7・芸術じゃなくても爆発するよ
締め切り間近なので、巻で更新します。
連続投稿します。
でも完結しません。
07
……それ、確か元の世界ではボンバー漁って奴なんじゃないかな?
魚が集まっている所に爆弾放り投げて、衝撃で気絶した魚を回収する方法なんだが日本では禁止されている。地形が変わるから当然だ。
ま、まあいいよね……異世界だし、ここ。
日本の法律なんて関係ないよね?
誰かそうだと言って下さい……。
「蹴り一発で気絶って……どんな足してんのっ?」
「嫌ね、そんな人を重量級闘士みたいに……体内の魔力を脚部に一点集中させ。そこから水中を経由して生物に脳震盪をさせたのよ。それに、必要以上は全て手を出していないわ。生態系が狂う程度には獲ろうと思えば獲れるだろうけど」
……これ、安心して良い所なのかな?
「私みたいな使い方をする人は、多分あまりいないのではないかしら?」
「そうですね……お嬢様の様な補助的な使用法は目に見えない分だけ目立ちませんのんで、騎士には不評であるかと。表立って賛同すれば派閥争いにまで発展しかねませんし」
「派閥って……」
「カール、浮き足立つのは止めませんけれど言動には注意しませんと……」
「申し訳ございません、お嬢様。
シオ様も、今のお話は聞かなかった事に」
「私がいない間に、どんな事をシオに吹き込んでいるかと思うと不安で堪らないわ」
「まさか……わたくしはお嬢様の不利になる様な事はありません、どうぞご安心ください」
「何故かしら? 余計に不安になったわ?」
それ、フラグだよね……どう見ても?
言葉だけを単純に見るなら、お嬢様の不利になる様な事はないかも知れないけど。逆にこっちはどんどん不利な条件になっても構わないって言ってる気がするんだけど……気のせい?
……うん?
「補助魔法?」
やはり、ライトノベル的に系統づけられてるって事なのか? でも、やっぱり想像重視?
「そう、でも基本的には使っても判りにくいから嫌がられるのよね……仕方ない事ではあるんだけど」
「嫌がる? なんで?」
「一つには、御自身が魔術を行使したと言う満足感を得られないからでしょう」
何てあからさまな……。
使ったら、魔力が減ったとかって感じないのだろうか?
「満足感って……」
「あら、でも考えてみてよ?
例えば、昔話にある様な勇者や騎士が戦うとするじゃない?」
「うん、そうだね?」
「その時に、炎や雷や風を駆使して使うのと、単に剣を振りまして切りつけて戦うのと、どっちが見栄えがするかしら?」
「見栄えって……」
「だったら、はったりでも良いわよ?」
「いや、それも……」
幻想世界がズタボロにされた気がする……案外、中の人ってこんな感じなんだろうか?
着ぐるみじゃあるまいし、中から見るとえらい違いって事なのかな?
「もう、シオはワガママねえ……」
「え、そう言う問題?
例えば、剣とか鎗とかに雷とか火の魔法かけたら攻撃力って上がるんじゃないの?」
「とりあえず……持っている人がまず死んじゃうんじゃないかしら?
ねえ、カール?」
「え……?」
「そうですね、魔術を放つ事が出来るからと言って。その魔術を自分自身に向ければ当然怪我や致命傷を負いますから、自殺願望があればともかくと言う所でしょうか? そもそも、武器は金属で出来ている事があるので熱伝導率も高いでしょうし、皮や布で保護してあっても熱量で燃えるでしょう。
加えて、己から放出されたとは言っても放出した時点で術者のものではないので。当然怪我を負う事になります。あと……剣を冷却しても意味はないでしょうし、風をまとわせるのは難しいのではないかと」
なんだろう、この敗北感……。
た、確かにさ。ゲームだったら普通の剣に炎系とか氷系の補助魔法掛けて威力上げるとかって普通だけど。
実際には金属だから剣は重いし、扱ったら持てないだろうし。下手すれば切れ味落ちるだろうし?
ちなみに、この世界での武器は基本的に木の棒ですが何か?
火を吐く魔獣相手には焚き付けにしかなりませんが何か? ついでに、アレクが蹴り一発で仕留めた所にカールが内臓を抉るように打ち込んでた……美味しゅうございました。
「なので、お嬢様は自らの体内に流れる魔力を操作し耐久率を上げたり跳躍力を増したりさせる事に研究を重ねられました……」
「やりたい事をやっただけよ? それで騎士達の生存率が上がるのならば有りだと思って……不評だけどね、せいぜいが侍女達が性的嫌がらせから逃げる時に役立つ程度かしら? 攻撃魔術がバレると正当防衛でも過剰防衛扱い、しかも身分差があると問答無用だものね」
「ですが、お嬢様は身分証に外部放出系を抑える術式を組み込まれました。その為に助かった者も年々増えております」
「ええ……でも、やはり身分差の壁は簡単に打ち破れないのが悔しい限りね……」
「しんみりしてる所悪いけど、それって聞いてて良い話かな?」
正直、内心では汗だらだらです。
滅茶苦茶怖い、何だか機密情報を勝手に垂れ流されてる? これって一般人(いや、異世界人だけど)が聞いて良い話? と思って物凄く怖い。
「……あ、あら。
ごめんなさいね、シオ。
ほら、カールもね……私、カールの事をどうこう言えないわね。こんなに口が軽くなっているなんて驚きだわ」
やれやれと言ったポーズを取っているアレクだけど、そしてアレクは天然だとは思う。悪気はないと思う……思いたいだけとか言うな?
でも、カールは案外わざとじゃないかなあ? 確かに、二人だけの時は普段の生活の話とかはあんまり言わないけど。アレクが側に居る時はかなり口が軽くなっている気がするんだけど、それは聞いて良い事かどうか判らないから言わないけど。
「気が緩んでおられるのでしょう、お嬢様がそれだけリラックスされていると言う事でございます。
日頃の生活では、お嬢様が気を抜かれる事は滅亡と同等を意味しますから……」
「そこまでひどいのっ?」
「そこまではひどくなくてよっ?」
「どっち?」
「そこまでひどいですよ? どちらかと言えば……非道、でしょうか?」
にっこり天使の微笑みって……服黒いから悪魔に見えるけど。
燕尾服を着た悪魔ねえ……どっかの海外ブランドメーカーなら知ってるけど。映画のタイトルであったんだよな?
そしてアレクさん、そこで口を噤んでしまうと肯定しちゃうんじゃないかな……?
「く、口が軽いカールなんて知りません!」
「ああ、お嬢様……申し訳ございません。この様な失態は二度と致しませんので、どうか……」
「知りませんったら知りませんったら知りませんのっ!
あたくしは散歩に参ります、ついて来たら承知しませんわよ!」
「「あ」」
消えた……。
文字通り、アレクが消えた。
人って……消える事、出来るんだ?
「どうやら、本気で拗ねてしまわれた様ですね……お可愛らしい御方です」
つまり、本気で体内の魔力を足に集中させて跳躍を限界まで高めた結果らしい。普通ならば、そのまま落ちて来るのを待っていれば済む話なんだろうけど「空気を蹴って」進路方向を変えるとかどん超人グランプリ……そんなのカンフーの達人でもリアルには無理だと思う。
きっと、今は亡きカンフー映画の心の師匠、黄色いスーツのあの人だって見たら速攻で弟子入りにするに違いない。いや、映画見てないからどんな人か知らないけど。そして「考えるな、感じろ」と言われれば完璧だ。
何が完璧なんだろう?
「ドSですか……」
「お嬢様限定で、ドM。でしたか?」
「合ってますけど……たぶん?」
「他の方にはともかく、お嬢様が心置きなく向き合っていただけるのであれば。それが悪意であろうと受け止める所存ではあります」
「もう、将来結婚しちゃえば?」
それに関しては、カールは静かに微笑む横顔を見せるだけだった。
だから、正直な話。カールはアレクにガス抜きをさせたいと思っているだけなのか。それとも、本当に崇拝系の困ったちゃんなのかは知り合って数日の今の所は判断が着かない。
ま、そんなのお嬢様であるアレクが気にしているからひっついて来ているだけで敵に回る可能性がゼロじゃない相手に思われても、何とも思わないかも知れないとは思う。それでも、ここしばらくでも付き合ったんだから、出会って三秒もたたずにご飯のおかず認定されて血抜き作業に入るとは思いたくない……もう、あれは流れ作業なんだと思えば慣れて来た。最初はどうなるかと思ったけど、戻したりもしなかったし。
後で聞いたんだが、肉体と同じように精神も最初は不安定で認識が追いついていなかっただけじゃないかと言われたけど……つくづく、この世界に召喚しとか言う奴は見つけたら一言。いや、一発かましてやりたいかも?
「良いですか、カール?
あたくしは単に『散歩』に行きたかっただけなのです、たまには。一人で。
ですから、別にカールに言われて腹が立って一人になりたかったわけでも摘んできたものを詫びの気持ちで持ち帰ったわけではありません、調理した上でお茶の時間に出す様に命じます」
それから体感時間で数時間ほど……カールに講義をして貰いつつ、この場を離れがたいと思っていたら空からアレクが降って来た……いや、本当。真面目に。
いなくなった時と同じで、いきなり視界に現れた。
……人って、いきなり現れる事もあるんだね?
もう、それ以外に言えない。
「勿論でございます、お嬢様の仰られる事は委細承知しております」
「……シオ、講義をしますよ!
「ええと……」
何だろう、このイチャラブこいてる恋人同士の痴話げんかに巻き込まれた第三者感?
しかも、視界の端では少し頬を赤く染めて照れているの恥ずかしいのかと言う乙女か! と言うアレクの姿が……ああ、うん。見た目美少女のすごく乙女です。
反対側では、これまた普通に笑顔を崩さぬ美人がいる。
なんだコレ?
今度はこっちが家出(?)したい気分でたまらないんですが!
「お嬢様、パイとタルトとご要望はいかがなさいましょう?」
毎度思うけど、パイとかタルトってオーブンで作るんじゃないのかな?
前にお菓子工場の見学をテレビでやってたけど、こんなサバイバルな環境でなんで作れるんだ? アレクに言われたからには、カールは絶対的に命令を実行すると言うのはここ数日の付き合いで身に染みている。
いや、特に何かされたわけでもないんだけど。と言うか、二人に逆らえる程の知識もないし、何だか勘が「この人たちに逆らうとろくな目に合わない」と常に告げているし? 実際にお世話にもなっているし。
判っているのは……結局、仲が良いって事でいいんじゃないかな?
「まあ、呆れた……二つしか選択肢がないなんて!」
「ちなみに、何採って来たの?」
口をはさむのはどうかと思うけど、目の前で痴話げんか(もどき?)を繰り広げられる身にもなって欲しいので空気読まない。あえて空気読まない!
と言うわけで、授業を兼ねて見せて貰う……色とりどりの、ベリー系? サクランボとかイチゴみたいな果物? と、木の実? どんぐり的な? スイカっぽい様な瓜ぽい様な、ひょうたんみたいのもあって色々だ。
群生地を見つけたから、一度行ってみようと言われて少し心が浮き立つ……何でも、結構高い位置にあるとかで見た事はないけど森の中の山の中腹にあるそうだ。景色が良いらしいからお弁当持ってピクニック気分になれるかも知れない?
ピンポン玉大の奴は物凄く硬くて、形はかぼちゃっぽいけど色が黄色。これは種の殻で斧で割るのが一般的だそうだ……マキビシ代わりに大量に撒いたら敵を指さして笑えそうだと言ったら、何故か真剣な顔で検討されてしまった……。
続きます。