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anacra  作者: 源 三津樹
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6・ある森の一日?

※今回の更新に辺り、前回の4話の間に一話を割り込み更新を行った事で4→5へと移動しました。

 お手数をおかけしますが、新4話である3話前からご覧いただければ恐縮です(判りにくいわ)


サブタイトルに「?」が入っているのは、実を言えばシオの感覚で一日ではあるが実際には現地時間で三日ほどたっていて複数の記憶が都合よく繋ぎ合わされています。

なので、実際には最初の「一日、二日」と言うのは現地時間で一週間ほど森の中と言うか「どこか」で呆然と放置プレイされていたりしますが、本人が知らないのは幸せな事なので誰もツッコミ入れません。

魂が体と馴染まないと言うのは、機能を使いこなせない封印フリーズ状態の機械の様なものなのです。

06



 朝、目が覚める。

 いや、これは単に野宿しているから。野宿と言っても木の上じゃなくて毛布に(くる)まって平たい場所でカールと寝る。簡易テントらしいものでアレクが一人で寝てるのに文句はない……唯一の女の子だしね。

 夜露で体壊さないかと思ったりもしたけど、アレクとカール曰く「この世界の物質で作られた体」だからか「空気に慣れる」のは召喚された直後に調整されている筈で、もし戦争やら野外用に作られたのであれば慣れると休む必要もなく空気だけで連続稼働出来るらしい……どこの10万馬力ですか?

 特に部屋の中とかじゃないし、ある程度は上空も開かれた水辺に近い場所と言うのが望ましいと言う事なんで基本宿営(ベースキャンプ)は変わらない。特に家とか建てているわけではないから、移動距離が延びたらさくっと別の場所に移動する事も考えているそうだ。おかげで、太陽が昇る頃には光が直射日光でまぶしくて寝てられない……布団もあるわけじゃないんだけど。


 目が覚めて最初にやる事は……(まぶた)を開ける事。

 すみません、半分は冗談です。でも開けないと見えないじゃないか?

 森で暮らして三日目くらいから、何となくだけど周囲の「気配」みたいなものが判った気がする……多分、暇なんだろう。時間潰すものも無ければテレビもないのは当然だから、気を取られるものがないって意味があるんだろうと思う。

 アレクはすでに起きて身支度も済んでいるあたり、お嬢様って言うのは大変な人種なんだと思って口走ってみた事はあるんだが「あら、でもきちんと休む事は出来るし寝起きから仕事漬けでもないし。食事もお茶も出来るのよ? これほどのんびりしたのは本当に幼い頃を除けば初めてかも知れないわね、休暇を楽しんでいるわ……ちょっと活動的だとは思うけど?」と笑いながら言われたから、別の意味で大変なんだと思った。ドン引きと言ってはいけない、「お嬢様」と言うのは総じて大変な生き物なんだよ……きっと……。

 カールにも、大事なお嬢様に付き合って貰って正直どう思っているかを最初に聞いた時に「お嬢様が嫌悪される事もなく国に問題がないと言う事でしたら、わたくしから申し上げる事は何もございません」と言われた事がある……つくづく、アレクの親の顔が見たい……いや、見たくないけど。何か怖い。

 ちなみに、カールは心の底からお嬢様至上主義なんだろうと思う……当初は、普通に言葉を飲み込んだだけだったんだが裏を返せば「お嬢様が嫌悪される事もなく」と言うのはともかく、「国」に関しては「お嬢様」に迷惑をかけるかけないの範囲の話なのだろうと言われずとも次第に理解した。正直、こっちの方がナニソレ怖いの世界だ。こちらではどうだか知らないけど、下手すると……いや、これ無し。色んな意味で無し。うん。

 そうしたら、カールは朝食の支度があるそうでアレクと周辺を散策……きちんと計った訳じゃないから判らないけど、恐らく元の世界だったら何日かかけて移動する行程なんじゃないかと思う……。


 朝食を取りながら、ちょっとした講義っぽい会話。

 例えば、この世界の通貨とか使い方とか。流石にステータス的なものは無かったし、仮にあったとしても感知出来なかったんじゃないかと思う……ゲームじゃないんだからね。

 朝食の後は軽く……いや、カールが言うから軽く手合わせ。全然勝てません……聞いた所、カールは滅茶苦茶強い足技メインのアレクの護衛も兼ねた側仕えだとか……侍従兼執事兼護衛兼って、幾つ肩書あるんだろう?

 最初の何日かは黙ってみているか「もう一回りしてきますわ」と言って軽くアレクは行方不明になっていたんだけど、この森は把握しているからアレク一人でも問題は滅多に起きないらしい。とは言っても、全く問題が起きない確率なんてそうそうある訳でも無く。逆に、アレクに問題が起きたら判らないわけがないらしい……。

「その程度は出来て当然でございますので」

 とかさらりと言っているから、内心で「お前はどこの黒い奴だ」とも思ったが、同時に「それだと虫になるだろうか?」とも思ってしまった……どうせ口にしないと判らないだろうし、この世界にいるかも判らないし。ついでに言えば、服装が黒い。何て言うんだろう? 燕尾服? スーツ? それに近い感じの服を今は着ている。

 カールに言わせると、普段は士官服みたいな支給服を着て仕事をしているから丈の短い服は動きやすくて良いらしい。その分、色々と隠せる所が限定されるけれど|森の中(こういう場所)だとそこまで気にしなくて良いからプラマイゼロって所なんだろうだ……意味わからん。


 朝食の後は森の中で食材探し……まあ、実地訓練兼ねていると言う所。

 この森の中は安定しているらしく、ある意味で幸運な場所に放り出されたらしい。その件については割と賛成したくないけどせざるを得ない。だって、いきなり火山とか海の上とか砂漠とかに放り出されたら、多分一日もつかもたないかって所だったんじゃ……あ、でも火山なら温泉あるかな?

 流石に、たまに泉で体を流す程度じゃなくて熱いお風呂に入りたい……日本人だからね! ご飯と風呂は譲れない!

 もっとも、森の中で野営なんてしていて両方欲しがるのは贅沢なのは判ってます。うん。

 カールが(一体どうやって居るのか常々疑問だけど)完璧なテーブルコーディネートをしてくれているとかで、食事関係に困った事は最初の一日、二日くらいのアレクと遭遇(エンカウンター)して自意識が構築されるまでは自動的に動いていたらしい……よく生き残れたな?

 この世界に召喚されて、なんかぬるま湯に浸かって眠ってでもいたかの様な感覚の後で構築された自意識の後。

 最初の目に入ったのが人形の様に見目麗しい、美少女ってどうよ?

 今だったら「お前はどこのライトノベル主人公だ!」と自分自身に対して脳内蹴りツッコミを入れてもおかしくはなかったと思う……ほどなくして、その後ろにじっと控えてこちらを見つめているカールを見つけて正気を取り戻したのも良い思い出だ。

 ……出来れば、元の世界に戻ったら忘れたい程度の良い思い出だ。

 これはカールと出る事もあるけど、アレクと出る事もある。臨機応変(りんきおうへん)って所?

 でも計画性はあるみたいで、その辺りについて不満も文句もない。おんぶに抱っこで楽させて貰ってるのはこちらなんだしね、出来れば人の居る街とか村とかで文明的な生活も心惹かれないわけでもないんだが……大体のライトノベル系だと召喚されるのは偽と言うか似非? 中世の欧州的なご都合主義的な発展を遂げた設定が多い。これは、恐らく「そうだったら良いな」って言う願望なんだろう。だから中途半端なんだろうと思う。

 実際、世界的にも生物的に甘やかされた環境で生きて来た現代日本人が中世の欧州やら中国大陸なんかに放り出されたら生水で命の危機に(おちい)るのが簡単に想像つく……ちなみに、その似た様な体験をしたのが親戚に一人居て、日本の山中で川の水をそのまま飲んで病院に運ばれたのはこちらですが何かっ!


 食材探しで最も困難なのは、野菜関係だと言うのがここ暫くで得た知識だ。

 何しろ、山の中だから食材なんて幾らでもあると思うだろう? だが考えて見て欲しい。確かに木の実はあるし、果実もある。それを目当てに現れる草食、肉食動物、昆虫なんかも出る……昆虫って思うから拒否感は出るけど、火であぶるとカリカリしてスナック感覚で……す。

 見るな、考えるな、感じるんだ! 原型を思い出すんじゃない、生きている姿を思い浮かべるんじゃねえよ! と言うくらい、最初は忌避(きひ感激しかったんだけどなあ……慣れた。地域によってはジャンクフード扱いらしい。そちらでは流石に油で揚げてるらしくて、流石に森の中だと炒め揚げ程度しか危険で使う気にならないとは用意したカール談……感覚としては本当にスナック菓子。

 でも青菜がない、葱がない、ニンジンもジャガイモも……キノコはあるけど、こっちの世界じゃ薬の扱いらしい。割と森の中ではどかどか取れるから一部は食べても良いと言われたけど、薬にして置いていざって時に売り飛ばすと良い緊急避難用の資金源になるそうだ。実際、痛み止めに使われる事もあるんだってさ……幻覚きのこじゃないといいな? 知らないけど。

 青菜系の野菜は、やはり森の中で無造作に生えている様な物ではないらしい。報連相……じゃない、ほうれん草的なものとかチンゲン菜的なものがあるのはカールの出す食事で判った。ほうれん草的なものはレバー的な肉と混ぜて香辛料で味付けしたペースト状のものがアレクのお気に入りなんだそうだ。意外に味覚は酒飲みなんじゃないかと言う気はするが、近所のお姉さん(独身、中年)は下戸だけど食事の好みが酒飲みらしいから、その辺りは何とも言えない……親がそう言ってただけで呑んでないから、未成年だから。

 多分、もっと高い場所……高山的な所に行けば野生の菜の花系の植物も(何故か)あるんだろうけど、流石にそんな知識はないし世界が違うのに発育とか発生とかの条件が同じとも限らないだろう。普通。

 何しろ、形状が全く同じなのに色が違うだけで毒とか普通にあるし。かと思えば、形状が全く違うのに色が同じだけで実は同じ植物でしたとか普通にあるし……被子植物じゃないんだから……雄株と雌株って言う、植物の種類としては複数あるけど一つの種類だけだと子孫を残さない感じの奴。だから、変な進化の仕方をすると雌雄同体みたいに一本だけでも広く大きくなる植物も全くないわけではないらしい。そう言う場合、かなり虚弱な植物に進化するか伝説級の強さを身に着けるかの二択になる事が多いらしいが、実物を見た事がないから紹介できなくて残念だそうだ……なんかろくな目にあわない結果になるんじゃないかって気がするから遠慮シマス。


 お昼には、大体(動物達を倒して(さば)いて持って)寝床に戻る。別に基地って言っても良いんだけどちょっとした開けた限定空間? ちなみに、寝ている間は魔術でカールが血界(けっかい)を張ってるから動物達は近寄って来ないらしい。

 ちなみに、コレ誤字ではない。どこから出したのかはツッコミ入れない方針の筆でインク壺っぽいものに入れて持ち上げると、虹色に光るインクが付く。それは高位召喚魔獣の血液的な何かで出来ており、それを周辺に一定の法則に従って書くと見えないが半球体状に見えない壁が出来るんだそうだ。だから、中から出る事は出来るけど外から入る事は出来ないから、万が一トイレに目が覚めると命がけで朝を迎える事になるんだそうだ。

 見聞きした事をそのまま言ってるだけだから、理論なんて知らん。

 とにかく、広さとしては直径で10mもない……8畳間を一回り小さくした程度? アレクが寝る場所を挟んで寝る場所が確保されて、間にたき火とテーブルセットが置けるスペースがあるってだけだから十分な広さだとあ思う。

 そうやって持ち帰った食材をカールが後に調理してくれるそうだ、アレクは調理が出来るか出来ないかと言ったら「野営料理なら出来ますわよ? 後はお茶を入れる程度かしら?」と言う、何て言うか行動的(アクティヴィティー)な意見が返って来た。何でも、基本的には事務仕事で書類に目を通す仕事ばかりしているが煮詰まると違う、活動的な行動が取りたいものの人の目もあるので、せいぜいがお茶を入れる程度の気分転換しか出来ないんだそうだ……どんだけお姫様な生活してるんだろう? とか言いながら、視察関係で外に出て襲われた時は生き残らなければならない義務があるとかで、ある程度の「護身術」を(たしな)んでいるんだそうだ。

 おかしいな? 心の辞書に掲載されている「護身術」さんと「嗜む」さんが号泣しているイメージがあるんだが……常識の違いってコワイネ?

 とは言っても、それ以前の問題として「わたくしめがおりますのに、お嬢様の手を(わずら)わせるなどと……!」と、目の前で寸劇をカールが繰り広げてくれるから、アレクの手料理は今の所は食べた事がない。別に良いけど。

 いや、確かに美少女と野郎の手作り料理のどっちが食べたいかって言ったら速攻で野郎じゃなくて美少女でしょう? おかしくないでしょう? カールは美人だけどさあ……スカート穿()いても違和感が家出しそうな程度には美人だけど、野郎はやっぱり野郎だと思うんだ。


「……何か?」

「イイエナンデモ」


 視線を逸らせるくらいは許して欲しい……何も言ってない、よな?


「アレクは、今日は魚釣りでもしてたのか?」

「ええ、なかなか大量に獲れましたわ」


 森の中にあるデカい系葉っぱを上手く皿にしてアレクが持ち帰ったのは、長さ的にはサンマくらいの大きさの。太さ的にはもうちょっと太い目の魚だ。塩焼きの野趣あふれる料理にしても良いし、白身魚だからムニエルとかにしても美味いと思う。


「あれ、でもアレクは魚釣りの道具とか持ってたっけ? 作った?」


 とは言っても、釣針も釣り糸もないよな……どっかの小説だと釣り糸は髪の毛を数本抜いてつなげたとかあるけど。あれは手入れをしてある髪だと結んでもなかなか取れやすいらしくて女子が騒いでいた事があるが、それが何て本なのかは知らない。釣針は……昆虫でも捕まえて餌としてくくったのかな?


「いえ、少しばかり蹴りつけて気絶させただけよ」

続きます。

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