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閑話――伯爵令嬢の怒り


「おかしいわよ!」

 ハイデマリー・フェルトホフはいら立ちを隠しきれなかった。

 相手は昨日、そして今日顔を合わせた冒険者である。いや、あれを冒険者と呼ぶことはハイデマリーには耐えられなかったが、このダンジョンに入ることを許されているということは彼女たちも冒険者の登録をしているからなので仕方なく呼ぶことにしている。

 質の良い――もちろんハイデマリーが普段来ている服の方が良いものだが――ワンピースを着た女は髪すら纏めず、武器もゴテゴテの、ただの飾りでしかない杖だけという不真面目さ。

 ダンジョンを、冒険者をなんだと思っているのか。このダンジョンによく潜っているハイデマリーには許せないものだった。

 パーティーメンバーも同じだ。護衛らしき男は装備も武器も整えていたがもう一人、メイド服の女なんて連れていたのだ。

 フェルトホフ家のメイドたちとは違うその服の生地は堅そうではあったが所詮は服地。冒険者たちが最低限身に着ける皮鎧とは防御力が違う。

 たった三人、それも一人しかちゃんとした装備をしていないというだけでもハイデマリーには許せなかったが、さらに許せないのはそんな彼女たちがハイデマリーたちよりも奥へと向かったことだ。

 彼女の父が雇った冒険者パーティー、そのリーダーであるルッツが止めるからハイデマリーは彼女たちを追うことができなかった。もっと奥へ進みたいと思ってもルッツは首を縦に振らない。

 確かに、このダンジョンは最初の方は初心者向け、中層もそれなりに力のあるパーティーなら狩場にできるのだがそれよりも少し奥に進んだ途端、敵の数が変わるのだ。

 遠距離がいても使い物にならなくなってしまうことが多いというので近接攻撃の多いこのパーティーならどうにかなりそうだと思うのだが、自分よりも経験の多いルッツの言葉をハイデマリーは重用していた。

しかし、今現在はその考えが浮かばないほどにハイデマリーはいらだっている。

 ハイデマリーを抑えてルッツが話していたのも、彼が彼女たちをただ見送っただけだったのもハイデマリーの苛立ちを増大させる原因だった。

 そもそも、あの三人程度で行って帰ってくることができるのであればハイデマリー達が恐れるようなものではないということだ。

 途中で顔を出した『金の槌』とかいうパーティーだって、遠距離がいる構成だったのに先に進んでいたではないか。

「お嬢様、落ち着いてくださいって」

「私はいたって冷静よ。私を誰だと思ってるの? フェルトホフ家のハイデマリーよ! 私が進むと言ったら進むの! お父様に言いつけるわよ!?」

「……わかりました」

 一度息をのんで、ルッツは頷く。

「リーダー」

「雇い主の伯爵様はお嬢様に従うようにと仰せだった。いくしかねえよ」

 魔法使いのゲルトがルッツを呼ぶがルッツは首を軽く振って従うように言う。

 それに対してゲルトが重々しくうなずいたのを、ハイデマリーは見ていなかった。



 何も見えていなかった。


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