メイドはニートに甘いです。
令嬢たるものけして慌ただしさは見せないように。
そんな貴族マナーもきっちりとこなしている私はバタバタバタ、なんて足音は立てずに優雅に、颯爽と歩いて自室の扉を開ける。
「エリーザ!」
部屋に戻ると部屋の片づけをしてくれていたエリーザがどうしたんですか、と近づいてくる。
部屋の中には当たり前だが兄の従者の姿はない。令嬢の部屋に勝手に入ってたら怒られるどころの騒ぎじゃないしね。エリーザに出てきてもらったか、今は見えないが別のメイドに任せたのだろう。
逆を言えば、もうすでに従者から話はあったということ。これでダンジョンに行く難易度がちょっと上がった。
繰り返しになるが、条件の一つは護衛だけではなくエリーザもつれていくこと。
エリーザが嫌だと言ったら無理を言わずに諦めること、だ。
だからこそ兄もエリーザに圧力をかけたのだろうけれど、私だって行くためにはエリーザに圧力かけちゃうわよ、泣き落とすわよ。むしろ兄に対してもほぼ泣き落としに近かったわよ。
「お願い、一緒にダンジョンに行ってくださらない?」
「エル様……。本当に旦那様に頼まれたのですね」
はあ、とため息を吐かれてしまう。そのため息に呼応して後ろからもため息が聞こえたが無視だ。
「お願い、エリーザ」
おめめウルウルアタックである。この世界に目薬ないのってこういう時困るよね。
「――旦那様からは断るように言われたのですが」
やっぱりか、アル兄さんの鬼め。
「ですが、エル様が前々から行きたいと言っていたのを知っておりますから、ご一緒させていただきますわ」
「え、いいの?」
「はい」
さすがの私もちょっとびっくりした。兄は一応この家の最高権力者なのに。それよりも私を取ってくれるエリーザは本当にメイドの鑑だ。おそらく。
さすがは私付きのメイド。私への優しさプライスレス。大丈夫、エリーザに不利なことが起きないように私もがんばるわ。
「あのダンジョンであればあまり危険はありませんから」
「ですがエリーザさん。お嬢はボス部屋まで行くつもりですよ」
ハルがエリーザにチクった。おのれハルめ、そんなに私を行かせたくないのか。
エリーザはその言葉に一瞬顔をこわばらせ、しかし軽く頭を振った。
「わかりました。ダンジョンではあまりお役に立てないかもしれませんが、ご一緒させていただきますわ」
「さすがエリーザ。嬉しいわ」
本当にさすがエリーザさんである。大丈夫、ボスの相手を二人に押し付けたりはしないわ。
むしろ私がやりたいくらいだし。竜殺しの令嬢とかなんかとても強そうでいいじゃないか。
「前衛をルードが担うのでしたら、私はエル様をおそばでお守りできるよう、弓を持っていきますわ」
「お願いします、エリーザさん。ただ、もしもの場合のために近距離用のものも用意してください」
「そうですね、かしこまりました。エル様の準備もしませんと」
エリーザがついていくと決めたのでハルも覚悟を決めたらしい。
ふたりで隊列についてしばらく話し合った後、自分の分の準備と兄への報告をしてくると言って部屋を出て行った。
「エリーザ、私がやることはある?」
「エル様はご自身が持っていきたいものを教えてくださいませ。準備は我々がいたします」
そういうエリーザの好意に甘えて、準備のほとんどをエリーザたち任せにしてしまった。これじゃあどんなにかっこつけても竜殺しとか名乗らせてもらえないかもしれない。
まあ、いっか。




