魔王、国王と謁見する
「……えー、トラブルもありましたが、皆様は我々を救う勇者様である事には間違いありません」
…ここに魔王が1人いますが?
勇者とかちゃんちゃらおかしい。
老人の言葉に私は失笑するが、高校生3人組は真剣な目をして老人を見ていた。
「これより、勇者様方には我らが戴く王にお会いして頂きたく存じます。」
「お、王!?」
裕太が漠然とした不安を顔に見せた。
少女達も同じ。
「え、私達そんな偉い人に会える程偉くないっていうか…」
「マナーとか…」
「問題ありません。異世界からいらっしゃった事は既に王に伝えてあります。
文化の違いもありますので、無礼講で問題ありません。」
「そ、そっか…」
「そうだよね…」
「服とか大丈夫??」
「制服なら正装だろ」
「そ、そっか?」
まあ、冠婚葬祭に活躍するのが制服だよな。
私?
私は……まあ、平気だろう。
軍服も正装扱いだったはず。
よく知らないが、知り合いの自衛隊員が新郎として軍服着て新婦と並んでいたからいけるだろう。
問題は軍服に隠し武器が仕込まれていることなんだけど、誰も何も言わないので黙っておく。
だって魔王だし、気に入らなければ王様殺しちゃうかもしれないし??
まさかね?ふふ……
現実だけど非現実すぎてゲームとの差異がわからない。
自分が魔王なのか人間なのかも曖昧になってる気がする…いや、元々こんな性格だったか。
何でもかんでも魔王のせいにしてはいけないな。
「さあ、どうぞ、こちらです」
老人の後に続いて私達は部屋からでる。
私が一番最後だったのでふと振り返って部屋を見てみた。
そして鑑定。
《異世界勇者召喚の間》
異世界勇者召喚の儀を行う為だけに作られた聖域。
異世界に再び帰るにはこの間を使用しなければならない
聖域の構成
床
召喚魔法陣
現代最高位大魔導師 エルゼル・ブリューデレが10年の歳月をかけ作成
柱
聖水(氷結状態)
柱の頂上に置かれた4つの銀水晶
召喚に必要な魔力を込めた銀水晶
現在は魔力貯蔵率0%
召喚魔法陣、聖水の柱、銀水晶、どれか1つでも欠損すれば聖域は崩れ元の世界に勇者は帰れない。
欠損条件
召喚魔法陣
方法は問わず魔法陣の描線を1つでも途切れさせる。
再作成不可
柱
方法は問わず一本でも柱を消失させる。
同様の聖水にて代用不可
銀水晶
単純な破壊行為にて破損させる。
同様の水晶にて代用不可。
なんだこれ。
魔力だけでどうにかなるのか?
特に聖水の柱。
このままなら溶けるんじゃ?
非常に嫌な予感がしたので、聖水の柱に永久凍土の魔法をかけた。
これなら例え私が死んでも柱が溶けて消えることだけはない。
更には聖域そのものを複写しておく。
これで万一失われても再現出来る。
代用不可となっているが魔王のスキル『魔王の模写』は完全なオリジナルを作ることが出来る。
ゲームでは代用不可のアイテムもこの複写で作った模造品で乗り切ったものだ。
とはいえ壊れないにこしたことはないのでこの部屋をまるごと保護魔法をこの部屋にかけた。
これで、たとえ星が降ってきてもこの部屋だけは残るだろう。
魔法陣の線一本とて絶対に消したりしない。
「どうかされましたか?」
召喚者の1人が声をかけてきたので、前を向いた。
隠密スキルを使用して魔法を使った事を悟られないようにした為彼らは私が魔法を使った事にこれっぽっちも気づいてない。
誰か1人くらい気づくかと思ったがそんな気配微塵もないので逆にため息がでる。
そんなだから魔王にやられかけるんだよと思うが、こんな連中と拮抗する程度なんだから魔王も大した事がないのだろう。
もう魔王も人間も私が平らげた方が話が早くて済むのでは?
謁見の間とやらに通された。
ここに来るまで、軽く城を案内して貰ったのだが、中世ヨーロッパそのものの城だなと思った。
豪華すぎず、質素すぎず。
ただ、城を灯す明かりは魔法の灯りだという点のみファンタジーだった。
高校生3人は魔法の灯りひとつに大興奮していた。
そして、謁見の間は今まで見てきた部屋とは比べる事が出来ないほど美しく豪華だった。
他国や貴族への見栄もあるのだろう、玉座に座る王とやらも豪華な衣装を纏いそこにいた。
馬鹿には見えないが賢くも見えない、凡庸な王といった顔立ちだ。
だが見た目で人は判断出来ない。
鑑定しておこう。
《トワイライト王国国王》
トワイライト18世
58歳
凡庸な王と周囲より評価されている。
贅沢を好まず悪心を抱かずしかし節制を知らず、良識も知らず。
話せばわかるが話さないとわかってもらえない。
現在執務の九割を宰相および宰相派閥に属する貴族に委任している。
うわ。
ダメな人だった。
で、本当に会わなくちゃいけない宰相さんはどこかな?
その横にいる女性は…王妃か。
鑑定したら王様と似たり寄ったりな文言が出たよ。
と、なると目星い人がいないのだが?
よし、スキル『魔王の検索眼』発動!
魔王の検索眼はキーワードに即した物を世界のどこにあろうとも探し出せる。
キーワードはこの場合《トワイライト王国の宰相》
さあ、どこだ?
いた、隠れていたが、王を守る護衛騎士の姿をした奴。
こいつが宰相か?
顔がフルアーマーなんてもの着てるせいで見えやしない。
直接顔を見ないといかな魔王の鑑定眼とて人物鑑定は出来ないんだよね。
てかなんで護衛騎士の格好してんだ、こいつ。
他にも勇者を一目見ようと言うのか貴族と思われる国に仕え大臣、文官達がざっと100人ばかしいるのにそこにいないで顔を隠してまで王の側に侍ってる。
勇者を警戒して?
よくわからないが、少なくても今この場で自己紹介はしてもらえそうもない。
とりあえず、護衛騎士に扮した宰相は置いておいて王様に注目した。
私達を先導した老人をはじめとする召喚者達は王の前で膝をつく。
高校生3人は一瞬戸惑うも彼らに倣う。
私?
私はしないよ。
無礼講って言ってたし、この王様は膝をつくに値しない。
「……?」
王が私を見て不思議そうに首を捻る。
王妃も同じだ。
「そなた、何故平伏しない?」
「文化の違いです」
「文化……。」
「はい、大目に見てくださると聞きましたが?」
王と王妃は顔を見合わせた。
前で平伏している老人達が慌ててこちらを見てジェスチャーで平伏してってやってるがわからないふりを通す。
「…なら、仕方がないなぁ」
「そうですねぇ」
王様と王妃様は単純だった。
しかし、周囲の貴族達がざわめいている。
耳をすまさなくても無礼者と言っているのがわかったが、無視無視。
「よくぞ、勇者達よ、我らが窮地を救いにこの地に降り立ってくれた。
ヒト族の代表として礼を言おう」
声は立派である。
おや?魔法の気配。
これはカリスマ?
紡がれる言葉に賛同しやすくなるものだ。
軽ーく無効化しておく。
やってるのは宰相様だ。
魔法を放った本人は無効化に気づいただろうが、フルアーマーなので表情の変化は見て取れない。
「あ、いえそんな…」
高校生3人は目に見えて慌てる。
魔法の無効化は魔法そのものを消滅させるので私が無効化した時点で彼らにも届いていないのだが、場の空気に飲まれていた。
まあ、普通の高校生が王様と会うって光栄を通り越して罰ゲームだ。
「もったいないお言葉です」
老人が王に応えると王は鷹揚に頷いた。
「さて、しかしそなた達には我らを遥かに凌ぐ力を持っているとはいえその身ひとつではいささか心伴いだろう。
それに異世界にはなかったであろうスキルを使いこなすにも時間が必要。
そこで、そなた達専属の世話人と指導者をつけようと思う。」
「世話人?」
「指導者?」
裕太と直美が同時に反応した。
ああ、つまりは監視役ね。
私は1人納得する。
勇者は異世界人にとって驚異的な力を持っている。
今はいいが、万一人間を裏切ったら?
魔王以上にやばいことは確実だ。
だから不穏な動きをしないように常に監視役を置く。
そういうことだろう。
「勇者殿達にはしばしこの王城に滞在して頂き、その間にこの世界の一般常識を学び、更にはスキルを使いこなせるよう修行を行って貰いたい。」
「え?スキルはすぐには使えないの?」
「剣も握ったことのないものがスキルを持っているからといってすぐに腕利きになる訳ではない。
スキルを自分のものにして、使いこなすには大なり小なり修行が必要になる。
まして勇者殿達は今日スキルを取得した。
では、今から魔王討伐に旅立ってくれと言うのはいくらなんでも無茶だろう?」
「た、たしかに…」
美香が頷く。
「君達にこの世界を教え、更にスキルを使いこなせるよう導く指導者をそなた達のスキルに合わせて与えよう。
また、慣れない王城での暮らしを日常面でサポートするのが世話人だ。
君達の生活が少しでも良いものとなるよう精一杯務める者達だ。」
つまりはメイドか。
まあ、専属メイドが1人2人は最低でも欲しいところだ。
風呂も食事も自力で調達せよとか言われても………困らない???
あれ?私はゲームのアバターでここにいるから飲食不要??
「では紹介しよう」
言って王は手をぱんぱんと叩いた。
すると、王の後ろで控えていた女性2人、男性2人が前に出てくる。
予想通り女性はメイド服を、男性は執事服を着ていた。
だが、メイド服より執事服より注目してしまうところが彼らにはあった。
「……え……耳……」
美香が声を漏らした。
そう、彼らには動物の耳が頭から生えていた。
ゲームにも登場した獣人である。
私はゲームで見慣れていたが、彼らはゲームなど………あ、彼らは未成年か。
それじゃ仮想現実にダイブするVRRPGなんて出来ないか。
あれは成人限定だからな。
つまり彼らはゲーム未経験。
今更TV画面でキャラを動かすだけのクラシックゲームをやるなんてあり得ないから、このファンタジーな世界全てが新鮮なのだろう。
私はゲームとの差が多少あれどもまあ殆どが既知であり目新しさは感じない。
「さあ、自己紹介を」
「はい!!」
言って執事服を着た男が直美の前に出た。
黒い犬の垂れ耳とふさふさの尻尾がよく似合う元気いっぱいな直美より2、3年下の少年だった。
「初めまして、直美様!この度直美様の生活をサポートするお役目を頂いたハロルドと申します!!
一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします!」
「は、はじめまして直美よ。よろしくね?」
「はい!!」
キラキラスマイルとブンブン振りまくる尾っぽが直美の心を直撃し、表情を和らげる。
「失礼します。聖女様。私はロバート。
聖女様には快適な生活をお約束致します。」
先程の子犬系男子とは真逆で美香より3、4つ年上の男が優雅に一礼する。
犬耳は垂れておらず、ピンと立っており尻尾も動いていない。
「あ、はい、美香と言います。よろしくおねがいします。」
ハロルドと違い少し堅苦しい感じがしてしまい美香は萎縮していた。
次はメイドが前に出る。
黒猫の耳と尻尾を持つスレンダーな美少女。可愛いけど無表情なのは猫だからか?
「お初に目にかかります、裕太様。
私はニーナと申します。
至らぬ点もあるかとは思いますが精一杯努めさせて頂きますのでよろしくおねがい致します。」
属性的にはロバートよりか。
「よ、よろしく」
初対面はとっつきにくい雰囲気な為、裕太は少々気後れしていた。
だが、美香も裕太も安心してほしい。
間違いなくこの犬と猫はツンデレ属性だ。
第一印象があまり良くない中、デレると可愛いは心を鷲掴みにする。
それが狙いなのだろう。
そして、私の目の前にはうさ耳メイド。
ピンクのふわふわヘアーにグリーンの瞳が可愛いすぎる。
何より巨乳だ。
揺れる胸に目が離せない。
……ブラジャーしてないのかな?
「はじめましてぇ、ラビーニャです!
不束者ですがよろしくおねがいします!」
ぺこっと元気っ子な挨拶をする。
と、同時に何もないところで足を滑らせ私にその身を当てようと転がってきたので、避けた。
「ふえ!?」
すてーーんと転んでスカートが捲れパンツが丸見えとなる。
中々際どい下着だった。
滑って転ぶはわざとだったろう。
その豊満な胸を押し当てようという魂胆が丸見えだった。
しかし、あのタイミングでしれっと避けられるとは思わなかっただろう、このパンツ丸見えは普通に恥ずかしったらしくすぐに立ち上がりスカートを戻した。
顔は真っ赤である。
まあ、王様勇者含め100人ほどいる貴族を前にパンツ丸見え事件を引き起こせばね。
私は彼女に冷ややかな視線を送ってやる。
特に宜しくなどは言わない。
何故私が宜しくと下手に出ないといけないのだ?
監視役大いに結構。
だけど世話人という名目でいる以上そこは妥協しない。
その無駄な贅肉なんぞ押し当てられもうざいだけだ。
その胸以外に己を誇れるものがないなら即座に焼肉にしてやるから覚悟しろよ、うさぎ。