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【改稿前】



 由恵と碇ヶ関を移した和久はセイバーズへ電話をかけた公衆電話まで戻り、壁に背中を預けた状態で空を見ながらじっと追手を待っていた。


 路地を通る風が和久の見上げる空へと吹き上がる。

「お前なら、こんな回りくどい手を使わないんだろうな。」


 ココに話しかけている相手がいないことは分かっていて、それでもムコウに届くような気がして、無性に語りかけたくなって、和久はソラを見ながら呟く。


「なあ、俺は誓いを果たせているか?」


 声は虚空に消えてゆく。

 青い空にはいくつも雲が浮かんでいる。

 雲の形や壁の汚れが人の顔に見えるのは、自身が人であるが故の錯覚。

 それは知っているが、それでも返事を求めてソラを眺め続ける。








「っと、感傷に浸っている場合じゃあなかったな。」


 とん、と前へ軽く跳ぶと横を一つの影と微かな突風が駆け抜け、同時に背後で破壊音が鳴る。

 とんとん、と更に二歩分間合いを開け向き直ると、案の定、俺がさっきまでいた場所に攻撃を仕掛けた翔の姿があった。

 激昂とまではいかないものの、それなりに怒気を孕んだ眼差しでこちらを射抜き構えをとる。

 だがその構えは、道場にいる時の翔のものではなく、セイバーズでの一撃粉砕の構え。当然、力強過ぎるまま。


「怜さんをどこへやった。」

 相当の理性を動員し、セイバーズの仲間が俺を取り囲むのを待ってから告げる翔。

 気配を探る。

 周りには翔と他五名、離れた場所に後援がいるかもしれないがそちらは余り気にしなくてもいいだろう。合計六名の編成チームで来た様だ。

 だが、翔は俺との間合いが近すぎるし周りの五人は距離を置きすぎ。

 これだけちぐはぐな隊列なら、翔以外の育てる駒についても楽に選定が出来そうだ。

 ほくそ笑む下でそれだけの事を思う。


(確か、碇ヶ関がどこにいるのか?だったよな…)

 翔の質問を思い出し、少し眠ってもらうための返事をひねり出す。


「残念だったな、人質と離れる訳にはいかなかったから壁一枚向こうにいてもらったんだが……………この様子だと瓦礫とお友達か。」

「!?」

驚いた翔が目を見張り、一瞬視線が逸れた瞬間


「―――騙されてんじゃねぇよ、愚図が!」

 生身の体の全力を出した上段蹴りを翔の側頭部にいれる。


 吹っ飛びはしないものの真っ直ぐに横へ倒れていく翔。それを見ながら翔の方へ更に一歩踏み出す。

 これは追撃のためではなく、一拍遅れて届くセイバーズの遠距離攻撃を避けるためのもの。


 予期していた通りに来た攻撃は当然、和久に当たらない。

 飛んできていた攻撃は炎と礫。遠距離攻撃が可能なのは二人のようだ。


 振り返って見ればこちらに近付いて来る三つの人影。内一人の男が鉄パイプやコンクリートブロックを周囲に纏っているのを見るに、先程の礫の攻撃は彼のものだろう。

 重いものに手を触れず動かす……有名な念力というヤツか。複数個浮かばせ続けているから耐久力はあるのだろう。だが………


「目的には使えないな。」


 一歩バックステップして三人をこちらへ加速させ、足の裏の瓦礫の感触を確かめつつ前――念力を使う男の方へ低く疾駆する。

 急接近にたたらを踏む彼。棒立ちになりながらも何とか鉄パイプを前面に出すのは、戦いに身を置くものとして見てもギリギリ及第点といったところか。

 なんとなしに出された鉄パイプを足運びで避けて肉薄し、超至近距離から鳩尾へ勢いを乗せた掌底を放つ。


 一人撃墜。

 体をくの字に曲げて2メートルほど飛ぶのを視界の端に収め、半身になって次の攻撃に備える。


 横から飛んで来た火の玉を避けたところへ攻め込んでくる接近戦型の二人。男が前、女が後ろで走っているのは何らかの作戦か。

 前を走る男が最後の一歩を強く踏み出す。振りかぶられる右腕。その攻撃を受け流そうと構え、ふと違和感を感じる。


 突き出される右手。その右手が開いている。

 自分の手が怪我するかなど考えもしないように伸びてくる右手。

 つまり――

(触れてはいけない。)


 刹那の思考の後、横に跳躍しようと身を屈めると、世界が揺れた。

 いや、色褪せた。違う、歪んだ。そうじゃない、緩慢になった。

 多々起きる感覚のブレ。

 不完全な世界のまま、和久は真横に身を投げ出す。


 途端、轟音が聴覚神経を焼く。欠けていたピースが、休んでいた分を取り戻そうとするが如く。


 自分の右を通り過ぎる右手はバチバチと青白い光を発する。

 だが一撃を避けたからといって、思考の暇などない。


 避けた先には後続の細身の女が周り込んでいて、既に飛び蹴りの体勢に入り敵を倒さんと迫っていた。


 和久は未だ前述の異常より抜け出せず、因って反撃も回避もままならず、攻撃を受け流そうと構える。


ドッ


(重い!?)

 その容姿や足の勢いからは予想も出来ないような衝撃を伴う蹴りに和久は飛ばされてしまう。


 即座に受け身をとって立ち上がる。

(今のは俺と同じ衝撃放出?………いや質量の増加か。)

 そう判断した理由は、恐らく壊そうなどと意識していないだろう足の下に位置していた瓦礫を踏み砕いたから。


(一人が質量変化、あとは発火能力に電気使い、そしてあの異常は……聴覚神経に干渉されたか。だとすると目的に使えるのはあの二人だな。)


 選定は終わった。

 翔に発火能力に質量変化。援護と予備を含めこの三人で十分。

 さあ、第二幕の選定を終え第三幕の育成を始めよう。






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