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第8話 恋する乙女のランチバトル



「翔くん、お味はどうですか?」


「あ、おいしいよ。玉子焼きとか。」


「そうですか、よかったです。」


「しょーくん、私のもあげる。はい、あーん。」


「な、何してるんですか!やめて下さい、翔くんが困ってるじゃないですか。」


「……ちっ…」


「舌打ちしないで下さい。私は当然の……」


「三沢翔。私からも恵んで差し上げますわ。」


「「抜け駆けしないで下さい(するな)!」」


「わ、私が抜け駆けなど……」


「じゃあ今のは何なの!?」


「それは…お二人で騒いでいたからですわ。」


「だからって抜け駆けを許す訳にはいけません!」


「ですから、抜け駆けなんてするつもりではありません!」


「ちょ、ちょっと、三人とも落ち着いて」


「「「邪魔しないで」(下さい)!」」




ずずずーーーー…


はぁ〜


「なあ、和久。助けなくてもいいのか?」


隣で弁当をつつく健人が言う。


「具体的には来てくれとしか言われてない。」


「でも、それってこういう時のためだよな。」


「健人、言葉は額面通りに受けとるべき時もあるんだよ。」


そして、二人で騒乱を見る。


「……和久、お前の案に従うよ。」


騒乱は激しくなっていく。


「そう言えば健人、昨日はどうして道場に来なかったんだ?」


翔が救いを求めるようにこちらを見る。


「ああ、昨日は一人で家事全部やることになって行く暇がなかったんだ。スマンな。」


ハーレム員が翔を引っ張り始めた。


「謝る必要はない。何があったのか知りたかっただけだ。」


痛いと翔が訴える。


「そう言えば昨日は差し入れがあったぞ、健人。」


それは私の気持ちの強さのせいだよ。と、川内が訳の分からない言い訳を言う。


「マジか!?何が差し入れされたんだ?」


翔くんが痛がっているから放して下さい。と、佐井が二人を促す。


「レモンのハチミツ漬けだ。」


お断りですわ。と、浪岡がサラリと流す。


「誰の親がくれたんだ?」


翔がこちらに裏切ったなという視線を送る。


「とある門下生の姉だ。ついでに言うと翔ハーレムの面子でもない。」


じゃあ翔(翔くん、しょーくん)が決めて。と三人は揃って言う。


「くそっ、貴重なチャンスを無駄にした。それでどんな人なんだ?」


何を?と、疲れきった翔の声がする。


「フランクな女性だ。年は二つ上だったかな。」


明日、誰と出かけるか。とまたも三人揃って言う。


「和久、その人がまた道場に来る可能性は?」


いつの間にそんな話になったんだ。と、翔が質問する。


「俺が頼めば来てくれると思うぞ。」


そんなことどうでもいいから早く決めて。と、急かされる翔。


「なんだ、和久の彼女なのか?」


のんびりと昼を過ごす二人の元に、和久、健人、ヘルプ!と今までにない程強い思いが伝わる。


一旦会話を中断し翔の方を向くと、そこには美少女三人に揉みくちゃにされたハーレムの主が真っ直ぐこちらを見ていた。


「健人。」


和久はそう言いながら立ち上がる。


「髪が乱れてる気がするから鏡の所まで行かないか?。」


当然、教室内に鏡は無い。


「…了解。」


二人が教室を出たあと助けてー!という悲痛な叫びが聞こえたとか。












「さて、話の続きだが、あいつは俺と付き合ってる訳ではないぞ。」


廊下に出て、適度に教室から距離を取った場所で立ち止まる。


「そうなのか!?だったら俺に紹介してくれないか?」


「断る、面倒だ。」


姉弟なんだ、付き合えんだろう。の言葉は心の中に閉じ込めておく。


「まあ、変わったところで人の縁はあるものだからな。」


「俺はその縁があるよう願うぜ。」


いや、もう出会ってるぞ。


「で、お前の目から見てその人はどうなんだ?」


「どう、とは?」


「だから、顔とかスタイルとかの感想。」


そう言う健人の顔は悪戯を仕掛けているかのように笑っている。


「岩木君、倉石君、髪は整え終わったの?」


そんな時、突然声をかけてきたのは本校男子の最後の希望。


「ああ、和久に仲の良い女性がいるらしいから訊いてるところ。」


「え?倉石君に?…なんか意外な感じ。」


お前ら、人を何だと思ってる。


「それで、どんなタイプなんだ?可愛い?綺麗?」


可愛いか綺麗か。由恵はどちらなんだろう。


どちらも余りしっくりこないし、いい返答が出来そうもない。ここらで話題を潰すか。


「そんなに死りたいのか?」


もちろんブラックな笑顔での発言。


「なんか『し』の字が間違ってる気がするんだけど。」


「気のせいにするか現実にするかはおまかせするよ。」


じゃあいいや、と言おうとする健人より先に高野崎が口を開く。


「倉石君って言葉で脅すことはあるけど実際にそんなことをした事は無いよね。あのことを言おう、とか言っても『あのこと』について具体的な発言をすることは無いし。」


それを聞いた健人は、あっと声を漏らし確かにと頷く。


「分かってしまえば恐くないものだな。さあ、聞かせてもらうぞ。」


そうか、聞きたいなら聞かせてあげよう。


「俺が人の弱味を握ってないと思ってくれても構わないな。その時は岩木家の御両親に『お願い』をするだけだから。」


ヒッと顔を強張らせる健人。表情豊かだな。


「別のやり方をとろうか?例えば岩木家の収入の8割を担っているお前の姉を潰すとか。」


「ちょ、ちょっと、なんで他人の家の家計を知ってるのよ。」


驚き固まる健人の代わりに口を挟んだのは高野崎。


「次は高野崎の番か?それなら言おう、高野崎の…」


「言わなくていいから!」


珍しく声を荒げる高野崎。耳が赤いのを見るに余程言われたくない秘密があるのだろう。


高野崎の予想通り俺は彼女に対しハッタリしか使えるカードが無かったのだが。


「そんなことより私はあなたたちを呼びにきたのよ。」


「呼ぶ?何故?」


「三沢君が危険な状態になってるから。」


「…そうか。」


高野崎が来たということは危険度が高いのだろう。そう思い歩きだした。





「元気出して。実際に弱味を使われることは無いと思うから。」


「うぅ…」












ガラリ


うむ。翔は二重の意味で危険だった。


両手は千切れんばかりに引っ張られ、何の因果か首が絞まっている。


そして、クラスの男子の目が犯罪者のそれになっている。犯罪集団にいる俺が言うんだ、間違いない。


まずは直接的なものから取り除こう。


「佐井、浪岡、川内、それ以上やると翔に嫌われるかも知れないぞ。」


示し合わせていたかのようにパッと力を抜く三人。それを見て翔に近付く。


「佐井、浪岡、条約を破る気か?」


相手を見ず、翔の状態を確認しながら言い放つ。


「別に周りには危害を加えてませんわ。」


「翔もこのクラスの一員で、今起き上がれない状態だが、それでも条約に反してないと言えるか?」


うっと詰まる浪岡、すみませんと謝る佐井。


条約とは俺が佐井と浪岡に取り付けた約束で、『この学校の学生及び教員に対し危害を加えないこと。また、学校備品の破壊も禁止する。』といったもので平和な学校生活を送るための重要な盾だ。


彼女たちが条約を守らざるを得ない状態にしたのは、俺の『そんなことをする人だと知ったら翔はどう思うかな?』の一言。


まあ昔の翔の写真もあげたし、悪い印象は持っていないだろう。



確認を終え、荒んだ目付きをしていた野郎どもを振り返る。


「お前らも大切なクラスメイトに危害を加えるなんてしないよな。」


うんうん、と頷く男子一同。一部から「勿論です、総帥。」と声が届く。


笑みだけで分かってくれるのはやり易くて良い。…それにしても総帥?



「川内。」


「呼び捨てするな。」


「却下。」


……


「話がある。」


「告白なら断るわよ。」


「寝言を言う暇があるのなら翔以外のクラスメイトの名前も覚えてろ。」


……


「それで、話って?」


「この二人と締結した条約と同じ条約を結ぼうと思う。内容は、生徒、教員、備品に被害をだす事の禁止。」


「こちらの取り分は?」


「翔に問題行動を伝えてもいいのか?」


……


「利益が無い訳でもない。こちらも二人と同じ処置だが、君の知らない翔の写真を一枚進呈しよう。」


「…私の知らないしょーくん?」


「左様、小学三年から高校一年まで、いつのものかを指定すればその頃の写真の内、最も翔が映えて写っている写真を、だ。」


「…中二で手を打つわ。」


「了解。」


ふむ、これでまたのんびりと学校生活が送れそうだ。




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