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ニートはテンプレ対応にも善処します。

 森をしばらく走ると人間の気配をとらえる。少し距離を取って鹿を止めることにした。

「二人、ですか。見張りですかね」

 鹿を止めると降りてきたハルが気配がする方を見ながら目を細める。この距離なので見えているのではなく気配を探っているのだろう。

「そうねえ。実は逢引き中とか」

「お嬢、それ、見たいですか?本当に?」

「そんなわけないでしょう。やっておしまいなさい」

 冗談に決まってるじゃない、それにアジトがあるんだからその中でやりなさいよ、逢引きなら。

 ハルに行けといえば了解しましたとハルは剣を抜いた。

 西洋剣、と分類されるものだろうか。剣の中央が膨らんでいて、切ったときにつく血を流すための溝もある。この形が私たちの国では一般的な武器の形状であり、ハルも簡単に手に入るからとこの形を普段使いしている。

 剣を形にゆっくりと先に一人で進んでいく。そんなハルを見送って、少し伸びをした。

 少し経ってから気配の数が減り、血の匂いが漂ってくる。

「血の匂いでばれないかしら」

 そう呟くと戻ってきていたらしいハルに大丈夫ですよと返される。

「こちらが風下ですから匂いがするんです。それに、お嬢が動くならばれても問題はないでしょう」

「あら、大有りよ。逃げられたら困るもの」

 全員縛り上げないと残党狩りに兄が駆り出されてしまう。それはそれで可哀そうだ。

 ハルが剣を腰に戻したのを確認してもう一度鹿に乗る。

 アジトまではあとほんの少し。もし気づいたとしてもぜひとも数の暴力で乗り切れると全員その場にとどまっていてほしいものである。



「なんだてめえ!!」

「どうやってここまできやがった!!!」

「……本当にテンプレな奴らねえ」

 どうやら気づかれていなかったようだけれど、これはこれで面倒である。テンプレなところとか。

 それでも挨拶は欠かさないのが良いところの令嬢らしさ。

「ごきげんよう、盗賊団のみなさん。私はあなた方の所為でまったくご機嫌よろしくないけれど」

「お嬢、別に煽らなくてもいいのでは」

「あら失礼ね、ハル。これはただの挨拶じゃない」

 お前らの所為で気分悪いんだという気持ちを八つ橋で包んでみたがハルには不評だったようだ。別に煽っていないわよ、素直な感想を述べたまでよ。

 盗賊団の面々は最初は驚いていたものの、増援が現れないことで余裕を取り戻したらしい。

 私たちを見てボスらしき人間が大笑いすると、にたりと品物を見るような目で私をとらえた。

「二人で何ができる。しかも片方はいいとこのお嬢ちゃんじゃねえか!」

「ヒュー、こいつはウサギが自分から現れたくらいにラッキーだぜえ!こんな上玉、すげえ金になるだろうなあ!」

 私を見て口笛を吹くもの、げひた笑いをするもの、頭が悪そうな反応本当にどうも。

 私たちを威圧する目的もあるのか、全員大声なのもいただけない。うるさいだけである。意味がないのはわかっているけれど≪魔法使い殺し≫をかけて黙らせたいレベルである。

「どうしますか?俺がやるとこの人数なら死人も出ますが」

「さらっと死人を出さないでくれる?」

そっと耳打ちしてくるハルを軽く睨む。後処理が面倒なことになるのはいただけない。書類仕事は残業の元である。残業が増えてしまえば兄が家に戻ってこれないではないか、意味がない。

「どうした!?逃げる打ち合わせは終わったか?どうせ無理だけどな!」

「安心しろ!お嬢ちゃんは俺たちが可愛がってやるよ!たーっぷりなあ!!」

 何が面白いのかまたゲラゲラと笑う。一度ツボに入ると笑いが止まらなくなるあれだろうか。

 しかし、このうるさいものもここまでである。私はすべてを今日中に終わらせたいのだ。

「下がっていて」

「はいはい」

 ハルを巻き込まないように下がらせて、さっと盗賊団のメンバーの位置と人数を確認する。

 数人、魔法使いもいるようだがレベルが低い。まあ、力のある魔法使いなら冒険者としてでも国に雇われるとしてでももっといい生活ができるんだからここまで堕ちないか。

 ここにいる程度の魔法使いなら数百人集まったところで私はおろか冒険者としてそれなりの成果を上げている魔法使いの魔法も抑えられないだろう。

 確認が終わったのでもう一度目の前の人物に視線を向ける。ニタアとした顔が気持ち悪い。

「私、あなた方を縛り上げるために来たんですの。――殺せなくて本当に残念ですわ」

 最後は小さく呟いて、私は無言で魔法を展開した。

 アジトを覆いつくす魔法に慌てて反応する数人の魔法使い。もちろん意味なんてない。象に対してバッタが戦いを挑むようなものだ。

 その抵抗も含めてすべては一瞬で終わる。

 ドサリ、ドサドサドサッ

 大きな音を立てながら床に倒れていく盗賊団共。

 彼らが倒れる音も含めて全てが聞こえなくなったとき、その場に立っているのは私とハルだけであった。






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