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閑話――シュラーク・ドンナーの恐怖


 試験が始まった。

 最初に先生方からの注意喚起が行われる。


 いくら学生とはいえ扱うのは魔法。

 いくら魔法使いとはいえまだ学生。


 魔法という人知を超えた力をまだ未熟な人間が扱うため、観客席に被害が及ぶことがあるそうだ。

 もちろん頻繁にではない。まれにだが、気を抜けば被害は免れないものでもある。

 そのため、観客席には先生方が防御魔法を貼っている。フォルツァーノ様が教えてくれたこの防御膜の大きい版だ。

 そのフォルツァーノ様は一般市民側にはもちろんいなかった。

 貴族席を目を凝らしてみていると、なんとこの学園の責任者でもある宮廷魔術師長の隣に座っているではないか。

 本当にすごい貴族なんだな、そう思うと途端に緊張してきた。

 すでに最初の生徒たちの試験が始まっている。

 呪文を唱え、燃え盛る炎を生み出す。

 その炎にさらに手を加え、鳥の形に変えていく。彼は確か学園で一二を争う魔法の名手だった。

 次の生徒も、その次の生徒もそつなく自分の魔法を披露していく。

 そんな姿を見ていると、これまでの自分の子の試験の姿を思い出してしまった。

 呪文をつっかえてしまい、小規模の魔法しか生み出すことができなかった昔の自分。

  冷たい目、嘲るような目、憐憫の目。

 そんな視線にさらに緊張して、年々魔法が扱えなくなっていった。

 僕みたいな一般市民生まれの魔法使いのために、市民用の観客席も用意されているけれど、僕が両親を読んだのは一番最初、まだ周りの力を知らなかったあの時だけだ。

 今回も、呼べなかった。

 醜態を見せたら?それだけじゃない、僕が失敗したらフォルツァーノ様に泥を塗ることになってしまう。

 考え込んでいけばいくほど、体が震えてしまう。悪い事ばかりを考えてしまう。

「やあ、ドンナーくん。今回は君も後半なんだなあ」

「エルマン様……」

 背後からかけられた声に体がびくりと反応する。

 ジークムント・エルマンは今日は一人でそこにいた。

 彼の取り巻き達はどうやら前半の発表になっているようだ。

 そもそも、前半は下級生や魔法がそれなりのものたち、後半は上級生、それも魔法の扱いが上手いもの達が集められている。

 最初に炎の鳥を作り出していた生徒は観客たちの目を舞台に向けさせるためにあえて選ばれているが、彼と争っているもう一人の天才は一番最後に発表するはずだ。

 僕はいつも前半だった。それでも失敗して、笑われてきたのに今回は内容の問題で後半に回されてしまったのだ。

「君が前半の待機列にいないから、ついに退学したと思ったのになあ」

「……」

「まあ、精々いつもみたいなみっともない真似はよしてくれよ?そのあとに発表する僕たちが笑いすぎて失敗してしまうかもしれないからね」

 なあ?と後ろにいたエルマン派閥ではある生徒に話を振って、相手も困った顔ながら追従して頷いていた。

 それを見ても怒る気にもならない。

 どうしよう、それだけが僕の頭の中にいっぱいになっている。



「シュラーク・ドンナー。準備をなさい」

 いつの間にかエルマンたちはいなくなっていた。

 はっとして顔を上げると先生が僕を呼んでいる。

 僕は後半のはじめ。無詠唱魔法についての紹介をしてからが出番で、とするともうそんなに時間が経ってしまっていたのか。

 頭の中がぐわんぐわんと揺れている。

 もう帰ってしまいたい、そんな泣き言を考えながら、僕は黙って先生の後をついていった。


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