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第7話 新たなる火種

「ふぅ。」


学校の自らの席にて一息つく。


今日は昨日の事後処理で色々疲れたためにいつもより遅れた。


教科書を取り出そうとしてやめる。


時計を見る限り間もなく先生が来る時間だろう。





ガラリ


「早く席に着きなさい!」


と、落ち着いた声で強調するという変わった技術を使うのは担任の鈴木先生(男性教諭、担当日本史、定年間近、小柄、吹奏楽部顧問、『コーヒーと煙草はやめられない。』らしい、歩行速度が常人の半分、背筋を伸ばし自転車を漕ぐ姿がカワイイと評判)だ。


「今日は、転校生がいるから早く来ました。」


三秒だけじゃないか、と思っているとヒューと口笛が鳴る。音源は健人だ。


「我々のクラスに新しい仲間が来ました。さあみんな盛り上がって、歓迎しよう!美女か!?野獣か!?いずれも我等が友にしよう!!!」


イエーイ!、とあちこちから歓声が上がり、転校生はどんな人だろう談義が始まる。


健人は二年になり新しいクラスになったばかりの時も似たような前科を犯し、クラスを一致団結させた経歴がある。


「この馬鹿岩木!静かにせんか!」


鈴木先生は教卓の上に置いたファイルを持ち、その角で容赦なく健人の頭を叩く。


叩く。


叩く。


叩く。


「お前はそんな事を言うから馬鹿野郎だと言っておるんだ!」


「い、痛い、痛いから止めてって。」


バコ、バコ、バコ


クラスメイトはいつの間にか転校生はどんな人談義から、鈴木先生の健人叩きの鑑賞へと移っていた。


ここで笑って見ているだけなのも、このクラスらしいというやつだろう。


「それでは、入って下さい。」


健人を叩き終え、ついさっきまでファイルで健人をたこ殴りにしていた人間の声とは思えない声で呼ぶと、ガラリというドアの開く音の後、野郎共の大歓声が響く。


予想はついているだろうが説明すると、そいつは女子生徒だった。


それも世間一般では美少女と言われるような。


男子生徒はまだ翔の影響を受けていないだろう美少女にとても興味が出たようだ。


川内初美、転校生はそう黒板に名前を書く。


二房に括ったちょっと長めの髪、しっかりとした意志のかいま見える目鼻立ち。顔付きを見るにセイバーズの人間のリストには載ってなかった筈だ。


しかしまあ、クラスの男子共には悪いが美少女となるとあいつとのイベントが起きるんだろうな。


そう思いながら翔の方を見る。


ん?


なんで驚いたように目を見開いているんだ?


視線の先には例の転校生。「川内初美かわうちはつみです。よろしくお願いします。」とハスキーな声で自己紹介をし、ペコリと頭を下げている。


どういう事だ?と首を傾げていると転校生の方も翔のところで驚いたように目を止めた。


曲がり角でぶつかった……というのは四月に新入生相手にやったはずだから……絡まれている所を助けたとかか?


「     」


転校生が何事か呟く。


「     」


翔も何事か呟いた。


すると転校生の方がすたたたたと翔に駆け寄る。


「しょーくん!」


今度はクラス全員に聞こえるくらいの声を上げ、彼女は翔に飛び付いた。












「翔くん。お弁当作ったので一緒に食べて頂けませんか?」


昼休みに入り、佐井が川内を牽制しつつ翔に言う。


そうそう、川内は翔の幼馴染みというやつらしく、偶々同じ学区に引越しこの学校に転校することになったらしい。


「へ?弁当?」


翔は首を傾げ、俺を見てくる。


(昨日の頼む必要はないってこのことか?)


その目はそう語っていたので首肯。


「でもどうして?」


「え、ええ!?…そ…それは……その…」


翔以外は知っている公然の秘密をまだ言わないつもりなのか。


「…翔くんのためにです。翔くんがたまには弁当も食べてみたいと言っていたのを聞いてまして。」


お、攻めた。川内の存在に触発されたか。


「そうなのか、ありがと。」


そう言ってニコッと笑顔になる翔。


「…ぁ…」


それを見ていた佐井、川内、そしてもう一人のこのクラスのハーレム要員、浪岡綾華(なみおかあやか)は揃って顔を赤く染め、うつむいたり固まったり目をそらしたりしている。


「わ、私も知り合いといた方が気が楽だから一緒に食べてもいい?」


(わたくし)も御一緒させてもらいますわっ!」


川内と浪岡も翔の独り占めを阻止せんと立ち上がり、三つ巴の戦いが始まろうとしている。


そんな空間の軋轢に耐えかねたように翔が必死にアイコンタクトを送ってくる。


(頼む、空気の緩和のために来てくれ。)


首を横に振る。



救出出来るもう一人の人間、高野崎はというと友人と共に弁当を食べ始めており、たまに来る『やはりこの世の希望はあなただけです。』と言う男子の対応に追われている。


その後、翔の要請は要望、懇願となり、とうとう哀願まで至ったところで可哀想に思えてきて渋々承諾した。


ただ、一人であれを無視し続けるのは無理だと思い、道連れへアイコンタクトを送る。


(健人、お前も来い。)


返事は両手の平を顔の前で合わせるというもの。


(ゴメン無理。)


友情を見捨てる奴をジーと冷たい目で見る。


(ホントにゴメン。)


まあ、かなり申し訳なさそうにしているし許してあげよう。


そう思い笑ってみせる。


目が変化していない気がするがら気にせず口元で笑みを表現する。


健人が目を見開き、肩を小刻に震わせ、口をパクパクさせる。


どうしたんだい?


笑みを深くする。


途端、健人は慌てて何かに急かされるかのように俺に近付いてくる。


「やっぱり友と共闘する道を選ぶよ。」


そう小声で言った健人に礼を言う。


いやぁ、友情とは良いものだねぇ。


フッフッフッフッフ…



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