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閑話――シュラーク・ドンナーの軌跡

「さて、次の生徒ですが、その前に学園側からの説明がございます」


「今回、新しい魔法使用手段の確立のための実験として、我が校のシュラーク・ドンナーが選ばれました。今回はその魔法を披露する予定でございます。古来より、魔法とは詠唱によって魔法素を集め、形にするものとされておりました。それに異を唱えられたのが、今回の発案者、フォルガードン様でございます。我が校では新しい魔法使用手段を受け入れ、それがどこまで利用可能かを知るためにも今回の試験での披露を選ぶことになりました。それでは、皆さま。世界を変えうる瞬間をご確認ください」


 大々的な説明に、会場のどよめき。

 心臓が爆発しそうなほど大きく、速く音を立てていてもうこのまま死んだ方が楽なんじゃないかと考えてしまいそうになる。

「シュラーク・ドンナー、行きなさい」

「は、はい」

 先生に促され、僕は会場に足を踏み入れた。



 試験の舞台をぐるりと囲んでいる観客席。そこから、視線が降り注いでいた。

 今まではこれほど注目されたことはない。貴族たちだって自分の子供や将来有望な人間を見に来ているから、僕みたいな能力も低い平民を注目してみることはなかった。

 それが、今ではすべての席から視線が降り注いでいる。

 足ががくがくと震え、吐いてしまいそうだ。その点では無詠唱でよかった。口を開いたら最後だと思う。

「始めなさい」

 そう言われて、何とか魔法を構築しようとするのに視線に委縮して頭の中が上手くまとまらない。

 客席からざわめきが生まれる。やはり無理だったのだと、誰かのつぶやきが僕の耳に届いた。

 こんなんじゃフォルツァーノ様の迷惑になってしまう。あの人は、今どんな顔で僕を見ているのだろう。軽蔑か、侮蔑か、自分の顔に泥を塗る僕に怒りを向けているかもしれない。

 恐る恐る彼女がいた貴族席を見て――僕は脱力した。

 え、なんであの人普通に紅茶飲んでるの?ハルさんにお菓子の追加頼んでるんだけど、しかも隣にいるの宮廷魔術師長だよ?緊張しないまでも集中した方がいいのでは。

「――ハハ」

 そうだ、あの方は僕が成功しても失敗しても揺れることはないんだ。

 いつも自信があって、僕が上手くできなくても、最初の頃みたいに俯いてしまってもなんでもないみたいに指導してくれていた。

 僕の成功失敗関係なく、あの人は貴族であり、魔法使いであり、無詠唱だって使えるからだ。

 だから僕は僕のためだけにこの試験を乗り切ればいい。

 そう思うと何故だかとてもほっとした。

 体がらすとんと力が抜ける。全てのじゃなくて、余分な力が。

 目を閉じ、深呼吸をする。

 頭の中に稲妻を作り上げる。僕の、試験の開始の合図にとフォルツァーノ様がハルさんに止められながらも発案してくれた、音と光で注目を詰める方法だ。

「――行きます」

 カッと目を開けると目の前にその稲妻を落とす。

 客席からの視線が疑うものから驚愕に変わる。

 そのまま床に落とした稲妻を消さずに僕の周りに円を描くように流し、ヘビの形をとらせる。

 次はそれを霧散させ、炎や水などを塊として生み出し周囲に留まらせる。

 形を変えず、長時間それを止まらせるのは結構難易度も高くて評価につながるので先生たちも採点用の道具に色々書いてくれている。

 それはそのままにして、土の壁を作り、風で切り刻み、攻撃魔法も使えることを見せる。今までは攻撃魔法なんて無理だと思っていたけど、今の僕は何種類も扱うことができるようになった。

 要は気の持ちようだと、フォルツァーノ様は言った。

 塊にして出している水だって、人の頭に被せれば人を殺すことになるのだからと笑っていたのは怖かったけれど、どんなものも使い方次第で変わるのだと考えることができるようになった。

 様々な魔法を見せ、最後はまた雷魔法だ。

 手にした杖の周囲に纏わせて、もう一度生み出した土の壁に突き刺す。

 そのまま雷を飛び散らせれば、土の壁は爆発したように壊れていった。

「――以上です」

 そう言って頭を下げる。

 シン、とあたりは静まり返っていた。いつからだったのかはわからないけれど、みんな息をのんでこちらを見ていた。

 やりすぎただろうか、少し不安になっていたがパチパチ、と拍手が聞こえてきた。

 はっとして顔を上げれば満足げに笑みを浮かべるフォルツァーノ様と少し怖い顔をしている宮廷魔術師長が拍手をしてくれていた。

 それにつられるようにして広がり、最後は歓声と共に拍手が沸き起こる。

 初めての光景にぼぅっとしてしまったが先生に促され、慌ててもう一度頭を下げてから僕は退場口を潜り抜けた。

 

――初めて、こんなに喜んでもらえた。


 それがうれしくて、涙が出てしまったのはたぶんフォルツァーノ様にも見えていないはずだ。


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