お風呂は心の洗濯です。
最強転生主人公の予定。2話同時投稿です。
しばらくは更新多いです。
かなり昔の記憶だ。いろんな本を読むのが好きだった私がそのころはまっていたジャンルに異世界ものがあった。
主人公が空を飛びまわったり、最強だったり、内政ツエーしてたり。
それを読むたびに私もいろんなことがしたいと想像したものだ。
本当に懐かしい記憶だ。
「あー、気持ちいい~」
たっぷりのお湯に浸かると一気に疲れが吹き飛ぶような気がする。
まあ、疲れと言っても今日も一日中家の中で本を読んだり日向ぼっこをしたりしていただけなんだけど。
「お嬢様、爪のお手入れをしてもよろしいでしょうか」
「お願いするわー」
お風呂の世話をしてくれているメイドさんの言葉に頷いて手を湯船の外に出す。
失礼します、ともう一人のメイドさんと一緒に片方ずつ、手を取られて爪磨きが始まった。
美人のメイドさんに世話されながら入る風呂。さらに風呂には庭師が厳選した薔薇の花が浮かんでいる。
ああ、ものすごく贅沢してる。私ものすごく贅沢してるよ。
なんて思いながら極楽お風呂タイムを堪能する私。名前はエルヴィーラ・フォルツァーノ。性別は女。現在身に着けているものはお湯のみ。お風呂だから恥ずかしくないもん!な恰好。
いやいや、メイドさんも女だから本当になにも恥ずかしくないね、うんうん。
ほう、と息を漏らす。本当に極楽だ。私にとっては間違ってはいない単語だと思う。
湯気のゆらゆら揺れている部分をぼんやりと見ながら、昔の記憶に思いをはせた。
転生ものだの転移ものだのを読み漁った若い頃の記憶。
オレツエーに憧れながらもだからと言って何かを極めることもなく、ごく普通に年を取っていった。
その人生はそれなりに充実していたような気がする。たしかひ孫が生まれたんだ、そうそう、可愛かったねえ。
旦那の最期を見届けて、老衰で家族に看取られるという最高に幸せをかみしめる最期。
と思ったら暗闇で、そこで微睡んでいたらなんだか窮屈な感じがして、マジ無理っすと突如現れたまばゆさに泣き叫ぶ。そうして私の新しい人生が始まっていた。
それから十数年。
さすがに前世の記憶はあいまいになっているしこっちの世界の生活に染まっているがお風呂と食事は譲れない、そんな日本人根性を発揮しながら生活している。
いやあ、御貴族様に生まれてよかった。そうでもなけりゃこんなに贅沢にお湯を使ったりできなかっただろうしね。
「終わりましたわ、エル様」
「ありがとう。じゃあそろそろ上がろうかしら」
「かしこまりました」
「こちらにどうぞ」
爪のお手入れをしてくれていたメイドさんたちにそういうとタオルと着替えを用意してくれる。
御貴族様なのでいろんなことをメイドさんたちにやってもらうのだ。
ちなみに茶色い髪の子がエルデ。空色の髪の子がヒメル。二人とも私付きのメイドさんだ。
普通のメイドさんとは違って私専属なのでお風呂にもついてくるし着替えも手伝ってくれる。外出するときは街中ならこの二人がついてきてくれることもある。危険な場所だと戦闘も得意なエリーザというもう一人のメイドがついてくるんだけど。
簡易なドレスの色は濃い青色。コルセットは私が嫌なので夜会に出るとき以外はつけていない。女性のマナーとかなにそれ私の幸せには不必要だね。
そのためメイドたちが選んでくれるドレスも全て腰がゆったりと取られている。ゆったりといってもコルセットをはめてる用のドレスに比べて、であり前世て来ていたワンピースよりは締まってるけど。
さっと着せてもらうと濃い青色が外に出ない私の白い肌に映えるのがわかる。今日も素晴らしい。
「この青色好きだわ。こう、夜っぽくていいわね!」
「ふふ、ありがとうございますエル様」
「今日のドレスはエルデが選んだのですよ」
私の言葉にエルデが笑みを浮かべ、ヒメルがエルデが選んだことを教えてくれる。
「エルデは落ち着いた色が好きよね。私も好き。ヒメルは明るい色が好きだから昼や誰かに会うとき本当に助かるわ、私だったら選べないもの」
「エル様に似合う色を探しているだけですわ」
「エル様はもう少し明るい色を取り入れるべきですわ」
エルデとヒメルは本当にセンスがいいなあ。前世だったらあれだ、カリスマアパレル店員とかになってそう。シャツを選びに行ったのに小物も合わせて一式買わせてしまうようなあのカリスマ店員。
そんなことを思いながらドレスに合わせて髪や小物も整えてもらう。髪はこれからご飯だから邪魔にならないようにしてもらってる。基本的に結びもせずおろしてるからね、ご飯の時邪魔だね。
「エル様、旦那様がお戻りです」
「ありがとうエリーザ。お兄様早かったのね」
二人に手伝ってもらいながら着替えを終えるとエリーザが兄の帰宅を知らせてくれた。
旦那様なんて言われているこの家の当主、アルヴァーロ・フォルツァーノは私の兄である。
兄は一応この国で偉い人の一人だ。軍とか預かってるし、第一王子とは幼馴染だし、現役の侯爵だし。
外じゃ氷の男とか氷狼とか呼ばれて怖がられているみたいだけど外で気を張ってる分、家の中では気が弱くて妹に甘い頼りない兄である。
「僕の可愛いエル、ただいま」
「おかえりなさいアル兄さん」
風呂場から玄関の方に歩いているとちょうど執事と話しながらこちらに向かって歩いていた兄と遭遇した。
銀色の髪とアイスブルーの瞳という色素の薄い色をしているからとお目に見ている分には確かに冷たい人に見えるけれど、私を見た瞬間にイケメンが崩れるレベルでへにゃりと笑うので台無しだ。
正直兄よりも表情が出にくいらしい私の方がそのあだ名が似合うと思う。目の色以外同じ色をしてるし。私だって前世と比べ物にならないような美人だし。遺伝子ってすごい、改めてそう思った。
「今日も疲れたよ、エル。ぎゅってしてもいいかい?」
「お好きにどうぞ」
そう言いながらもバッチコイと両手を広げて迎える姿勢をとる。そうすると嬉しそうに兄が抱き着いてくる。
私についてきたメイドさんたちも兄と話していた執事も何も言わずにほほえましそうに私たちを見ている。
これが一ケタの年齢ならわかるけど、兄なんて結婚適齢期に足を踏み入れてるんだからそろそろ止めにしようよって思うんだけどなあ。
そんななんか釈然としない感動的な兄妹のひとときを過ごして、私たちは食堂へ向かった。