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魔王、王子に気に入られる

「……貴様、今なら取り消しができるぞ?

本気で行く気か?」

「当たり前でしょ?なに?行かれると何か困るわけ?」

ギルバートの言葉を一蹴する。

「…そうか、ならば貴様は一度痛い目に遭い、その不遜にして傲慢な性格を改めるべきだ」

瞬間ギルバートに皆の視線が集中した。

「ここから遠いのよね?」

何せここは王城があるのだ。

多分国の首都だろう。

まさか日帰り可能な距離にダンジョンがあるはずない。

「そうだな、3日程かかるかな。」

「案外近いわね」

「魔導鉄道で3日はかなりの長距離移動だぞ」

「「「魔導鉄道…?」」」

私達勇者は同時に問いかける。

「んん?なんだ貴様らの世界には鉄道もないのか?

まあ、あれは我が国が生んだ最高の発明品だからな。」

自慢げに胸を張りギルバートは言う。

「魔導鉄道は魔力を動力源として鉄の道を滑らかに早く移動する乗り物だ。

まあ、どれだけ洗練された乗り物かは実物を見て大いに感動したまえ!」

腰に手をやり胸を逸らして高笑いをかますギルバート。

うーん、異世界ファンタジーだから汽車みたいな乗り物なのかね。

だとしたらちょっと楽しみかな。

私汽車なんて乗った事も見たこともないもの。

「あの…」

直美が声をあげた。

「そのダンジョンですけど私達も行く…んですかね?」

「え?死にたいの?」

「まさか!」

ぶんぶんと首を横に振る直美。

「君達じゃどー考えても実力不足でしょ。

たしかにダンジョンはレベリングに最適だけど、それでも最低限度の実力は持っていないとね。」

「そ、それじゃお兄さんは一人でダンジョンに!?」

「ん?私は別に一人でもいいんだけど、この世界の地理に疎いから道案内が欲しいかな。

….私の世話役のうさぎにそれは務まる?」

「…ら、ラビーニャを指名するんですか!?」

何故かエルゼルが大声で叫んだ。

「え?何か問題でも?」

「いえ、その……あまりおふたりは良い関係を築けてないようだなと思っていまして….」

ああ、うさぎがそう報告したのね。

こき使われて大変ですと。

「まあ、もっと優秀なメイドがいるならそっちがいいけどせっかくつけて貰ったしね。

道案内と旅の間の雑務全般をしてくれるだけでいいのだから彼女でも問題ないでしょ?」

「……そうですね。しかし、ダンジョンはとても危険です。

一人で潜るのは自殺行為そのもの。

ですから、最低でも一人は共に潜るパートナーが必要です。」

「なら、貴女でいいでしょ。

一応私の指導者で現代魔法最高峰の大魔導師様なんだし。」

「………そうですね、私なら貴女が倒れても転移魔法が使えるので脱出くらいはできるでしょう。」

「じゃあ決まりね。よし、今から行きましょう」

「え!?今から!!?」

「そりゃ早い方がいいでしょ?」

「まて、鉄道の切符が取れるかどうか….」

「おいおい、あんた一応王子でしょ?

何のための王族よ。

そう言う時にコネってのは使うの。

じゃ、私は荷造りするから切符は取れたら部屋に持ってきてね。」

私は一方的に宣言すると訓練場を後にしたのだった。



***

sidギルバート

「………くくく…不敬にも程があるだろ」

私は彼の背を見送った後笑い声と共に声を出した。

一周回って怒りは無くてただただ愉快。

自分も傲慢不遜と言われていたがアレに比べれば可愛いということが面白いのだ。

あまりに自然であったから訂正する間もなかったが、一国の王子たる私の名を呼び捨てにした男はあやつが始めてであったし、王太子たるこの私に鉄道の切符を買って部屋まで持ってこいというセリフには笑いすらこみ上げてしまった。

「殿下申し訳ございません。

あの者の制御がまだ出来ておらず…」

「よい」

「……は?」

「よい。あの者はあのままで構わない」

「しかし…」

なおもまだ言い募ろうとしたエルゼルを私はひと睨みして黙らせた。

「さて、切符をとらねば勇者殿が怒りそうだから私は先に失礼させてもらうよ。」

たしかに王家の力を持ってすれば当日の切符も手に入るだろう。

どうせなら勇者が驚くような一等客室を用意しなくては。

私はかつて感じたことのないウキウキした心地で踵を返したのだった。


***

sidエルゼル

「なんなのよーーー!あいつはぁぁあ!」

普段の自分をかなぐり捨てて私の絶叫が響いた。

若手の勇者は昼食を理由に部屋に帰した。

今いるのは同じ主人を戴くアルフレッドのみ。

「落ち着けエルゼル」

「これが、落ち着いてられる!?」

エルゼルは爪を噛む。

「そりゃ確かに見た目はいいわ。

ギルバート殿下とのあの至近距離での睨み合いは心踊ったわ。」

「お前何言ってる?」

「はっ!違う、そうじゃない!!」

アルフレッドの胡乱げな瞳と突っ込みに慌てて頭を振る。

どうも昨日のパーティーからあの二人が並ぶと心が跳ね上がり言い知れぬ心地よさを感じるのだ。

「そりゃ確かにアルフレッドを一撃で殺して私を黒焦げにした腕前は認めるわよ!」

「あまり俺の傷に塩を塗らないでくれるか?」

折れた剣を見つめながらアルフレッドは言う。

彼にとってこの剣は己の実力を誇示する最大の武器だった。

彼を知らずともその武器は有名であり彼の名声を高める一助になっていた。

それをあんなベルトのバックルに隠れるような玩具の如きナイフで砕くとは末恐ろしいとしか言えない。

それだけではない。

アルフレッドは後天的スキル保有者だった。

この世界のヒト族は皆等しく神に祝福され生まれてくる。

その九割がスキル1つ持ちであり、そのスキルを大なり小なり育てていく。

スキルと気性が合えば当然生活の質向上に役立つからだ。

スキル次第では孤児や奴隷が貴族になり得ることもあるのがこの世界の常識だ。

そんななかアルフレッドはたった一つのスキルを保有して生まれてきた。

そのスキルは『努力』

実は未発見のスキルであり調査のしようもないがおそらく保有者はアルフレッド以外にいないと思われるスキルであった。

そのスキルは努力すればあらゆる事を可能にするという…当たり前といえば、当たり前のスキルであった。

これを外れスキルというかどうかは人それぞれ。

そしてアルフレッドにとってそのスキルは大当たりであった。

気性にぴったりとあったそのスキルで彼は騎士を目指す。

努力を苦とせず日々剣を振るい騎士のスキル持ちの何百倍もの努力を経て…………遂に騎士のスキルを後天的に得たのだ。

時に神は既に生まれ落ちたる命を再祝福することがある。

しかし、滅多にない現象であり、王国ではアルフレッドが数十年ぶりの後天的スキル持ちとなった。

そして数が少ないから一概には言えないものの後天的スキルは先天的スキルに比べて気性に合いやすい。

アルフレッドも例に漏れず気性に合った騎士スキルと努力のスキルの力を借りて建国以来エルフとして初の王国騎士団長としての地位を得たのだ。

その実力はSSランク冒険者パーティに単騎で挑んで勝てる程であり、凶悪な魔物堕天使すら普通の剣で屠れるほど。

その彼が………まるで子供のような扱われ方だった。

「……俺はまだまだだった……。

しかし、俺はまだ負けたわけではない。」

完膚無きまでに叩き落とされたにもかかわらず未だ闘争心溢れる彼はどこまでも騎士であり努力家な主人の剣でもあった。

「私だって…!」

私だってエルフにしては若輩ながら大魔導師という魔導師最高の称号を持ち、現代魔法たる雷属性、金属性、空属性の魔法を使いこなす存在なのだ。

こんなところで立ち止まれないし、主人に顔向け出来ない。

「私は一度3人の勇者達と共に私の持つ『最強の剣』で己を鍛え直すことにする。

…お前は…」

彼の持つ堕天使の剣は最大の武器ではあったが彼曰く最強ではないらしい。

意味がわからないが。

「私はアイツのお目付け役よ。

ダンジョンで隙を見て殺してやる!」

「おいおい……主人様はそんな事を命じてはなかったぞ?」

寧ろ勇者召喚は主人主導で行われた事だった。

だからせっかく呼び出した勇者を殺すのはもしかしたら裏切り行為なのかもしれない。

しかし

「あれは危険。主人様は勿論、御方にもその毒牙が届きかねない」

そんなわけあるか!というアルフレッドの声はない。

同じ者の手で地面の砂を舐めさせられた者同士だからこそわかるのだ。

「まあ、無理はするな?」

「わかってる。それに今回行くダンジョンはアレでしょ?」

アレ…私はギルバート殿下が持ち込んだダンジョンに思いをはせる。

王都から魔導鉄道で3日ほどの距離にある交易都市イルハン

その都市の程近くにある森の中程に忽然と現れたのが件のダンジョンだ。

ダンジョン発見の報告より半年前から魔物の被害が増えており、前年度の三倍以上の経済的損失を計上していた。

そしてダンジョン発見の正式報告が王家に上がってきたのが一月前。

以降冒険者を王家は雇い調査を進めているが一月も経つのに全容は未だ明らかになっていない。

雇った冒険者の殆どが帰らぬ人となり果てているからだ。

「今の情報だけでもSレートは硬いだろ。

確かにアイツの隙をついて殺すにはうってつけかもしれないが…逆もあり得るのだからな。

本気で気をつけろ。敵はダンジョンより恐ろしいかもしれないのだから。」

「ふん!誰に物を言ってるの!?

天才と謳われたこの私が二度も遅れをとるわけがない!」

言って私は踵を返す。

「おい!どこに行くんだ!」

「荷造りよ!荷造り!!遅れでもしたら何言うかわからないじゃない!あのクソは!」

ぷりぷりしながら私は叫び、そんな様子をアルフレッドはため息まじりに見ていたのだった。

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