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【改稿前】


「それじゃあ各班ごとに割り振られた高校生に従って動くんだぞ。」


「「「「「はーい。」」」」」


「では解散。」


過疎化の進む寂れた村の宿舎、そこを借りて一泊二日の合宿は行われる。


川あり森あり山ありの三拍子揃っている上、観光客も無いのでいくらでも騒げる中々良い場所だ。


因みにいくら苦情が来ても、金ありツテありコネありの三拍子で揉み消すことが出来る。


まあ苦情など来ないように計画が立ててあるからそれらを使うことは無いと思うが。


「か〜ず〜ひ〜さ〜。」


半眼になった健人が不満そうな顔をして詰め寄って来る。


「何で姉ちゃんが来てんだよ!」


「そーんなの和が呼んでくれたからに決まってるじゃない。」


答えたのは俺ではなく由恵。


(あらかじ)め伝えてあったはずだぞ。二つ上の人が来るかもしれないと。」


「あれってうちの姉ちゃんのことかよ!?……………期待してたのに……………」


「むぅ!?なんだその落胆は。………この天国で窒息せい!」


由恵は突如両腕を広げ、健人を強く抱き締める。というか絞める。


「な!?っ…………ふぐ……ん……ふかぁぐ…………むぐぅ…………っやめろ!実の弟に胸押し付けんじゃねぇ!マジで窒息するだろ、この痴女!」


「ふっふっふ、顔が赤いぞ少年よ。このDの天国の味はどうだったかね。」


「黙れ!んなことしてると生き遅れるぞ!」


ゼェゼェと息を荒くして怒鳴る健人に対し、由恵は猫のように目を細めてふっふっふと笑う。


「大丈夫だよー。ねぇ和、結婚しよ(はぁと)。」


「分かった。二年後にな。」


「ッブ!」


俺が真顔で即答した途端、健人が変な声を上げて噴き出し、その場で滑って転んだ。


「………な、なあ和久、お前って姉ちゃんと付き合ってんの?」


うつ伏せの状態から腕の力だけで顔を上げ問いかける健人。


「いや、付き合ってないが。」


バタン


今度はその手を滑らせて顔面を地に打ち付ける。


そのままピクリとも動かなくなる健人。


「…さて、こっちの予定は子供たちが遊んでいる内に昼飯の用意だな。野菜は村にもらいに行く必要があるし一緒に行くか。」


「えー、力仕事ー?。」


「搬入だけだ。リヤカーは俺が押す。」


「それならいいや。行こ。」


「そうだな。……沙月、高校生で子供たちの監督しっかりな。」


「はーい。」


こうして、俺と由恵は村へ食糧を取りに、沙月と翔とその付属品たちは子供たちの監督に行った。




「って俺を無視するなー!!!」


先刻まで『死して屍拾う者なし』を体現していた健人は叫びながら宿舎へ向かった。












「どうも、ありがとうございました。」


「いえいえ、これくらいなら………それで、例のこと、お願いしますよ。」


「分かってます。」


村役場にて連絡してあった通りに用意されていた野菜をもらい、リヤカーに乗せて運んで行く。


喧騒がなく、顔を上げれば四季の移り変わりが見てとれる自然の風景。舗装されてない道や森から来る若干冷たい空気が新鮮で心地好い。


こんな場所でお茶を飲むのはなかなか赴き深いだろうなと和久は思う。


「ねぇ和、村長さんが言ってた『例のこと』って何?」


「それはこの村の開発だよ。旅行会社にツアーを作ることを薦めたり、それが出来たら各種宣伝会社にも売り込むし、テレビはちょっと強引になり過ぎるからあまり手回しはしないとして…

………………あと交付金の配分を軽くいじるために国や県とかにもかけあうか。バックアップする会社は…これだけ俺が動けば向こうから言い寄ってくるのがいるだろうから問題はないな。まあそれくらいしかしないよ。」


「……………………随分と大規模だね。」


「何を言っているんだ?交付金をいじるって言っても数百万しか動かないし、まともな大企業は直通回線があるからバックアップには来ないし、日本に変動は無いと思うぞ。」


「……………………いや、それはもう一人の人間が行うレベルの話じゃないから。」


俺からすれば携帯で何回か電話して直接話したりするだけで出来ることなんだが……。


「これだけ手回ししても良くなるのは一時だけだからな。後はこの村の役場の人間の腕次第だ。」


俺の隣で由恵が格差を感じると嘆いている。




長く話したせいか、もう宿舎に到着していた。


いびつだがみずみずしく、大きくて重いキャベツなどの野菜を置き、昼に食べる分だけを流しに取り出し洗って切る。


「ってこれも二人だけでやるの?誰か手伝いを呼ぼうよ。」


「いや、二人だけでやる。あれを見てみろ。」


そう言って川の方を指す。


殆んどの子供たちが集まっている辺りには翔がおり、佐井、浪岡、川内はそれを補佐しつつ翔の側にいようと奮闘していて、中心の翔は困ったようにポリポリと頬を掻いている。


他の少数は沙月と健人が見ていて、沙月は上手く馴染み子供たちと笑い合い、健人はやんちゃな男の子に水をかけられたり蹴られたりしている。


「今の彼らにはこの時だからこそ過ごせる時間がある。それが青春だ。青春では多くの経験が為される。

その中には苦労も後悔も葛藤もあるだろう。しかし、それでもこの時期の記憶は大切な宝物になる筈だ。何故なら、苦悩と同じように希望も多くあるからだ。夢、友情、努力。彼らだからこそ感じられる、そういった輝かしい未来を連想させる物事が彼らを取り巻いている筈なのだ。

だからこそ、必要のない時には干渉せずに見守ろう。今、彼らはひとつの仕事を担っている。それを助長するでもなく、妨げるでもなく、見守ろう。過剰でない限り、取り組むものがなくならない限り、彼らの思いと行動、その全てを許容してあげようではないか。

彼らの中に生きる輝いた日々の記録をより価値あるものにするために、彼らの考えを尊重しよう。そして取り組むものがなくなったら、俺たちはあいつらのために適度なサポートと適度な試練を用意させてもらおう。見守る者として、な。」


水しぶきが反射する光に彩られた若者たちは、その命の息吹の強さを感じさせる笑顔を浮かべている。


そんな顔を見て、由恵は手伝いを呼ばなくてもいいかな、と思った。








「………って思わず演説に納得しちゃったけど、今の話同い年の和が言うような話じゃないよね。」






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