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魔王、兎人好きの貴族と出会う

駅構内に入ってきた寝台列車を眺める。

貴族専用寝台列車マックイーン号

10両編成乗車最高人数30名の二階建て列車だ。

見た目は汽車を彷彿とさせるが中は近代的と言ってもよかった。

実は3日間飛行機のエコノミークラス並みの狭い空間に押し込められるのではと危惧していたので、ベットがある部屋に通され私は満足している。

しかし、なんの憂いもない完璧な満足ではなかった。

何故ならば。

「あんた馬鹿なの?」

「いや、つい……」

「つい、でついてくるかな?」

「し、仕方がなかろう!あの流れで帰れるか!」

そう、ギルバートが私と同じ席に着きお茶を飲んでいる。

切符が足りないのだから乗れないだろうと思いきや、ノーマンがその場で切符を発行してしまったのだ。

部屋はどうすんだよと思ったらギルバートがとっていた部屋はダブル一部屋、ツイン一部屋。

当日予約だったのでこの部屋しか空いてなかったらしい。

つまり、ギルバートをねじ込もうと思えばねじ込めてしまう状況だったのだ。

部屋を聞いたエルゼルが部屋割りをどうするかという話をした途端、何故か殿下と私はツインで!とか言いだしたのが意味不明だったが、当然却下し私とギルバートがダブル、うさぎとエルゼルがツインで寝泊まりする事となった。

他人と3日も同じ部屋とか最悪だ。

まだ、何も始まっていないのにストレスマックスでついついうさぎを四つん這いにさせ足で頭をグリグリしてしまう。

「……ところで、それは…」

「ストレス発散よ。」

「…そ、そうか…大丈夫か?」

「は、はいぃぃぃ」

嬉し泣きをしながら返事をうさぎはしたのだった。


そんなトラブルもあったが、列車の運行にはなんの支障もきたさない。

意外と滑らかに、そして静かに走る様に私はテンションが上がる。

「車窓から風景がみたいな」

個室には防音の為か窓がない。

なので、風景を見たければラウンジに行く必要があった。

「ふむ、私も行こう」

「わ、私も…!殿下達に供もつけずに歩かせるわけにはいきません!」

うさぎがすっくと立ち上がり皺になったメイド服をちゃちゃっと直す。

私は一人で行きたかったのだが、うさぎは私の監視役だし、ギルバートは断る理由がないしで結局3人でラウンジに行く。

ラウンジは一車両丸ごと使用しており広々とした快適な空間がそこにはあった。

窓も大きくとってあり、窓側に沿うよう椅子が設置されている。

椅子は馬車の椅子同様革張りのソファー型だった。

私は手頃なソファーのど真ん中に座り足を組む。

「うさぎ、お茶とお菓子!」

「は、はい!!」

慌ててうさぎが引っ込んだ。

監視が外れたようにも見えるが、エルゼルが監視魔法を常時発動しており、この場にいない癖に存在感をアピールしてくる。

「…しかし、其方人を虐め…ではなく、使うのに慣れているな」

「そう?」

車窓を眺めながら言う。

流れる景色は自然豊かで美しく、夢心地に浸れる。

「そうだとも。共に来た3人はメイドの存在に右往左往しているらしい。」

「………でしょうね」

普通の一般家庭で育った高校生がある日突然メイド付きの生活に放り込まれればそうなるだろう。

私はゲームでNPCに命令することに慣れているから問題ないだけだ。

「それに其方からはあの3人とは違う気品がある。」

「褒めても何も出ないよ?」

私は景色から目を離しギルバートに視線を送る。

金色の瞳は私が思った以上に真剣なものだった。

「別に褒めているわけではない。

ただ思った事を口にしているだけだ。」

「ふーん。」

視線を外してもいいのだが、その金の瞳から逃れる事が出来そうもなかった。

なんとなく見つめ合う私達。

「其方、元の世界ではどういう立場の人間だったのだ?」

「……立場?」

問われて私は考える。

一番に頭をよぎったのは魔王という単語。

しかし、これは単なる渾名にしか過ぎずそのような役職はゲームにはない。

ではプレイヤー?

不正アクセスユーザーが今更1プレイヤーと言い張るか?

既にアカウントは取り消され事実上ゲームから追放された身としては笑うに笑えないジョークだ。

ではゲームから飛び出してリアルの立場?

ちょっとデータ弄りが得意な普通の社会人だ。

親が社会的に成功しておりそのコネで今の会社に入社してその恩恵半分実力半分で年齢の割にちょっとした役職持ちな点以外特筆すべき点がない。

「……立場ねぇ…。特に自慢出来るような立場ではなかった」

「そのような……」

「あの!離してください!」

ラウンジの扉の前でうさぎの声が聞こえた。

「「?」」

私とギルバートが同時にそちらを見る。

何かはわからないがどうやらトラブルの匂いである。

出発早々幸先がいい。

「…勇者、顔が悪どい」

ギルバートは私の笑顔を見て震え上がった。


ドアを開けてすぐ目に飛び込んだのはお茶と菓子を乗せたカートを押すうさぎの手を掴む巨体だった。

緑の髪がパイナップルの冠芽の形をしており、筋肉隆々、一目で仕立てのいいと分かるジャケットがぱつんぱつんである。

そのジャケットの色が真っ黄色って何か狙っているとしか思えない。

心なしか匂いまでパイナップル臭い。

そして彼の後ろには無表情な兎獣人が5人程いた。

全員巨乳で白いビキニという虐めのような格好をしていた。

どういう目的でこの男に連れ回されているのか一目瞭然である。

ドアが開いた事によりパイナップルの目がこちらを向いた。

「なんだきさ………うぇえ!?」

パイナップルはオラオラな態度でこちらに声をかけたかと思うとすぐにギルバートを見て驚きの声をあげる。

「でででんか!?何故ここに!?」

「所用だ。それよりうちの使用人が何か粗相を?」

まさか流れでとは言えずお茶を濁す物言いで話をそらす。

「い、いえ!?と、とんでもございません!

えっとそう!腕にほこりがついていたから取ってあげようかなーなんてハハ!」

言いながらパイナップルはついていないほこりを摘むふりをしてバックステップでその場から去っていった。

「…殿下、ありがとうございます」

「いや、礼には及ばない」

うさぎが深々と頭を下げる。

「ほら、さっさと中に入って。

お茶とお菓子を出しなさい!」

「は、はい!!」

言ってうさぎはラウンジの中に入る。

そして小型のテーブルを組み立ててお茶とお菓子を乗せた。

「ところでアレは何?この列車って貴族専用じゃなかったの?」

私の言葉にギルバートは溜息をついた。

「あれはホウリ・パイパイという男で粗野ではあるが男爵位を持っている。」

パイパイ。

狙っているにしても酷い。

「ふーん、兎好きなのかね?」

「噂では屋敷の使用人は全て兎人族女性で固めているらしい。」

「噂じゃなくて真実くさいわね」

「全く嘆かわしい」

頭を振るギルバート。

傲慢不遜な彼だがあのような形で女性を侍らす趣味はないらしい。

「まあ、ギルバートに怯えていたし、これでこの列車内ではおとなしくしてくれるでしょうよ。」

言って私は紅茶が入ったカップを傾けるのだった。



sidパイパイ

「な、なんで王子がいる!?」

貴族専用列車二等客室で私は吠えた。

部屋には一人だけ使用人がいる。

勿論、兎人の女性だ。

そのうさ耳をこれでもかも撫で回し苛立ちを発散する。

しかし撫でても撫でても苛立ちは消える事がない。

なので最後の手段…特注のうさ耳カチューシャを自身に装着した。

鏡に映るその姿は世紀末を思わせるに十分な迫力があったが本人は大満足である。

「クソ!商売があるというのに…。

まさか、イルハンが目的地じゃないだろうな!?」

兎人の水着と同じデザインの水着に着替えてしばし、鏡の前の自分をうっとりと見つめる。

とんでもない快感が私を襲い束の間の忘却を与えてくれる。

その後、別の兎人が持ってきた大人気の葉巻を吸う。

甘い痺れとともに心が一瞬で静まった。

中々高価な品だが貴族を中心に売れている品であり、城務めの者にも人気で買うにも予約が必要だ。

「ふう……。しかし、何故貴族専用列車に王子がいる?」

本来なら王族専用列車に乗るべき尊き人物だ。

格好から察するにお忍びの旅という訳でもなそうだ。

もしそうなら赤いドレスジャケットなど着ないだろうし、胸ポケットに至っては王家の紋章が刻まれていた。

どちらかというと、予定ではないのにここにいる的な雰囲気さえある。

「目的地はイルハン…?」

「ご主人様、イルハンでは最近ダンジョンが発見されたと言われております。

その討伐ではありませんか?」

この兎人は現在のお気に入り。

その証拠に水着の色が私の愛用ジャケットである黄色とお揃いなのだ。

ちなみにほかの兎人は白の水着を着用している。

「ダンジョン?確かにあるらしいな。

しかし、実力は兎も角として仮にも王太子自らたった一人で先陣切って切り込むか?」

常識ではあり得ない。

あったとしても騎士団の一個小隊を引き連れお飾りの指揮官としての参加が常道ではないか?」

「確かにその通りですが、供の者が手練れなのかもしれません。」

言われて俺は王子の隣にいた男を思う。

不思議な髪と服を纏った妙な色気のある男だった。

あの二人が並ぶと絵になる。

が、しかし。

「あの男が?そうは見えない。

まあ、共にいる以上護衛程度には腕がたつのだろうがあの王子程ではあるまい?」

王子が剣術、剣技の二つ持ちスキルなのは王国民の間では有名な話だ。

気性に合えばあの頭に血が上りやすい性格も相まって玉座など無視して冒険者にでもなっていただろう。

しかし、本人は剣より政治に興味を示しスキルを積極的に利用していない。

それでも片手間で習った剣の技は中堅騎士を超えているのは誰もが認めるところ。

その王子が頼りにするほどの強者?

あり得ないと笑うしかない。

「そもそも本当にダンジョン討伐に来たのかも怪しい。

単なる陣中見舞いかもしれない。」

ダンジョンのせいで疲弊する冒険者、商品を失った失意の商人、ダンジョンから湧く魔物の恐怖に慄く市民。

彼らの前に事前通告もなく王子が現ればそれは間違いなく喜ばれる。

王子の人気も上がり、次期国王としての地盤固めにはもってこいだ。

寧ろダンジョン討伐に来たというよりこっちの方が明らかにしっくりくる。

「まあ、なんにせよ、ここに王子がいる以上あまり目立つ事はしないでおこう。

王家に目をつけられては堪らないからな。」

「その通りですわ、ご主人様」

言って兎人族が私の上に跨り首輪を嵌められた。

首輪からは鎖が伸びており彼女の手にその先が握られている。

退屈な鉄道の旅、部屋に籠るならこれくらいしか娯楽がなかった。

私は葉巻を灰皿に置く。

消えない煙が天井に立ち上り部屋に充満する。

甘く熟れた果実のような甘い香りが広がり、そんななか、私は兎人族に美味しく食べられたのだった。




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