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【改稿前】

 超能力の保有率は約1%と言われている。

 この数は決して少ないとは言えない。人口1億2千万の日本の中に120万人もいるということになる。

 中には自分の超能力に気付かないまま一生を終える人もいるかもしれないが、とても隠しきれる人数ではない。


 そこで、混乱が起きる前に多くの対策を実行した人物が、現セイバーズ機関長、碇ヶ関怜(いかりがせきれい)だ。


 彼女は日本国家に対し超能力の存在を認めさせ、超能力犯罪法と超能力者保護法を議会に提出。これにより、犯罪を犯したのが超能力者だった場合は厳罰化されることと、超能力者への差別や超能力者排斥運動を行った者へ過度と思われる程の処罰が確定した。

 更に洗脳教育とも揶揄される幼稚園・小学校に対する道徳教育への介入をして差別意識の軽減を図ると同時に、自ら対超能力者機関を設立し超能力犯罪者の取り締まりを始めた。


 結果、現在の社会は超能力者は『ちょっとした罪が厳罰化されるけど便利な力を持つハイリスクハイリターンな人』と中々複雑な目で見られながらもその力を社会の役に立て、反超能力者運動を行っている人は頭の固い犯罪者と蔑ずまれている。


 それらの要因である碇ヶ関と会うこととなり、洗脳教育は確実に功を成しているしセイバーズのトップにいる人物であるということで、どんな人物かと少し楽しみだったのだが……




「ふぇぇぇ〜……ここはどこなんですか〜?わたしはどうしてこんな所にいるのですか〜?教えて下さいよぅ………」




 ……些か驚いた。こんなおどおどとした人間だったとは。

 グレーのスーツ(ボタンを掛け間違えている)を着ていて、茶色に染色された髪(頭頂部が不自然に黒い)は奇抜な形をとっている(というか寝癖?)


 冷静沈着とか豪放磊落とか大胆不敵とか泰然自若とか………色々と予想を立てていたが、その全てを粉砕して余りある衝撃だ。


「あのぉ……助けて下さ〜い………」


 ……一体、何を考えて敵にすがり付いてくる……?


 不可思議に思っているとチョンチョンと肩を突つかれた。

 振り返らなくとも誰だかは分かる。俺の個人的行動に同伴するのは彼女しかいない。


「ねぇ、囮を掴まされた訳じゃないよね……?」

 成程。もっともな疑問だ。

「事前に手に入れていた写真とは同一人物に見えるし、本人も碇ヶ関怜と名乗っているから少なくとも関係はあるだろう。それなら囮だったとしても多少厳しくなるだけだ。」


 信頼してるよ、と由恵は背中を叩く。



 現在、和久はセイバーズトップの碇ヶ関怜と名乗る女性を拘束・監禁している。目的は前回と違い翔自身を育てることだ。


 未だに超能力は研究が進んでいない部分が多いため、工程不明ながら経験則から知られていることも多い。

 その一つが超能力の強化方法だ。


 使用回数や継続時間は繰り返し使えば増やすことが出来る。

 だが威力や効果範囲の強化方法は、上記より分かり難いことに『強い感情』が原因であると考えられている。特に怒り、恐怖については体験例をいくつか聞いたこともある。


 今回、翔の超能力を強化するのには『怒り』を使うつもりであり、そのために悪という言葉から安直に思い浮かぶ人質という手段を確保した。

 後は、大人数で来られると困るので本日の悪の組織の戦闘開始時間を待ち、こちらの居場所をリークさせれば適度に少人精鋭で来てくれるだろう。


 目的がどの程度達成出来るかは俺と由恵の演技力によって変化するが、まあ焦る必要はない。他にもいくつか手は考えてある。



「…あの〜……すみませ〜ん…」

 弱々しい声に黙考を止める。

「お二人のお名前を教えて頂けませんか……?…できればフルネームで…」

「俺は福沢諭吉、彼女は樋口一葉だ。」

 何のひねりもない明ら様な偽名で即答する。呼称が欲しかったから尋ねたのだろうしこれで十分な筈だ。


 さて何を聞き出そうとするのだろうと黙っていると、

「ふむふむ、福沢諭吉さんに樋口一葉さんですね……………ふふふ、わたしだってやれば名前くらい聞き出せるんです。これで今度こそ三沢君に頭を叩かれない筈です……………」


((………))


 あの偽名を信じたことを驚くべきか、今まで翔に頭を叩かれていたことに驚くべきか、

 和久と由恵の時間はそのままたっぷり、やっぱりわたしって凄い人…!と言いながら頷く碇ヶ関を見ることに費やされる。



 ちょんちょん

「ねぇ、セイバーズってホントに大丈夫なの?」

「あれでも現在の体制のほとんどを作り上げた人物……だと聞いたんだが……」

「やっぱりそれを信じるしかないのかな………あ、もう作戦時間だよ。」

「しょうがない。始めるか。」


 若干、予想外の部分に不安を感じつつもすぐ近くの公衆電話へと歩いていく。

 ポチポチと手袋をした手で押すのは、何故か16桁もあるセイバーズ本部への直通番号。情報収集が得意な由恵に頼んで見付けてもらったものだ。

 ツーツーと繋がってないかのような音が10秒ほど続いた後、カチャと繋がる。


『どちら様ですか?』

 感情のない男の声。ネゴシエーターなのか電話の受付なのかは分からない。

「誰でもいいだろう。それより碇ヶ関怜はいるか?」

『……いいえ。こちらにはいません。』

「そうか。それならお前に訊くが――」

 一旦、言葉を途切る。

 そして、出来る限り揄悦に満ちた声を出すよう自分に念じて、




「――悲鳴は好きか(・・・・・・)?」




『…は?』

「だから悲鳴だよ、悲鳴。彼女(・・)の悲鳴、聞きたくないか?」

 俺の言葉に反応するように電話の向こうでガタンと音がする。押し合うような喧騒の中、誰だてめぇは!という翔の怒鳴り声が届く。

 翔が俺の物言いに怒りを抑えきれなくなり、それを察知した周りの人間が受話器に掴みかかる前に翔を取り押さえたのだろう。

「『誰だ』だと?もう忘れてしまったのか。前回は散々地面に倒してやったというのに。負け犬の遠吠えはもういいのか?こっちに来て牙を剥けないからそっちで吠えているんだろう?ホラ、もっと吠えろよ。」

 これくらい挑発しておけば、命令がどうであれこっちに来るだろう。


 その後も話を続けようとするセイバーズに対し、じゃあなと一方的に告げて電話を切る。


「さて、ゆ……樋口、行くぞ。」

 あれだけ話していれば逆探知くらい終わらせているだろう。そう目星を付け、次のステージに出る役者以外を観客席に下ろすため、移動を始めた。
















「……ところで今の電話の相手はどなたなんですか?」

「野口英世だ。」

「ふむふむ…野口英世さんですね……」


((まだ気付かない!?))




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