忠誠は魔には無い!

我ら正義の心は遠く離れた異世界に届き、神の導きを経て助けに来てくれた者こそ勇者なり!」

いや、ある日突然呼び寄せた、はっきり言えば拉致ですよ、拉致。

なに勝手に私達が駆けつけたって事にしてんのよ。

「彼らこそが我らの窮地に駆けつけた勇者達なり!」

おおっと小さな声が場を支配する。

「1人は魔法と剣を操る魔道剣士。」

直美の肩を触れる。

直美はビクッとした。

「1人は神が選んだ最強の男。」

裕太の肩に手を置く。

「1人は神の声を聞く聖女」

貴族達が美香に注目する。

そして私のところに来て肩に手を置いた。

「そして彼こそ人知を超える魔力を持つ者。」

「彼らが力を合わせ、軍を率いて必ずや魔族と魔王を倒してヒトの世に平和と安寧を齎すと信じている!」

おお!

拍手喝采が鳴り響く。

王は手を挙げそれに応える。

人生経験の足りない高校生達は顔を引きつらせながら必死で笑顔を作っている。

その拍手喝采の中、聞こえる声を拾うと。

曰く、軍の士気向上の広告塔か

曰く、そんなたいそうなスキルを持っているようには見えない

曰く、勇者としての風格が足りない

曰く、大人1人に子供3人になにが出来る

曰く、勇者なんかに頼らず軍の強化をすべき

曰く、俺の方が….私の方がすごいスキルを持っているし、軍を率いる才能がある!

などなど。

しかし、皆表面上はうまく繕っていたし、魔王の聴覚だからこそ聞き取れた雑音だから勇者3人は彼らの胸の内を知る事なく受け入れられたと信じて疑っていない。

ここにいる殆どが勇者に懐疑的だと知ったらどんな顔をするのかね?

「さあ、皆で勇者を歓迎し、そして必ず訪れる近い将来の平和を祝して!」

王が酒の入ったグラスを高々も持ち上げた。

「乾杯!」

貴族達も合わせてグラスを持ち上げ王に合わせた。

そして歓談に入る。

「さて、勇者方も存分にこの宴を楽しんでくだされ」

「いえ、私達はこのような場に慣れておらず…」

どうしていいのかわからないらしい。

「案ずる事はない。常に其方達の側には指導者達が侍るよう通達済みだ。

何か困った事があれば彼らを頼ればいい。」

王の言葉にほっとした表情を浮かべてそれぞれに与えられた指導者を見る。

彼らも当然ながら着飾っており、エルフの美貌を一際際立たせていた。

「美香様、あちらに美味しい花菓子がありますよ。

不肖、このアルフレッドが道中護衛致します!」

その物言いにクスクス笑う美香。

冗談めかして言っているが、俺の方が勇者に相応しいと思っている人が意外に多いのも事実。

3人は確かに異世界基準で強力なスキルを持っている。

だが、ゲームでいうところのレベル1。

魔法なんて見た事ないし、剣なんて握るどころか実物を見たこともないだろう。

これなら通常レベルのスキル持ちが襲えば勝てるのは確実だ。

そんなアホな事をする奴がいるのか?

いきなり殺す気で武器を振り上げてはこないだろうが、多少の嫌がらせはされるとみて間違いない。

そして、その嫌がらせに一番耐性がなさそうなのが聖女美香である。

特にたくさんの人たちの前に出るという行為は彼女のキャパを超えた緊張を齎したようでガッチガッチに硬くなっていた。

アルフレッドは自然に悪意ある者から彼女を守るポジションを手にすると同時に硬くなった体をほぐしたのだ。

中々優秀である。

その流れを逃さず、レイフォルとユーリ、エルゼルも動く。

「勇者様、あちらにドワーフがこの日のために仕込んだお酒がありますよ。」

「へえ?」

ドワーフは酒好き。

どうやらこの世界でもドワーフ=酒の図式は成り立つらしい。

そしてドワーフの酒、異世界だからこそ楽しめるものに私は目がない。

期待に胸を膨らませそちらに向かう。

少し離れてエイゼルがついてくる。

他の3人についている指導者はぴたりとくっつく勢いなのに対してエイゼルは明らかに私と距離をとっている。

これはあれか。

即ち一度痛い目みやがれと思っているのか。

さて、本当に痛い目見るのは誰だろうね?




***


異世界から勇者が来たと大々的に発表された。

ヒト族と魔族の戦いは血で血を争う醜いものである。

王は圧倒的に魔族が強いと言うが実際は気持ちあちらの方が強い程度で殆ど差はない。

数が多い分時間をかければヒト族の勝利は確実であろう。

しかし、それでは失うものが多く、得るものが少ない。

そう国の中枢部は判断したのだ。

そして10年という長い月日をかけて勇者召喚を行った。

この10年は何かを得るための戦いではなく失わない為の戦いであり、同時に絶対に講和などしない戦争であった。

そして最小の労力で最大の効果をあげる為に異世界から呼び出されたのは4人の男女。

1人を除き黒目黒髪象牙の肌を持つ異国情緒あふれる少年少女であった。

異世界から呼ばれたものは神より祝福が与えられる。

無理矢理世界を渡らせた為に神がその者に罪悪感でも抱いているかのような有り得ないスキルを与えるらしい。

そして先程話を聞けば成る程凄いスキルだと納得してしまう。

勿論王は全てを話していない。

この場に魔王の放った間者がいないとも限らないのだから。

それにしても強力無慈悲なスキルを彷彿させる王の言葉に一瞬吹かしではと思ってしまう。

そう思っているのは私だけではない。

普段から交友のある者は大なり小なり王家の言葉には偽りがあると思っていた。

魔道剣士と言われた少女を見る。

魔法も剣も両方極めたければこのスキルかもしくは魔道騎士を取得する意外に道がない。

しかし、この二つのスキルは滅多に現れない。

我が国でも現在そのスキル持ちは平民含めても『彼』しかいないのだ。

そんな凄いスキルを持っているとは思えないほど彼女は華奢だった。

黒い髪を絹のリボンで結い上げている。

シンプルだけど王家御用達の最高級品の青いドレスに胸元には金の三連ネックレス。

耳では涙型にカッティングされたダイヤのイヤリングが揺れていた。

普通の貴族令嬢にしか見えない。

どうみても勇者にはみえなかった。

「父上」

私に話しかけてきたのは息子だった。

年の頃は勇者3人とほぼ同じくらいか。

「彼らは本当に勇者なのでしょうか」

「こら、どこで誰が聞いているかわからないのだぞ。」

「すみません、父上」

私の咎めを素直に受け入れる息子。

「しかし、私とさして年の変わらないものが戦場に行くなど…」

「ある程度訓練をしてから戦場には向かうのだろう」

いくらなんでも明日から戦場に行けはないと思いたい。

いや、同じ年頃の息子を持つ身としては出来れば戦場などに行かず幸せに暮らしてほしい。

「仮に彼らが勇者として真に凄まじいスキルを持っていたとします。」

「ふむ」

「……勝てるのでしょうか?魔王に」

「それは不敬だぞ?」

「しかし…」

息子の心配も最もだ。

魔族は人より少しだけ優れている程度の存在であり、数を投入すれば充分勝てる。

しかし、魔王は別格だった。

魔王が真剣に侵攻してこないからこそ、現在ヒト族と魔族は拮抗していられるのだ。

稀に前線に現れるとそこは敗戦確実、ヒト族は壊滅状態へと陥るのだ。

魔王は化け物。同じ魔族とは思えない存在であった。

いくらスキルが凄くてもヒトの身であれに勝てるのか。

そう疑問に思うのも当然だ。

しかし、王家に仕える一貴族としてその言葉は不敬だし、場合によっては不安を煽ったとして処刑対象にすらなり得る。

「勝てる。」

故に私は言い切った。

「勝てるに決まってる」

自分に言い聞かせるように。

「……父上がそう言うのならそうなのでしょうが……」

「そんなに不安なら直接話してみればいいのでは?」

ふと思いつき息子に言ってみる。

勇者は現在間違いなく国の中枢にいる存在。

政治的観点からみても交流を持つのは正しい。

それに彼らが魔王を倒すことが出来たなら、間違いなく褒美が出る。

「…勝てばあの聖女様もこの国を救った英雄の1人として貴族となろう。

そうなれば、あの美貌、そして名誉に群がるようにして婚姻話が大量にもちあがろう。

それからでは……遅いぞ?」

「父上!私はそのような…」

「うん?視線が聖女様に釘付けだったようにみえたが?」

「〜〜〜!」

息子は頬を真っ赤に染めて私を睨む。

「どうやら聖女様には頼もしいボディガードがいるようだ。

さて、お前はあのボディガードを躱せるのかな?」

「……父上と話していると頭が痛くなります!

少し頭を冷やしてまいります!!」

言ってぷりぷり怒りながら去ってしまった。

……うむ、ハッパをかけたのは間違いだったか?

最近の若い者の恋愛事情は難しいのぅ。

私はドワーフが仕込んだ高級酒が入ったグラスを取り傾ける。

琥珀色の液体が喉を焼いた。

ほう、これは中々……

「あ、美味しい」

いつのまにか近くにいた男に私は挨拶をしようと視線を向けて………固まった。


光の加減によって色味が変わるオパールのような髪。

紫水晶を彷彿とさせる濁りのない瞳。

陶器のように白い肌。

どんな美姫さえも霞み、男の私すら一瞬魂を持ってかれそうになる美形……


勇者の1人がそこにいた。

ごくりと喉を鳴らし……私は彼に声をかけようと一歩前に出た。



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