読書はニートのたしなみです。
「エル様、もうお休みになられませんか?」
「あら?ああ、結構遅くなっちゃったわね。ごめんなさい、エリーザ」
本に集中しすぎて時間を忘れてしまっていたらしい。
控えめに声をかけてくれたエリーザに謝って本を閉じる。
読書は前世からの趣味だ。こっちでは家に閉じこもっているので読書できる時間が多く、飽きるか読み切るかしてしまうのではないかと思ったこともあるがそんなことはなかった。
歴史書に娯楽小説、魔法書には概念を扱うものやお手軽に魔法を使う方法というハウツー本など種類もある。読書は金持ちの道楽らしく、この家にも立派な書庫があるので読む本がたくさんある状態、本に囲まれた生活ができるのだ。ああ、素晴らしい。
新しい本も頼めば手に入る。兄も剣術書や兵書を仕入れているのでそれも読む。
まあ、だからといって夜に読む必要はないんだけどね、ついね、活字が私を呼んでいるからね。
背伸びをして肩をまわす。同じ姿勢でずっとしているのは体に悪い。ついでに首も回す。あー、気持ちいい。
屋敷は静まり返っているし体感的にも夜はかなり更けてしまっている。部屋に戻ってから読み始めていたから、かなりの時間集中していたようだ。
私の部屋はろうそくを使っていないからもったいない、なんてことにはならないけどエリーザに負担をかけてしまっているのは事実なので申し訳なく思う。
「ちゃんと夜はお休みになられませんと、大きくなりませんよ?」
「――それはどこを指しているのかしら?」
ふふふと笑うエリーザに少し表情が――当社比で――引きつってしまうがそんな私を気にすることなくエリーザは笑っている。
確かにエリーザは細身なのに胸は大きいけれども!対して私はまな板だけども!!
偉い人は貧乳はステータスだっていってました!恥ずかしがるところが評価高いって人もいるけど!ええい畜生、どうせ私は同年代の令嬢よりも胸が慎ましいですよ!
「あれよ、私の栄養はすべて魔法に費やされてるから」
「冒険者には豊満な女魔法使いがいるそうですよ」
「ちくせう!」
私をいたぶるなんてさすがはエリーザ!私一応あなたの主人です!
なんて茶番を一通りこなしてから布団に入る。エリーザの胸は見ないようにする。別に他意はないけど。
「お休みなさいませ、エル様。いい夢を」
「おやすみエリーザ、遅くまで付き合ってくれてありがとう。いい夢を」
優しく声をかけてくれるエリーザにこちらも返す。
エリーザが部屋を出たのを見届けると出していた光魔法の≪光球≫を消した。
暗くなる部屋の中、肌触りの良い布団に丸まって瞼を下せば自然と意識が遠のいていく。
明日は何をしようかしら、なんて考える暇もなく。考えてもいつも通りという結論しか出ないけれどそれも出る暇もなく。
こうしていつもどおりの一日が終わった。