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魔王、パーティーの余興に参加する

ドラゴノイド

竜人とも言われる人種であり、竜の血がその身に流れている。

クロフォード家はドラゴノイド系統の貴族であり、見た目が人間とは違っていた。

息子の銀色の髪は人間のそれとは違い針金のように固く、黒い瞳にはよく見ると瞼がない。

肌には鱗こそないものの人間の肌より乾燥しており硬く、剣を受け付けない。

そして何より人間と違うもの。

それは尻から伸びる爬虫類を思わせる尾。

こちらは緑色の鱗がびっしりと生えていた。

父親もよく似た姿であり、彼らを知らなくても親子ですかと問いかける事が可能なほど。

違うのは血の気の多さだ。

この場には彼と同じドラゴノイド系統の貴族家が12家招待されており、彼の父親が最も温厚であり、家格が一番上だった。

だから全ドラゴノイドが切れてもクロフォード侯爵なら他家を止められると踏んでクソにけしかけたのだが……

そんなクソにかまけている場合ではなくなった。

この場にいたドラゴノイド全員が切れた。

切れた相手は王太子。

その事実がすっぽり抜け落ちるほど禁断のセリフはドラゴノイドにとって重要な意味があった。

ドラゴノイドは全員もれなく自身に流れる竜の血に誇りを持っている。

その誇りを汚す行為はたとえ王太子であろうとも謝罪を要求するだろうし、あの王太子が簡単に謝罪するはずもなし。

まずい、まずい!!

私の焦りを無視して事態は動く。

最悪な方向に。

「と、蜥蜴を蜥蜴と言って何が悪い!

貴様ら文句を言うなら不敬罪で処罰するぞ!」

その言葉にドラゴノイドの怒りの沸点が高まる。

ドラゴノイドはあらゆる人種の中で最も血の気が多い。

一度切れると白黒つくまで場合によっては暴れる。

クロフォード侯爵など、その特性を逆利用して魔族の一個師団を僅かな手勢で仕留めた功績すらあった。

王子付きの護衛が動いた。

ドラゴノイド系統貴族も動いた。

護衛の手には剣があるが、貴族達に剣はない。

しかし、そんな事はたいした意味はない。

「誰が蜥蜴だ!!!クソッタレ!!

今すぐ謝罪を要求する!!」

「誰が蜥蜴ごときに頭を下げるか!

私はこの国の次期国王だぞ!」

「貴様程度が次期国王であることをトワイライト王国民として嘆くしかないな!」

ギルバート王子は政治的手腕は王を超える。

しかし、比べる王がそもそも優秀ではないのが問題であり、他国を見ればもっと優秀な王子はいくらでもいる。

瞬間、王子の頭に血が上り怒りで心が支配される。

これで頭に血がのぼることを王国民として喜ぶべきか嘆くべきか…

ギルバートは周囲が持ち上げるほど優秀ではないと自身が理解している。

そうでなければ今の言葉で切れるはずもなく、しかし今この場で怒りで支配されるのは悪手でしかなくて…

ギルバートが近くにいた護衛の剣を奪った。

「!?」

そして目の前の息子に斬りかかる!

確かにドラゴノイドの肌は硬く剣を通さない。

しかし、斬りつけていいわけない。

王子の想定外の行動に誰もが動けなかった。

しかし何事にも例外は存在する。



ひとりの男がその剣を指先で受け止めた。


剣を振るった王子は元より守られたドラゴノイドの貴族子息も近くで見ていた聖女もその指導者も……何より現代魔導師最高峰と名高い自分さえも何が起こったか理解出来なかった。


まず、王子のスキル。

彼のスキルは『剣技』と『剣術』

どちらか一方ならヒト族男子5人にひとりくらいの割合で生まれるありふれたものであった。

しかし、二つ揃って出る可能性は決して高くない。

スキルとは不思議なもので似たようなスキルが存在し、実際違いがわからないものも多い。

このふたつのスキルはその代表とも言えた。

しかし、この似たようなスキルが揃い、本人の気性とマッチすると、途端に強力な…いや、凶悪なスキルへと変貌する。

幸いにして王子は剣を振るうことより政治に興味がある性質であり、気性とは合わなかった。

しかし、それでも王族として一通り剣は習っており、スキル補正もあって片手間で学んだものだというのに中級レベルの騎士では太刀打ちできないほどの腕前であった。

その彼が放った…怒りで多少手元の狂いはあったかもしれないが…渾身の一振りを指先一本で止めた男。


名は未だ持って不明。

光の加減で色味を変える不可思議な髪を持ち、エルフを遥かに超える美貌を持つ男。

その男がいつのまにか移動してドラゴノイドを守ったのだ。

「ーーーな!?」

ギルバートが怒りも忘れて驚愕の声をあげる。

ギルバートもまた美しい男であったが、勇者として召喚されたこの男には一歩及ばない。

だが、2人が対峙する姿は絵になった。

いや、何を考えているんだ、私は。

頭に浮かんだよくわからない邪念を振り払い事態の推移を見守る。

「そういえば、あの魔法は好きだ」

勇者の最初の言葉は意味不明だった。

だが、次の瞬間『あの魔法』を私は理解した。

剣が花に変わりその花が不意に巻き起こった風に乗ってパーティ会場に降り注いだのだ。

「うわぁ」

令嬢や貴婦人達の感嘆の声があがる。

ドラゴノイド達も怒りを忘れ幻想的ともいえる魔法に酔いしれた。

ドラゴノイドは酒と同じくらいに…誠に信じられないが…美しいものが好きなのだ。

宝石、美姫、そして花。

竜の血のせいかどうも冷酷な印象を与えがちな顔をしているドラゴノイドだが花を愛でる姿は乙女を彷彿させる。

会場の悪い空気が一瞬で掻き消えた。

「皆さま!楽しんで頂けましたかな!?」

「……?」

唐突に会場全体に聞こえる声が放たれる。

魔法によって拡散された勇者の声は実に魅力的であり、魅了魔法を疑ってしまう。

「これぞ、ギルバート殿下自ら行った余興!」

余興!

その言葉が偽りだと知るのは当事者のみ。

しかし…

頭にのぼった血が下がった事により事態の問題を正しく理解したギルバートはその案に飛びついた。

そして、王子スマイルと呼ぶにふさわしい笑顔を振りまく。

その笑顔に令嬢はもとより聖女様も頬を染める。

「そう、これは余興。勇者達を迎え入れるにあたりありきたりな宴では些か退屈と思い少々強引に遊ばせて貰ったのだ」

そうだったのか!

さすがは殿下!!

そのような意見があっさり回ったのは事態を収めるこの案に私が乗りカリスマ魔法を放ったから。

しかし、他のドラゴノイドはともかく蜥蜴呼ばわりされた張本人はそれでは済まない。

何か言おうとしたところ、殿下はにこやかに、微笑み手を差し出した。

「君を無断で使う為とはいえ蜥蜴呼ばわりして誠に申し訳なかった。

これは王太子としてではなく、ギルバート一個人として謝罪させてもらおう。」

流れにのっての謝罪。

しかも王太子が立場を抜きにして謝罪するとあっては断る訳にはいかない。

これが余興でもなんでもないと知っているが謝罪されたことには間違いがない。

勇者の顔を立てるという意味合いも含めてその手をとった。

わぁ…!

令嬢、貴婦人が歓声をあげた。

美しく儚げな女性を巡る美形2人の言い合いはハラハラドキドキ。

剣を抜いた瞬間は本当に時が止まったように思えた。

しかし、間に入った勇者の手により凶行は防がれ、心を奪うような美しい花が舞う。

そしてタネを明かすマジシャンのように明るく微笑まれれば余興の言葉を信じてしまう。

そしていがみ合った2人の和解。

上質な演劇を楽しんだ気分に浸れた。

歓声があちらこちらからあがるのも無理はない。

場の空気は余興前より遥かによくなり止まっていた進行の流れが戻る。


そう、場の空気がよくなってしまった。

私と勇者の目が合った。

そして

「ーーー!」

勇者が嗤った。

見たことないが魔王という単語が頭を掠める悪い笑顔だった。

そして気づく。

私の企みなどとっくの昔にお見通しで軽く一撫でされたのは寧ろ私だったということに。

仮にも最高峰と誉れ高い大魔導師たる私のプライドはズタズタだった。




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