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魔王、異世界を考察する

この世界の食事は美味しい。

完全なる洋食で成り立っており、王族貴族の食事となると当然フルコースとなる。

うさぎに給仕をさせつつ私はスープを口に含みパンをちぎって食べる。

日本で庶民が買うパンより美味しい。

あれだ、異世界は文化文明の類いが元の世界より遅れているというイメージがあったがそれは改める必要があるだろう。

馬車も列車もは自家用車以上に乗り心地がとてもよい。

更に言えばこの世界、ゲームと同じ物もあれば違う物もある。

ゲームのルールが適用されることもあればされないこともある。

そう言う意味では訓練は大変有意義なものだった。

ゲームでも同じ魔物が存在する一方で、魔法はゲーム魔法とは違う。おまけにゲームではターン制度があったがこちらではそれが適用されず連続攻撃が可能。

これは下手するとチートキャラといえども足元をすくわれかねない。

「…勇者は綺麗に食べるな」

「そう?普通でしょ?」

「いや、マナーを知っている…というか元の世界とこちらの世界でマナーが同じなのだろう、違和感が全くない。

新興貴族にマナーを教える事も可能だろう。」

「やだよ、面倒だ。」

「当たり前だ、お前はそんなくだらない事の為に呼び出した訳ではない。」

「…ところで、こっちって米ってないの?」

「米?ふむ…私は聞いた事がないな」

「エルフは?」

ぽーっとして全く食事が進んでいないエルゼルに声をかければはっとした表情になる。

「あ、えっと米?でしたっけ?

ありますよ。ありますが、育成が難しくそれでいて量が取れませんし、味もよくないのでトワイライト王国内での流通はほぼゼロです。」

「そうなの?」

私は眉を顰める。

育成の難易度はよくわからない。

一度の稲作でどれほどの量がとれるのかもわからない。

だけど味がよくない?

そんな事ないだろうに…。

「勇者の国では米なるものを食べるのか?」

「主食よ、主食」

「….私は一度米を食べる機会がありましたが…正直受付られるものではありませんでした。

それを主食とは…勇者様の世界は貧しいのですか?」

小馬鹿にというより心底同情したようにエルゼルが言う。

「いや、私の世界の米は物凄く美味しい。

おかずがいらないレベル」

「まさか!」

エルゼルが驚く。

「いや、可能性はあるだろう?」

少し考えた風にギルバートは言う。

「まず、勇者の国は米を育てるに適した環境だった。

そして、その環境は逆に小麦を育てるには向いていなかった。

となれば自然米作に力が入り品種改良が行われるだろう。」

「あ!そういえば私が普段食べてた米も品種改良を重ねて作ったって聞いたことある!」

「そうだろう?収穫量を増やして、短期間で育つようにして、味の改良もする。

我が国の小麦も同じだ。建国以来、長い時を経て改良した小麦は自然界に生える小麦とは収穫量も味も段違いだ。」

「なるほど、あんた賢いねー」

「当然、私は」

「「次期国王となる者だ!」」

私とギルバートの声が見事に重なる。

ぎょっとした表情を見せるギルバートに悪戯が成功したように思えてニヤリとする。

そんな様子をエルゼルはプルプル震えて見ていた。

なんかこの子大丈夫かな?

そんな歓談を交えての食事を終えて、さて部屋に戻るかというところに見覚えのある貴族がやってきた。

一人は一度見たら夢に出るレベルで記憶に残るパイナップル男爵。

そしてもう一人は娘をあてがい貴族としての地位を固めたい野心家な貴族。

二人が談笑しながら食堂車にやってきたのだ。

なんか知らないがこの二人仲がいいのか?

共通点などなさそうな二人だが貴族の交流はよくわからない。

二人は私達に気づき同時に顔を引きつらせ、私達から一番離れた席につく。

まあ、どうでもいい。

パイナップルはコソコソしつつも使用人の兎から箱を受け取る。

遠目でよくわからないがオルゴールのように見える。

しかし、蓋を開けても音楽はならない。

あれはなんなのだろうか…

気になったが、ギルバートが行くぞと肩を叩いてきたので、席を外すことになった。


***

sidパイパイ

退屈なだけの列車の旅で思わぬ出会いがあった。

出会いは鮮烈そのもの。

最初はなんと不届きな奴だと思ったがどうもはねっかえりの娘が悪いようで、彼には全く非はないようだ。

それにしても彼の描く絵は素晴らしい。

女体を全て余す事なく描くのではなく、大切なところをうまくぼやかして描くのが特にいい。

見えそうで見えないところが男心に火をつけるのだ。

是非彼の画力で私の兎人達を描いて欲しいものである。

彼が描く兎人族はさぞ美しく私を興奮させてくれる事だろう。

そんな素敵な彼とこの3日で親密になるべく秘密兵器を兎人族の使用人に出させた。

私も愛用している葉巻だ。

かなり丈夫な木箱にぎっちり20本入っている。

木箱にはぱっと見何が描かれているか不明な模様が刻まれており、これがちょっとした仕掛けとなっていて貴族の間で葉巻が流行した一因でもあった。

「おお!先程頂いた葉巻ですな!

私は初めて吸いましたが、甘い味と香りは癖になりますな!」

「そうでしょうとも。庶民には手の届かない贅沢品ですよ。」

言いながら私は彼に箱を丸ごと差し出した。

「こちら差し上げますよ」

「ええ!?」

エイチ氏は驚きの声をあげた。

昨年度より貴族の地位を得たというのに既に優雅な口ぶりが板についている。

元々いいところ出身の人なのかもしれない。

「こんな高価な品物を頂くわけには…」

「いやいやこれは私から貴方へ友好の証として贈る品です。

値段ではありませんよ。」

私は笑って連れている兎人族の使用人からもう一つ箱を受け取った。

そしてやおら箱を二つぴったりとくっつける。

「これは!?」

エイチ殿が驚愕の声をあける。

箱の仕掛けはやはり目を惹くのだ。

「……もしや、絵が…」

「その通りだとも!今年の春の新作の箱の種類は全部で25種!!

全部集めると一つの絵になるのだよ!!」

「なんと…!」

「因みに私は既に集め終わっておりましてな!」

「集め終わる…!!失礼ですが、この葉巻の値段は如何様で…?

いえ、頂き物の値段を聞くのは失礼と言うのは重々承知しておりますが…」

「お気になさらず。これは……」

ごにょごにょと伝えた値段に目を剥くエイチ殿。

「…と、言うことは先程の葉巻は一本…」

「そう、その値段ですな」

「げぇ!?」

エイチ殿の貴族の仮面が剥がれ私は笑う。

「そ、そんな高価なものを…!」

「ええ、ですから貴族といえども葉巻は滅多に吸わないのですよ」

そう、確かに葉巻は流行ってる。

しかし、嗜好品としての流行ではない。

政治的小道具、もしくは箱に美術品としての価値を認めてのコレクションとして人気なのだ。

無論、買えば吸う。

しかし、愛煙家と呼ぶほどは吸わない。

大抵は特別な時…ここぞという勝負時に吸うのだ。

おそらく毎日ぷかぷかと吸ってるのは私をはじめとした財力だけならあるという類いの者だけだろう。

そう、私は商人というありふれた職業でこの地位を築くほどに優秀な商人なのだ!!

葉巻ぐらい、毎日吸う程度なんでもない!

しかし、目の前にいるエイチ殿は違う。

彼は金銭的にはそこまで裕福な貴族ではないのだろう。

しかし、これからは違う。

彼の絵には金の匂いがプンプンしている。

今後、付き合っていけば私は今以上に裕福になれるのだ!!

「さあ、お近づきの印に一本どうぞ」

言って私は葉巻を一本取り出してエイチ殿に手渡す。

そして、兎人族の使用人にマッチをすらせて火をつけた。

甘い甘い香りが食堂車に充満する。

ふと気づけば、王子達はいない。

ふふん、さては私に恐れをなして逃げたな?

代わりに他の貴族達が席に着きこちらを見て表情を曇らせていく。

私は何もしていないが、一体なんなのだろうか?

しかし、エイチ殿の素直な反応に気分よくなり葉巻をぷかぷかと吹かす。

その後、私は食事と歓談…主に兎人族の愛らしさについて語り、エイチ殿は男女の絡みも素晴らしいが、最近は更なるエロスを求めて試行錯誤を繰り返していると語った。

料理のコースが半ばまで進んだあたりで、食堂車の扉が開いた。

ちらりと視線を送ればマックイーン号の制服を着た男……恐らく車掌であった。

切符拝見だろうか?

まあ、兎人族の使用人がきちんと保管しているので問題なかろう。

ところが車掌は他のテーブルを見ることなく真っ直ぐこちらにやってきた。

まだ若い男で制帽に隠れて見えづらいが、その顔はニヤニヤと笑っている。

「失礼します、ムッシュー」

「ふむ?このホウリ・パイパイの食事の手を止めさせるとは何事かね?」

「いえ、実はですね。」

すっと、白手袋で隠れた指がテーブルの真ん中に置かれた二つの箱…葉巻を指した。

「この食堂車は禁煙でして。他の後貴族様から苦言が上がってきているのですよ」

ニヤニヤと笑いながら男は言う。

「なんだと!?」

瞬間、私の頭は熱く沸騰する。

そうか、他の連中が顔を曇らせていたのはそれが理由か!

「この私を誰だと…!」

「ええ、ええ、大商人にしてトワイライト王国きってのお貴族様…ホウリ・パイパイ様に注言、苦言などもってのほか。」

「ほう?貴様、話がわかる。見所があるな。」

「ありがとうございます。」

車掌は言うが頭は下げず視線はテーブルの上…もっと言えば葉巻の箱に釘付けだ。

「ふむ?貴様、その身の程知らずの貴族に分からせることは出来るか?」

「勿論……それなりに手間がかかりますが。」

ニヤニヤと笑いながら車掌は言う。

「ふむ?ならば」

私はテーブルの上に乗ってる葉巻が入った箱を一つ車掌に差し出す。

「これを持っていけ」

途端、車掌はニヤーーーっと笑った。

金に目が眩んだわかりやすい男である。

「いやはや、車掌という職務上お客様たるお貴族様から金銭は受け取っちゃいけねぇんですが…」

「いやいやこれは金銭ではない」

「そう、その通りなんですよ、いやー、お貴族様から賜ったものを断るなど俺程度の存在がそんな恐れ多いこと出来るはずもなくてですね?」

「うむ、そんな事をすれば不敬だな」

貴族から賜ったものを拒否するという事は不敬と考える貴族は多い。

近頃は金銭は不味いという考えが浸透してきているのでこのような形に成り代わっている。

「そう、それは恐ろしい…なのでこれは施しとして受け取らせて貰います。」

「そう、それは単なる貴族から平民への施しだ。

今回の件とはなんら関係ない…」

その言葉に彼は頷く。

彼はこういう事に慣れているのだろう、話が早くて済む。

頭が硬かったり、慣れていない子供のような奴だと面倒なのだ。

車掌はニヤリと笑い、敬礼する。

「御食事中失礼しました!引き続き列車の旅をお楽しみください!」

言って車掌はテーブルから離れ、別のテーブルへと行く。

恐らく、あの貴族達が苦情を言ったのだろう、身の程知らずも甚だしい。

五人程の男女がテーブルを囲んでいるが全員見た目も貧乏くさいし貴族にこそなれたが金がない零細貴族なのだろう。

そんな輩と同じ空間で食事など私の方から願い下げだ。

ふと前を見るとエイチ殿がまるで英雄でも見た子供のような表情で私を見ていた。

「いやはや!凄い、凄いですな、ホウリ殿!

これが貴族なのですね!?」

「ふむ、これくらいは序の口よ」

「いやはや私は貴族になってまだ日が浅いですが、何十年経ってもその域に到達出来る気がしません!」

「はっはっはっ!口が上手いな、エイチ殿は!」

高笑いを私があげていると、薄汚れた貴族達がこちらを睨みそして食堂車から出て行った。

他の貴族達もこちらを見るが何も言わない。

ああ、これで食事が楽しめるというものだ!


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