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ハッピーエンドで終わる世界

「あなた、なんなのよ」

「エマさん、いきなりどうなさったのですか」

「なんで何もしてこないの。これじゃあカイザー様のシナリオが進まないじゃない」

「なんのことを言っているのか全く私には見当が付きませんわ。それに、カイザー様とはどちら様ですの?」

「しらばっくれないでよね。あんたがカイザー様を知らないはずないじゃない」

「本当に知らないのです」

「あんたの婚約者のカイル様のことよ」

「なぜカイザー様なのかはわかりませんが、カイル様のことなら存じておりますわ。」

「学園の皇帝だからカイザー様なの。カイル様のあだ名よ。婚約者のくせにそんなことも知らないなんて婚約者失格なんじゃないかしら」



 なんでソフィアがヒロインに責められているんだ?


 俺は転生者だ。転生者といってもたまたま交通事故に巻き込まれて死んだ一般人で特になんの能力もない。

そんな俺だがこの世界の知識は少しだけあった。それは、この世界が乙女ゲームだということ、俺が転生した先は悪役令嬢の兄だということ、そしてヒロインの顔のみ。

しかも、これは俺が生きているときに彼女から見せてもらった悪役令嬢断罪シーンでソフィアが婚約破棄されるスチルを見たから知っているだけで、ソフィアが何をしたのかもわからない。

わからないが、可愛い妹が不幸になるのは兄として見て見ぬふりをするわけにはいかない。そう思った俺は俺なりの妹の教育を始めた。


令嬢としての教育だとか立派な婦人になるための教育は専属の家庭教師がしてくれる。だから俺は人にやさしく接することができる子になるよう教育した。

こうすることで、将来そびえたつだろうソフィアの敵を減らそうと考えた。

俺の可愛い妹に7人も敵はいらない。ヒロイン1人で十分だ。



とりあえずは、動物にやさしく接するところからはじめ、植物を自分で育てさせたりと何かをいつくしむ気持ち、道徳のようなことを教えた。

これが大変だった。動物に接することなんて簡単なことだと思っていたが、貴族の令嬢にとっては簡単なことではなかった。

やれケガするから危ないだの、病原菌がーだのいろいろと理由をつけられて、ソフィアが初めて動物に触れられるまで2年かかった。しかもできたことは馬の餌やり。それくらい初めからさせてあげてもよかったじゃないか。

植物の栽培は動物に触れることよりは大変ではなかったが、服が汚れるからとか虫が出てくるからという理由でなかなか育てさせてもらえず、俺と一緒に育てるという条件で1年たってやっとビオラの栽培の許可が下りた。

ソフィアが一人でビオラ育てられるようになったのは12歳の時。

俺がソフィアを教育すると決心してからおよそ6年もの時間がかかった。

だがその甲斐あって少しぬけてはいるが、いい子に育った。



次に俺がすべきなのは、ソフィアと婚約者の仲を取り持つことだろう。

そもそもソフィアと婚約者の仲さえ良ければ婚約破棄なんてことが怒らないだろうと思ったからだ。そうと決まれば、ソフィアの婚約者のことを調べねば・・・


ソフィアの婚約者のカイル王子、第3皇子ということで王位継承争いにはあまり関わり合いがなく、性格も温厚。

人から聞いただけだと特に悪いところは見られないが油断はできない。

王子がソフィアのことを裏切るなんてあってはならないことなのだから慎重にいかなくては・・・


「ソフィア、これは?」

「それはビオラという植物ですわ。私が育てましたの」

「そうか、君のような可愛らしい花だ」

「ありがとうございます」


とてもいい雰囲気だ。だがまだまだ油断はできない。



「今日はソフィアに見せたいものがあるんだ」

「?なんですの」

「少し遠いところで、馬に乗っていくんだ」

「でも、私は馬には乗れませんわ」

「大丈夫。俺の馬に一緒に乗っていけばいいさ」


さすがに遠駆けには同行できない。そのため遠駆け中の2人の様子は見れなかったが帰ってきたソフィアはとても興奮していた。楽しめたようで何よりだ。

その後も何かとソフィアに贈り物をしたり遠駆けに連れて行ったりと2人の仲は良好に見えた。

というか、仲良すぎではないだろうか。

忙しいはずの王子は、ソフィアが15歳になるころには王子は週に1回以上のペースで我が家を訪れるようになっていた。




高等学校に入学したソフィアは俺の教育の甲斐あってとても優しい子に育っていた。

貴族なのにどの地位の人にも対等に接する優しい人だという評判が流れ、俺の知らない間にソフィアのファンクラブができ、学園のほとんどの生徒が入会するほどの人気だった。

入会していないやつは新入生か転入生くらいなものだ。

もちろん俺も入会している。兄として妹を見守るのは当然のことだ。


そして俺は、ヒロインの登場を待った。

とはいえ、俺がヒロインに関して知っているのは顔だけ。これでは自分で探すほかなかった。



「現在ラウンジにてソフィア様が茶髪の女子生徒に責められています。至急会員は現場へむかうように」

ソフィアのファンクラブの掲示板に書かれた内容を見た俺はすぐにラウンジに向かった。


ラウンジに向かった俺が見たのは、ソフィアがヒロインに責められている光景だった。

掲示板の内容には間違いはないが、よりにもよってなぜヒロインがソフィアを責めていんだ?

 何が何だかわからず俺は話に入っていった。


「ソフィア、いったいどうしたんだ?」

「ちょっとモブのくせに話に割り込んでこないでちょうだい」

あれ、こいつ今俺のことモブって言った? そういえば、さっきも王子のことカイザー様って言っていたような・・・

もしかしてヒロインって・・・


「お兄様はモブという名前ではありませんわ」

いやいやソフィア、こいつは俺の名前を間違えたわけではない。この流れでわざわざそんなことを訂正するなんて、お兄ちゃん嬉しいぞ。


「モブをモブって言って何が悪いの。シナリオ中に名前が出てこないどころか出番さえなかったんだからモブでしょ」

さっきのカイザーという呼び方にシナリオという言葉。

やっぱりこのヒロイン、俺と同じ転生者か。


「そんなモブのことなんてどうでもいいのよ。あんたは私が幸せになるための駒なの。駒は駒らしくシナリオ通りに動きなさいよ」

ああ、ソフィアに向かってこの場所でそんなこといっちゃダメだろ。

なんてったってこの場所にはソフィアファンクラブの全員が集結している。

もう一度だけ言おう。学園の新入生、転入生を除く全員が入会しているソフィアファンクラブの全員が集結している。

もちろん、その中にはカイル王子も含まれている。


カイル王子はソフィアのファンクラブがあると知って即入会を決意した。

さすがに王子が入るのは・・・と止めようとはしたものの

「婚約者のファンクラブなんだ、私が入らないでどうする」

と言い放ったため止められなかった。


王子はソフィアのためといいファンクラブの掲示板までも使いこなせるようになった。今では誰もが認める名誉会長の座に就任している。そんな彼はソフィアが責められるのをもう見ていられなかったのだろう。



「ねぇ、君。エマさん、だっけ?」

「はい、カイザー様」

「やっぱり、この女のせいでシナリオが進まなかったんだわ。やっと進められる」とかなんとか小声で言ってりゃ聞こえないと思ってるんだろうが案外王子は地獄耳だ。

「あのさ、今言ったこの女ってソフィアのことかな?」

「え?」

「だからさ、今ソフィアのことをこの女呼ばわりしたのかって聞いてるんだけど」

「ええ、いいましたけど。今はそんなこと関係ないじゃないですか」

「関係あるよ。彼女は私の婚約者だ。その彼女のことを侮辱するのは私を侮辱するのと同じことだ」

「は? なんで、そんな女かばうのよ。だってあなたと結ばれるのは私って決まってるじゃない。そんな悪役令嬢なんかじゃないわ」

「君が何を言っているのかわからないな」

「こいつを連れていけ」

「はっ」

王子の後ろから出てきた護衛の人たちにヒロインは連れていかれた。

去っていくときも「あなたは騙されているんだわ」とか「目を覚まして」とかなんとか言っていたがそんなことは王子の耳には入っていないだろう。




確かに乙女ゲームではヒロインが王子と幸せになって終わる。がこの世界は違う。

この世界はあいつよりも先に転生した俺の手によって変えられた世界だ。

俺が望む、妹のソフィアのハッピーエンドで終わる世界。


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