魔王、アルフレッドを泣かす
訓練場に来た勇者達は制服でも昨日のような正装でもない、異世界人が用意したと思われる動きやすい服装だった。
彼らは腰に軽そうな剣を挿していて、ぱっと見は異世界出身者にしか見えない。
と、いうかこいつら順応早いな!
若いって凄いなと感心してしまう。
「それでは訓練を始めます!一同、礼!」
アルフレッドの一声に高校生3人組が礼をする。
私もしてみた。
逆に驚かれた。
解せぬ。
「そ、それではスキルを使いこなす為の極意をお教えしましょう。」
ごほんと咳払いをしてアルフレッドは話す。
「と、言っても大したことはありません。
スキルはただそこにあるだけで、その特性が十全に活かせるようになっています。」
不思議そうな顔をする高校生達。
「つまり補正がかかるってことだね。」
私が合いの手をいれてやる。
「補正……ですか?」
美香が聞いてくる。
「そう、人が十時間練習して漸く達成可能な技術をスキルを持っている事により半分以下の時間で手に入れる事ができる。」
「才能……みたいなもの?」
直美がおずおずと聞いてくる。
「ああ、そう置き換えてもいいかもね。
ただこの世界ではなんの才能を持ってるかが明確にわかり効率よく自分を磨けるって思えばいいよ。」
「なるほど!」
裕太が快活に応じた。
「「「……」」」
逆に唖然とするのが指導者達。
指導者達はまさか私が高校生組と交流を持つなんて思ってなかっただろうし、彼らも傍若無人な私を受け入れるなんて思ってなかっただろう。
しかし、昨日のパーティー。
私は3人組の1人である聖女を助けてやった。
彼らがどういう関係なのかは知らないが、元々知り合いのようだし、仲が良さそうだから助けたら好感度あがるかなって思ったから助けたんだよね。
まあ、ドラゴノイドが関わってなかったら切り捨てた程度の存在だったけど。
人間ってのは単純でこいつ嫌な奴!って思った人がちょっといい事するとめっちゃ善人に見えたりする。
それはもう理不尽なほどの補正がつく。
そうでなければあんなにもツンデレが流行るはずがないし、雨の日に子猫を家に連れ帰る不良が美化されるわけないのだ。
つまり、高校生3人組にとって私は今好感度が通常の倍上がってるし、倍々式にこれからもあがる。
一応時代こそ違うが同じ日本出身同士交流は図っておいて損はない。
少なくても敵対されるよりかは仲間意識を持ってもらいたい。
一度完全に敵対してしまってから仲良くするより仲良くなってから切り捨てる方が簡単だというのもある。
なので珍しく私は笑顔で高校生にレクチャーしてみる。
彼らは一応スキルという単語はゲーム用語として出てくる程度の知識はあるようだが、細かくは知らないようだ。
150年前はそこまで実感できるゲームなんてなかったのだろう、所詮TV画面のクラシックゲームなのだから。
「…と、いう認識で合ってるよな?」
「…は、はい!まさしくその通りです。」
「つまり例えばその剣。」
私は裕太の剣を指差した。
「きっとすぐに剣術ではそこの団長を抜くほどの強さを持てるぞ。」
「おー!」
「えー、本当?裕太がぁ?」
裕太が嬉しそうな声をあげるが、直美が疑いの眼差しだ。
しかし疑っているのは私の説明ではなく、裕太の性格だろう。
剣とは無縁に生きてきたお調子者が最強の剣士になれるのか、といったところだ。
「ごほん、但し全てがスキル補正で片付くわけでもありません。
結局は努力がものをいいます。」
「うう…あの…」
おずおずと美香が手を挙げて声をだす。
「私のスキルって何をどうすればどうなるのでしょう。」
「そこは指導者の領分だな。
私の知ってる聖女とこちらの聖女はどうも違うようだしな。」
「そちらの世界の聖女とはどのような存在なのでしょう?」
「一言で言えば特化型戦士だな。」
「特化型ですか?」
「回復魔法以外使えない」
「「「え?」」」
美香とアルフレッド達がハモる。
「そ、それは戦士なのですか?」
「さあ?私は剣や盾を持つもの以外も当然戦士だと思うがこの世界では違うの?」
「……」
指導者達は顔を見合わせる。
もしかしたらマジで彼らにとって剣や盾を持ちわかりやすい攻撃や防御が出来るものしか戦士とは言わないのかもしれない。
この世界の回復士の地位の低さに合掌。
「そこまで驚くとはやはりこの世界の聖女と私の世界の聖女は違うようだな?」
「は、はい、聖女は戦乙女。
美香様は単なる聖女ではなく勇敢なとつくので相当な攻撃能力を保有していると思われます。」
「……攻撃するんだ…」
「先代聖女様はシミターを愛用して魔族を斬り伏せついた渾名がミンチの聖女でした。」
「怖い…」
ガタガタと震え上がる美香。
「わ、私はそんなのやりたくない…!」
「うん、美香には無理だね。」
「えーっと、なんて呼べばいいのかな、お兄さんの世界の聖女を目指せばいいんじゃない?」
裕太の言葉にはっとする美香。
それにしてもお兄さん…いや、別にいいけど。
「そ、そうです!そうします!!」
「え!?そ、そんな!!?回復魔法など誰でも最低限は使えるようになるんです、そんな些事に拘らず少しでも攻撃可能な戦力として……」
「まあ、あれだな」
エルゼルが言い募る様子に私はぽつりと言葉をこぼす。
途端皆が黙り私に注目する。
「いくら強力無慈悲なスキルを持とうとも持った人間の気性と合わねば無駄そのもの。
元々争いを好まぬ性質なのだ、この選択は寧ろ予想通りだろう。
どうせ我らは異世界から来た勇者なのだ。
こちらの世界とは文化が違う。
我らは我らの文化に則り勇敢に戦えばいい」
「「「……」」」
私の言葉に不服そうな指導者達。
ゲームでは回復役は結構重宝された。
回復魔法系統スキル取得が可能なジョブが限られていたからだ。
しかしこの世界では回復魔法は誰でも使える最低限度の魔法となるらしい。
どの程度の魔法を使えるのかは知らないが回復魔法無双は死者を蘇らせるレベルでないとありがたがられないだろう。
私?
実は回復魔法は使えない。
なので回復が欲しければ装備品やアイテムでなんとかするしかないのだ。
…あまり回復が必要な事態にならなかった弊害である。
「私は私の聖女を目指しますね!」
青春真っ盛りのキラキラ笑顔を向けられて眩しさのあまり顔を背けた。
「…わかりました、美香様は現状回復魔法を学ぶことで話を進めましょう」
「はい!」
「そして、お二方は剣の勉強ですね」
直美と裕太は顔を見合わせた。
二人とも微妙な違いはあれども剣系統のスキル持ちだ。
しかも裕太に至っては最強の冠言葉あり。
彼より上の剣士は存在しない高みまで上り詰めることが出来ると約束されているのである。
「まずは基礎練。基礎練にはユーリがお付き合い致します。」
言われてユーリが前に出る。
ドレスアーマーは華美で露出度が高い。
一目見た程度では到底戦う為のものとは思えないが、一応防御力はある。
ゲームで考えると二級武器防具の防御力、攻撃力は21から40と決まってる。
しかし、特殊効果を持つと一等級分下がってしまうのだ。
「そして……勇者様」
キリッとした表情でアルフレッドが私をみる。
「ん?」
「勇者様はスキルが現状不明。
それでも元の世界では魔法を使えるお立場だった模様。
勇者様のお力がこの世界で通用するのか…
是非確認したいと思うのですが?」
「具体的には?」
「一度手合わせを」
「ふふふ…」
私は微笑む。
予想通りの展開で笑えるのだ。
そう、そうだよ、バトルのないゲームなんてクソゲーだ。
私としても鑑定結果的には無双可能と出るが本当に可能かどうか試したいと思っていたのだ。
念の為手加減は考えない。
今の装備で出来る事を全力でやろう。
「いいとも。私としても本当に私に魔王が倒せるのか確認したいところだったのだ。」
「ありがとうございます」
「で、君だけが私と手合わせを?」
「一対一での勝負こそ騎士の誉れですから」
「ほう?」
ふと彼を鑑定して彼のスキルを見てみようかと思ったが想像がついたのでやめた。
「では、早速始めようではないか。」
「はい、こちらへ移動を」
「あの、私達後学のため見学してもいいですか!」
直美の言葉に快諾する。
そうなるとユーリのすることがなくなるので、全員が見学となる。
見学組は危険がないよう大きく下がり、私とアルフレッドは充分な広さのある場所で程よい間隔をあけて対峙した。
アルフレッドが剣を抜く。
見た目は柄は勿論、刀身までもが漆黒のロングソード。
漆黒なのが堕天使っぽいといえば堕天使っぽい。
隙のない構えを見せる。
「いいのですか?いきますよ?」
「どうぞ、いくらでも」
私は余裕綽々で両手を広げ何も持ってないアピールをする。
無論ただの挑発ではない。
私の武装は攻撃されない限り攻撃できないのだ。
何故ならあくまで防具だから。
「チッ、王国騎士最強と誉れ高いこの私を舐めるな!」
怒声と共に彼は地を蹴り一瞬で私との距離を縮め斬りつけてきた!
上段から袈裟斬りにするつもりの一撃に加減は見当たらなかった。
当たれば会心の一撃としてそれなりのダメージが入っただろう。
しかし。
ガキン!
見えない何かに阻まれてその一撃が阻まれる。
「「「!!!?」」」
アルフレッドは勿論、見学組も眼を見張り驚く。
だが、これで終わらない。
攻撃されたら自動反撃。
それが命中するまでが私の『防御』なのだから。
私はベルトのバックルに内蔵された小型のナイフを引き抜く。
「「「!!?」」」
まさかそんなところから武器が出てくるとは思わなかったか、はたまた魔法を繰り出すと思っていたのか、想定外と言わんばかりの表情を見せるアルフレッドと見学組。
だが、このナイフ、ベルトのバックルに隠せる程度だからかなりの小型。
赤髭危機一髪のナイフ程度のサイズ。
見た目ではどの程度の破壊力を要するかなんてわかるはずもなく。
アルフレッドは私の武器を見て警戒を薄くした。
だがな、このナイフどれほどのプレイヤーをキルしてきたかわかるかい?
自動で私の手がアルフレッドの眉間に向けてナイフを放った。
うわっ!私の手は本気でアルフレッドを殺しにかかってる!!
アルフレッドは私のナイフを弾こうと避けずに剣を構えて一閃した。
キィィン!!
漆黒の刀身が砕け、それでも勢いが殺される事なく眉間にナイフが深々と刺さった。
「「「!!!!?」」」
アルフレッドは自身の刀身が砕けたのも、眉間に小さなナイフが刺さったのも信じられない思いで仰向けに倒れた。
「あ、やべ」
私は勿論、見学組も慌ててアルフレッド近寄る。
「し、死んでる…」
エルゼルの言葉に勇者3人の顔色が青くなる。
「な、なんで!?ただの訓練ですよ!?
何故手加減しなかったの!?」
食ってかかってくる美香。
しかし、彼女の言葉を遮り私は懐からポーションを取り出しすぐさまかける。
ポーションにも種類がある。
ローポーション、ミドルポーション、ハイポーション、フルポーションの4種類。
そして今かけたのはフルポーション。
それはたとえ死んでいても傷を治癒するポーションであり、この世界でもその薬効は正しく機能、一瞬で治癒し、ポロリと私のナイフがアルフレッドの眉間から取れたので拾ってベルトに再び仕込む。
アルフレッドが生き返り目を覚ました。
死んだ事を理解しているアルフレッドは信じられない面持ちで眉間に手を触れる。
「…死んだよな?」
「うん、どう見ても瞬殺でした」
「そんな馬鹿な…。」
暫し呆然としていたがやがて近くに砕けた剣を見つけ地に伏せすすり泣く。
えー?私が虐めたみたい…。
助けを求めて私は見学組を見れば…
「え!?凄い!死んだのに生き返った!!」
勇者3人からは驚きの声をあげた。
まあ、リアルの世界では死者は蘇らないからね。
神が起こした奇跡にしか見えないだろう。
「今のは蘇生の秘薬ですね?」
しかし、エルゼルを含め異世界組は死者が蘇っても特段驚かない。
「こっちの世界ではそう言うの?
まあ、その通りだけど。」
どうやらフルポーションに相当する物が存在するらしい。
「かなり高価で希少な品ですが…まあ、貴方が殺したんですし、使うのは当たり前ですよね?」
「別に助けなきゃいけない理由は全くないけどあんたらがうるさいからね。」
私の言葉に命知らずのバカが言う。
「そうですか…その傲慢な態度、後悔させてみせます。
次は魔法で勝負です」
エルゼルが名乗り出たのだった。