閑話――第一王子の胃痛
「ああ、胃が痛い」
ぎゅっと腹部を抑えるヴェスパジアーノに対してアルヴァーロは冷たい視線を一度送っただけで無視して書類作業を続ける。
そんな友人甲斐のない友人に対して悲しげな視線を向けながらも、従者が入れた紅茶で言いたい言葉も飲み込んだ。
あの後、エルヴィーラたちと今後どうやって、だれを教育役にするのかという話し合いを行い、二人が口論を始める前に話題を修正したりと忙しく働いていた。
すでにヴェスパジアーノの気力体力ともに風前の灯火である。
「私はお前がどうしてあの二人に対して胃を痛めているのかが理解できない」
書類をすべて終えたことでようやく会話を続けてくれた友人の言葉に、ヴェスパジアーノは首をかしげる。
「いや、この国最強の魔法使いと宮廷魔術師長が冷気を纏わせて会話をしているんだぞ。どうしてあの二人はあれほど仲が悪いのか」
はあ、とため息をつくヴェスパジアーノにアルヴァーロは不思議そうな顔を返した。
「何を言っている?」
「いや、あの二人の冷気を纏わせた威圧的な話し合いのようなもの、は本当に恐ろしいぞ」
「その点もだが、あの二人は仲が悪いわけではないぞ」
今度はヴェスパジアーノが不思議そうな顔をする番だ。
どう見ても仲が悪い、元々顔を合わせる機会があるととげのある言葉で会話を交わしていたり難癖をつけていたりとだれがどうみても対立している二人だ。
「あまり他人に興味を示さないエルヴィーラ嬢が珍しく棘をもって対峙するのだぞ?」
「エルは嫌いな人間と会話しない。あの棘はじゃれあいのようなものだろう」
仕事場にいるため、普段の淡々とした口調は変えずに妹の話をする。
何でもないような口調であったが、自分以外の人間が妹と仲がいいと口にするのが相当悔しかったのだろう。
通常よりも深く刻まれた眉間のしわが冷たい顔立ちを極悪なものに変えている。
「エルヴィーラ嬢が、じゃれあい、ねえ」
「我々には理解しかねるが、あの二人は同じ強さを持つ魔法使いがいない。じゃれあいだって満足にできなかったのだろう」
「だからって、あれがじゃれあいには見えないが」
「……宮廷魔術師長に会いに行った日は、エルの機嫌が良いのだ」
「なるほど」
悔しそうな顔が一層増しているがそれならば納得できる。
この、妹への依存をこじらせた友人が認めるほどに機嫌よく友人を出迎えるのだろうな、そう思うと友人が可哀想に感じるヴェスパジアーノだった。




