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第2話 いつもの学校風景(前編)

「ふぁ〜あ。」


近いと言う理由だけで選んだ学校への道のりをマイペースに歩く。


「よう、和久(かずひさ)


横から声をかけてきたのは昨日二人の少女の睨み合いに挟まれていた三沢翔だ。


そう言えばまだ俺の自己紹介をしてなかった。

俺の名前は倉石(くらいし)和久。

最初に紹介された翔はあくまで俺の友人の一人だ。


俺は話しかけられては適当に生返事や相槌を打つのを繰り返し学校へと向かう。

登校途中は翔目当ての女子が二人待ち伏せしていて、偶然を装って一緒に登校するといういつも通りの登校風景があっただけだ。


「おはようございます。」

「おはようございます。」


和久は並んだ生徒会の面々に挨拶をし通りすぎる。

期間限定とはいえ連日のあいさつ活動とは大変そうだな。



「おはようございます。」

「おはようございます。」


翔は並んだ生徒会の面々に挨拶をし通りすぎ…


「翔ちゃぁぁぁぁああん!!!」


…ようとして一人の女子に抱きつかれた。

小柄で可愛らしい彼女は生徒会長の…生徒会長の………………名前忘れた。

まあ今日中に翔からさりげなく聞いておこう。


和久は「若いってのはいいねえ」とか思いながら影のように存在感を消し、男子生徒に多大なる羨望・嫉妬そして劣等感を与える一人を中心とするトライアングルから離れる。









戦略的転進、又は戦線離脱と呼べる行為で翔を置いてけぼりにした和久は自分の席に着き、教科書を広げ黙々と読み始める。


「おはよ。」


その声にふと注意を前方に向ける。


「おはよう。」


声をかけてきたのは比較的整った顔立ちをしたクラスメイト高野崎雪奈(たかのざきゆきな) だ。

この学校では珍しい事に高野崎は可愛いながら翔に惚れている様子が無い。


何故それが珍しいかって?それはこの学校において可愛い・綺麗と評判の女子は高野崎を除く全員が何らかのきっかけで翔に恋心を抱くようになる。

それはもうギャルゲーの主人公か、と言うくらいの恋愛フラグの乱立っぷりだ。


そのお陰か全校男子生徒の7割は高野崎に好意を抱いていると言われ、最後の希望(ラスト・エンジェル)とまで呼ばれている。



「学校に来て最初にやることが勉強だなんて、真面目だねえ。」


「そうでもないぞ。学校から一歩でも外にでたら予習復習はおろか宿題すらやろうとは思わないからな。」


そう教科書を読んでいるのは和久がガリ勉だからではなく、単に学校の外で勉強する気になれないからだ。

朝、学校に来て宿題と復習と予習をやるのはもはや日課と言っても過言ではない。


「それでどうして成績維持できるの?」


「集中すれば短時間でも覚えられる。」


「その頭が羨ましいよ。」


そうやって話しているとガラリと扉が開き、憔悴した翔が顔を出した。


「お前は高野崎と穏やかな世間話か。」


「生還おめでとう。」


俺は意識的に翔の後ろに当然のように付いてきた二人の美少女と言える女子の存在をスルーする。







俺がこんな翔と友人のになったのは小学校3年生くらいのことだったと思う。


同じクラスに転校してきて後ろの席に座る翔と話をしたのが始まりだった。

家も近くのようだったのですぐに仲良くなったのも覚えている。

あの頃は女っ気もなく無邪気に笑い合っていたものだ。


しかし成長とは悲しいもので、学年が上がるにつれて翔に好意の視線が集まるようになり、俺はいつの間にか友人の関係を保ちつつ騒乱から逃れる(すべ)を身に付けてしまっていた。



対して健人や高野崎と友人になったのは中学1年生の秋の事だと思う。


学校遠足で偶々(たまたま)同じ班になった健人が大バカをやらかして、その後処理を一緒にやったのがきっかけだった筈だ。


高野崎は善意から、俺はどっかの誰かのハーレムから逃れるためだ。




「逃げたな。」


考えていた事に妙に合う翔の台詞で回想状態から離脱する。


「無論。」


「先輩がなかなか放してくれなくて大変だったんだぞ。」


「いつも放れようとして放れられないんだ。『押して駄目なら引いてみな』の要領で先輩のペースに乗り、名前で呼び合い挨拶を終わらせるのはどうだ?」


「『(かなで)ちゃん』てか?遠慮しとくよ、余計に悪化しそうだ。」


ほう、奏と言う名前だったのか。


「ならば三沢奏先輩と呼び虚を突いて抜け出すのは?」


「だから、俺も先輩もそういう感情は無いって。」


「そうか?この前三沢奏先輩と呼んだら嬉しそうに身をよじらせていたぞ。」


「そういう冗談を言うな!あの人はすぐ悪ノリするから。普通に上北(かみきた)先輩って呼べ。」


「そうか。」


上北奏ね、メモメモ


「ん?和久、何書いてるんだ?」


「見たいなら見てもいいぞ。但し精神の健康と平穏な日常への帰還の保証はしない。」

ここで唇の端を上げ黒い笑みをプレゼント。


「い、いや、いいわ。」


そう言って翔は後ろの方の女子に囲まれた自分の席に帰っていった。




「で、何をメモしたの?」


「見たいなら見てもいいぞ。」


「ええっと。生徒会長…上北奏。…これって何のために?」


「一応、翔の周りにいる女子の名前は覚えるようにしている。そうでなければ翔に相談された時、対応できないからな。」


「覚えるって…じゃあ生徒会長の名前知らなかったってこと?」


「ああ。親切にも翔はフルネームを言ってくれたからな。」


「…つまりさっきの無茶苦茶なアドバイスは…」


「そちらの思っての通りだと思うよ。」


返事を聞いた高野崎が溜め息を吐いた。



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