【改稿前】
苦しい。
それが悲しみから来るものであることは、頭では理解している。
それでも、その悲しみを感じることが出来ないほど、苦しい。
梅雨にふさわしく大雨が降り注ぐ中、ポツリと、たった一人傘も差さず歩道を重い足取りで歩く。
一方の隣には変化などなくいくつも車が行き交っているというのに、もう一方の隣にはあるべき人影が無くて、ただ一人分の空間のみがポッカリと欠落したように空いている。
苦しい。
苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて、苦しい。
大切なものは目に見えないというが、目に見える大切なものが無くなったら…。大切なものは失って初めて気付くというが、失う前から大切だと分かっていたものを失ったら…。
解は今の通り。
心臓が張り裂けるように、ワイヤーで締め付けられるように、内側から爆発するように、強引に折り曲げられるように、荒れ狂う波に揉まれるように………
どうしようもなく、苦しい。
抑えようのない痛み。
ココロを震わせる悲しみ。
ソラが病院から出られなくなった時も、残念でこそあれ悲しくはなかった。
彼女と歩くべき道が閉ざされてしまっても、自分はそこに留まる選択に対して何も迷うことなどなかったから。
――そこに彼女がいたから――
しかし、
もうソラはいない。
日常が土台を失い瓦解する。
日々の基板が消え、後に残るのは儚い過ぎ去りし栄華。その幻影すら、思い起こす自分に重圧を与える。
何とかなると、世界なんて大舞台では何も出来ないようなガキでも、この手の届く範囲なら何とかなると、そう思っていたのに………っ!!……………すぐ隣にいた一番大切なものすら守れなかった。
何でだろう。
何で世界はこんなにも理不尽で不条理で残酷で無慈悲で不完全で抗がい様がなくて矮小で横暴で下愚で陰湿で無情で悲運で不合理で辛辣で哀愁に満ちていて無為で不毛で脆弱で劣悪で悲惨で無粋で卑怯で暗愚で非道で無茶苦茶なんだろう。
地球は相変わらず回っていて、テレビを付ければ毎度のように夏へ向けての特集が組まれていて、デパートに行けば何組も恋人たちが笑い合っていて、どこかの病院では難病にかかっていた人間が今正に完治に向かおうとしているかもしれなくて、あの病院にだって見舞いに来たやつらと談話に興じている入院患者が何人もいるのだろうに、それなのに、それなのにどうして全てなくなってしまったんだろう。
会いたいよ、ソラ。
許されるのなら、俺は今すぐお前のいるソッチに行こう。だけど、あの時のお前の憂いを帯た笑顔が俺をコッチに縛りつける。
何でだよ?何故……どうしてそんなにも悲しそうに笑うんだよ!
あの時お前はもう覚悟を決めてたのか?!それともあの時の俺の言動のせいでお前はそんなことをしたのか?!………どちらにせよ、俺がもっと人として強ければこんな結果にはならなかった。
最高クラスの瞬間移動。道場一の格闘技術。幾多の戦闘経験。
何の役にも立たなかった才能たち。
届かなかった。
お前の心まで。
ソラ
ソラ…
ソラ………ッ!!!
この抑えきれない後悔を、
この遣る瀬ない無力感を、
俺は、どうすればいいんだ?!
孤独
無気力
忘我
終わらない世界と
止まってしまった自分と
なあ、やりたいことは残ってなかったのか?それこそ、生きてみたいとも思わなかったのか?不治と言われたくらいで、未来の可能性まで捨ててしまったのか?
やりたいことはやってみるのがモットーだったじゃないか。
だったら生きててくれよ。
壮大な光景だろうと、美味い飯だろうと、綺麗な服だろうと、この俺が手に入れてやったのに。
どんなに無茶で無謀な願いでも、この俺が叶えてやるからさ……っ!
だからさ、
だから、
もう一度満面の笑みを見せてくれよ……
………ソラ………
…ああ……くそ…
……届かないなら……
………こんな辛い悲しみがあるのなら…
…こんな……くだらない………
「こんな世界なんて、俺が―――」
これは、ソラが死んだ日の話。
(3)です。(2)ではありません。
そういえば前話出すのが遅れてしまいスミマセン。
用事だあっただけデス。決して読みまくっていた訳では………




