暇が解決しないのもニートならではです。
今のところいわゆる日常回です。
突然だが、私は魔法使いである。
それも、≪魔法使い殺し≫と呼ばれる失われた極魔法の使い手だ。
もちろんそれ以外にもたくさん魔法を覚えているし、そもそもこの国に伝わる魔法とは系統が違うというか、発動方法が違うため対策も取られにくい。いわゆるチートってやつだ。
世界がそうなのかはわからないけれど、この国の魔法って呪文を必要とするんだよね。一番有名な魔法使いが書いた本に書かれているから。
私はもちろん無詠唱だ。「ファイヤーボール」くらいは口にすることも多いけど、魔法というのは頭の中で組み立てるものだからね。
おかげで魔法使いが通う学校に通わなくても許される。
家の中に閉じこもって貴族の令嬢に求められる婚約や社交性を発揮しなくても、面と向かって非難してくる相手がいないのだ。
この世界でだって別に貴族の皆が皆私みたいにごろごろしているわけじゃないんだよ?むしろ私が特別なのさ。
世間的には最終兵器という扱いをされる私を兄が武器として囲っているということになっているらしく、時々仕方なく出る社交界でも非難はされない。
遠巻きにはされるけど知らない人に囲まれるよりずっといい。
一族の結束も強く、屋敷の使用人たちは代々仕えている人たちばかり。
彼らは幼い頃に両親を亡くした私たちを優しく守ってくれた。
まあ、その甘やかしの所為でこんなに立派な引きこもりが生まれたとも取れるけど。
外に出なくていい生活万歳!
おかげで毎日暇だ。蔵書を読んだり日向ぼっこをしたり、思い付きで前世で食べた料理を作るよう料理長に無茶ぶりしたり兄に無茶をいって前世の主食を探してもらったり――あ、わりとエンジョイしてるわ。
よくある魔法の訓練とかはしていない。屋敷の中では危ないことはできないからね。
魔法をぶっぱなしたくなったり新しい魔法を思いついて試し撃ちしたくなった時は兄に断りを入れて外に出たりもする。
もちろん一人じゃない。私に護衛はいらないけれど一応令嬢だからメイドさんと護衛を連れていくようにと兄に釘を刺されている。
それが面倒なので極力外には出ない、というわけで引きこもりなのである。
一応前世では転生とか転移とかしたらオレツエーしたいなあとか思ってたのにねえ。オレツエー能力をもって転生したのに引きこもりですよ、これが私の限界ってか?
まあ、それはそれ、楽しくやっているのでやめるつもりはない。
「エリーザ、暇だわ」
それでも暇だという気持ちからは逃げられないわけで。
バフンとお行儀悪くベッドに倒れこんでみたが楽しくはあるが暇は満たされなかった。
まあ、そんなことで満たされる暇であったらいつでもベッドにダイブして布団のお友達になってるからね。無理なのは当たり前だよね。
「エル様、でしたら途中で投げ出された刺繍はいかがですか?」
「面倒」
「溜められた招待状への返事を書く作業もありますよ。夜会に出られるのもよいかと」
「どうせ私が書いても出す前にアル兄様の検閲が入って書き直されるから却下。それに、私ダンス苦手ですから」
「でしたらダンスの先生をお呼びしましょうか?」
「だるいー」
エリーザが出してくれる案をことごとく却下する。
態度が悪いのはわかっているんだけど、面倒なんだもの。特に夜会関係。
どうしても出なくてはならない夜会というものもあるのでそういったものは兄に連れて行ってもらうのだが、やれ流行のドレスはどうだとかやれどこぞの伯爵夫人の道ならぬ愛の話だとかやれどこぞの子爵令嬢は身持ちが悪いだとか、そんな話を聞いて何になるのだ。
それに私が学園に行っていないことをひそひそと噂され、私の魔法を見せてほしいと言って私の魔法にケチをつけようとしてくる貴族も少なくない。
まあ、一度某陰陽師のようなパフォーマンスをお見せした後は面と向かって見せろと言ってくる人間が激減したけれど。
代わりに遠巻きになって野蛮だのなんだの言ってくる奴らはいる。
そういうやつらは私の魔法か兄の友人である第一王子に睨まれて縮こまることになるけどね。ざまあないぜ。
夜会の苦行、もう一つはダンスだ。
これでもダンスは苦手とはいえそれなりには踊れるつもりだ、踊る相手が兄しかいないことをのぞけば。
ああ、あとは従兄弟がいたら従兄弟たちとも踊るか。
私が魔法使いってだけで近づきたがらない人も多いし、話しかけようとして慌てて帰っていく人もいる。あれは私が魔法使いだと忘れていたのだろうか。
踊り始めれば私のあらを探そうと必死の奴らもいるし、本当に面倒だ。
だから踊るにしても最低限。その最低限さえ踊れればあとは使う機会がないから熱心にすることもない。
「エル様ったら、それではいつも通り読書しかありませんわ」
「その通りなのよねえ」
はあ、とため息を吐くエリーザにうんうんと頷く。
「では書庫に向かいますか?フリッツが新しい植物辞典を頼んでいたので、それが入っていると思いますわ」
「へえ、面白そうじゃない」
庭師のフリッツが頼んだという本を求めて、私はエリーザを連れて書庫に向かうことにする。
どうせだから魔法理論学の本と魔法歴史学の本も持ってきて実践学の重箱の隅をつつく作業もしようかしら。ビスク氏の実践学ってミスが多くてつつくの楽しいのよね。
やることを見つけると足取りは自然と軽くなる。そんな私にエリーザはやれやれと苦笑しながらも少し後ろをついてくる。
こうしていつも通り、私の一日は終わった。