自殺名所での恐怖は本当の意味で恐ろしい場所だった。
その日はただ何も考えずある場所へ向かっていた。
その場所はあることで有名な場所だった。そう…それは【自殺】だ。
僕はその為にその場所へ向かっていた。
今まで生きてきて色々嫌なことが多すぎて疲れてしまったのだ。
せめて死に場所は迷惑がかからない場所にしたい。そんな思いからの行動だった。
靴を揃え、遺書も用意した。
あとはこの場所から飛び降りるだけだ。
崖は切り立ち高所恐怖症の僕の恐怖を呼ぶには十分だった。
「こ、怖い。でも生きていたって良いことない。楽になりたい。」
独り言が空を渡る。
今は昼間だがこの場所へは誰も近寄らないせいか寂しく感じた。
それでもこのままでいいわけもなく、崖の先へ一歩、また一歩と歩いて行く。
もう片方の足が前に出れば落ちる場所までやってきた。風は強く追い風の為、前へ進むのも大変そうだ。
それでも諦められずに前へ行こうとした時、足元に這いずっている何かを見た気がした。それは手だった。
片手が崖から姿を現した。
周りを見回しても誰もいない。確かここは引っかかる場所はなかったはず。だとすると一体誰?僕と同じように死ぬ為に来た人?
分からないが、見られたくなかったのでその場から逃げようとした。しかし両足がその場から動かなかった。そう、…誰かに両足首を掴まれてる感じがした。ここには僕1人しかいないはず。でも足首の感触は人の手だった。
怖い、怖い、怖い、怖い。
見てみると足首を捕まえてる手は1組だけではなかった。
何組もの手が捕まえていたのだ。まるで逃がさないとでもいうように。
僕は恐怖しかなかった。
「逃げたい…。」正直そう思った。
だが足はビクともしない。かと思ったら片方ずつ引っ張り始めたではないか。
イヤイヤながらも崖に近づいて行く…。
死にたかったはずの僕だったがいつの間にか生きたいと思うようになっていた。なんとか抵抗しようと両腕を振り回したりして足の動きを止めようとするも無駄だった。もう諦めることしかできないのか。ここでも僕は…僕は…。
いつの間にか泣いていた。
それほどまでに強い思いだったのだ。
けれども足をつかむ手はその力を緩めようとはしない。
僕は最後に両親に会いたいと願い、いるはずのない神様に祈った。
「今まで逃げて来たけれど今日だけは…逃げたくない。会いたいよー。父さん、母さん…。」
その時足首をつかんでいた手の力が緩んだ気がした。慌てて両足に力を込めたくさんの手から逃げ出すことに成功した。
すぐにその場から走り出し、逃げて逃げて逃げ続けた。
どれだけ走ったのだろう…。
荷物は持てるものだけとっさに掴んで持って来たが、靴は履いておらず靴下が汚れていた。
手近な店に駆け込むと、靴を買いようやく落ち着くことができた。
「なんだったんだ?あれは…。もしかしてあそこで死んだ霊とか?マジ勘弁だわ〜。怖かった〜。」
もうあそこに行く勇気は僕にはなかった。
もしかして自殺の名所ってああいうのがあるのかもと考えてしまい、自殺する気も失せてしまっていた。
ただ以前と違うのは自分の殻に閉じこもるではなく、積極的に物事を言うようになったことかなぁ〜。
今度行くところは観光名所にしたいと思った。