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anacra  作者: 源 三津樹
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5・周りが無能だと一人くらい有能になります

シオは魂と肉体がまだ馴染んでいないので記憶がすっ飛びます。

本人には内緒ですが初日などなかなか個別認識して貰えずにアレクは三回くらい遠い目をしてしまいましたが「子育てと思ってはいかがでしょう?」と言う有能なセリフから諦める事を覚えました。

最近は割と認識してくれてきているのでほっと胸をなでおろしているのは本当に内緒です。

05



「そうでもないわよ? 少なくとも、私が出来る程度のお仕事しか回して貰っていないもの。

 お父様や私で無ければ見てはならない様な書類があるのは事実だけれど……その書類だって、元は他の方が作られたのだから絶対に他の方が見てはならないと言うものでもないわよ?」


 アレクは笑いながらそう言っていたが、カールに言わせると。

「お嬢様は5歳の頃からすでに御父上の仕事を手伝い、そのお蔭でご両親の仲は御母上が(はかな)くなりかける程に(むつ)まじくあられる様になりまして……その事が関わっているのか、お嬢様は妹君とお会いになる時間を取る事も出来ず、すでに御父上は書類仕事の大部分をお嬢様にお任せする様になっていた事に弟君が生まれた事もあり、お体が弱り長期療養の必要が出たのに三日に一度は行方知れずになる御父上の穴埋めをされております。正直、ここ何年もお嬢様が完全にお休みの日を取られた事は一日もございません。

 ですので、異常事態ではありますが今回の出来事につきましてシオ様に関しては思う所がございません。お嬢様も大変のびのびと休暇を楽しんでおられますし……お家の方でございますか? 本来は己で行うべき仕事なのですから、御父上がお嬢様に物申される必要はございません。お嬢様は御自身の行うべき事につきましてはひと月分以上は終わらせて……次の公務までにお戻りいただければ、御母上も休息を取る事が出来て一石で二鳥も三鳥も得る事が出来ます。

 ですが、事の元凶につきましては保証がありませんが」

 と、言う事だそうで。

 アレクの両親何なんだとか、アレクの弟妹大丈夫かとか、何か色々と言いたい事がないわけでもないんだけど。

 少なくとも、カールの報復対象に自分自身が含まれていないのは『心の底から』喜ばしい……森の中の獣って、魔法使って来る奴いるんだぜ? ゲームのお友達「僕悪イ奴ジャナイヨ!」な奴はいなくて何でバブルなんだよ! って半泣きになりかけたし魔法じゃないと倒せないとか何だよそれ! って心が折れたのは遠い昔の話ではない。いや、確かに俺程度の実力だと物理攻撃は効かないらしいけど、カールはもとよりアレクも蹴り一発で霧散したのは驚いた……それでいてカールが「お嬢様、御足(おみあし)が汚れます」と言えば「たまには運動したかったんだもの」と言う、どんな会話だよと脱力した気持ちを理解して欲しいとは言わないけど崩れ落ちた。

 どんだけストレス過多なんですかアレクさん、どんだけお嬢様至上主義なんですかカールさん。

 的な感じで。


「そりゃあ、たまに面倒な書類が回って来ると『暖炉の焚き付けにちょうど良いかしら?』なんて思う事も毎日二桁くらいはあるけれど」


 怖っ!


「書式も計算も滅茶苦茶な書類に関しては、カール経由で戻しているから。かなり減ったのよ?」

「あれでですか……」

「そこまでっ?」


 異世界補正と言うか、異世界ネタあるあるの「算術は王侯貴族でも小学生低学年レベル」って奴なのか?

 まさかね……大体、それだと建築関係とか危険すぎる。耐久度の計算とか出来ないと普通に家さえ出来ないんじゃないか? まさか、そこまで魔法頼みって事はないだろうし? 魔力が切れたら一気に落ちそう。魔力石的な物だってあるかも知れないけど、それだって永遠に持続するものではないだろうし? そうなったら魔法をかけるのが人と石の違いだって事だけになるんじゃないか?

 オタク入ってる? だから何?


「でも、本当に面倒な書類と言うのは誤字脱字やら計算違いやらと言う所ではないと思うのよ?」


 それはそれで大変迷惑らしいけど……何しろ、鉛筆やら消しゴムやらパソコンなんてものは流石にないらしい。必然的に羊皮紙とかペンとかで書いたりしなければならないのだろう、もしかしたら昔の元の世界の様に木の板とか竹を組み合わせたものに書いたり削ったりとか言うのもあるのかも知れない。

 残念ながら、この森の中でそこまで文化的な道具には今の所はお目にかかった覚えはないし。恐らく森を出ない限りは難しいんじゃないかな?


「参考までに、それってどんな書類?」

「切り捨てて無かった事に出来ない相手からの、自己中心的な要請の書かれた書類」

「「ああ、それは確かに」」


 アレクは「でしょう?」とにこやかに笑っているが……はっきり言って、目が笑っていない。

 本当に、どれだけのストレスを溜め込んでいたのかと思うと頭が下がる思いだ。

 遠まわしに言っているのは、言われても固有名詞が判別できないからと言うのもあるし。わざと言わない様にしていると言う事もあるのだろう。そのうちに教えてもらえるかも知れないけど、今の所は困っていないから別に良いけど。

 大人って大変だなあとは思うけど、厳密な意味からすると年齢差とかもそうだけど年齢の数え方とか時間軸とか、その辺りどうなっているのか気にならないと言えば嘘になる。でも、そんなの知ってそうな人は今の所はいないしなあ……。


「書き損じをそのまま出してくるとか、計算が違っているとか、それでも訂正出来ないのだから仕方がないと言うのは判らなくはないのね。

 でも、だからと言って予算編成や草案についてお手軽に出されて確認して訂正して清書するのはこっちだと言う事を前提として提出されるのって、バカにされていると思うの。こちらに持って来る時点で一度は責任者が間に挟まれている筈なのに、それでも上がって来ると言うは責任者が無能だと知らしめているのよ?

 人材が足りないのだと言っても、希望者は居ると言うのに無駄に何度も途中までは取り立てようとして。実際には(ふた)を開けてみれば前評判とは全く違う者ばかりが寄越(よこ)されるのよ? 明らかに途中で(ふところ)に収めた者がいるって事じゃない? それで居て自分達の詰まらない書類を優先的に()じ込ませようなんて馬鹿馬鹿しいを通り越すわ! 一体、どれだけ有能な人を排除してきたと思っているのかしら!」

「お嬢様、食後のお茶はいかがですか?」

「いただくわ」


 にこっと微笑みを浮かべているが……つい数秒前までのアレクの形相を見てしまった身の上では何とも言えない。

 本当に……本当に、どうなってるんだ、この国? いや、この国かどうかは知らないけど。

 親戚の姉ちゃんが似たような事を言ってたなあ……「派遣会社に殺される」とか言ってたっけ?

 間に人が入ると話がこじれる、みたいなものかな?

 ろくに自分で仕事しない様な奴らの集団、って事か?

 そう言えば、俺を召喚した奴って何の為に人の事を召喚したんだろう?


「所で……シオは元の世界で何か武術でもやっていたのかしら?」

「一応、学校の授業で柔道はやった事あるかな?」


 公立の中学校ではあったけど、何故かプールの近くにそれほど大きいわけでは無いんだろうけど道場があった。別に柔道専門ってわけじゃなくて、単なる畳敷きの部屋で鉄筋コンクリートで作られてたから、夏場になると校内合宿で使われる事もあったんだよな。


「剣術の心得があるのではありませんか?」

「ああ……ないってわけじゃないけど、ちゃんと習ったわけじゃないんだよな」

「実戦形式と言うわけなのね?」


 そんなに良いものでもないとは思うけど……実戦形式なのは事実ではある。

 とは言っても、そんなに現代日本でそこまで戦う必要なんてそうそうあるわけじゃない……人によるのは確かだけど、だからと言って人にはそれぞれ立場ってものがあるわけで……。

 いや、今はうん。

 朝起きると食前の腹ごなしを兼ねた周辺の散策、これは危険を把握する為とこの森の状況を確認するとともに生態系の勉強を兼ねている。一体いつ用意しているのか知らないが、アレクの側からカールが離れる事はないから三人一緒だ。

 ついでに、そのあたりに実っている森の恵みを分けて貰ったり。ある程度の小ささで、ある程度の肉付きの良い動物を仕留める……罪悪感? ありますけど大変おいしゅうございます。

 最初に殴った時にあった罪悪感は、確かに半端無かった。生き物を手に掛けると言うのは、それに近しい経験があった身の上でも「普通ならば超えられない」壁であるのは確かだ。猟友会と紛争地域の人達でもない限り、あまり大っぴらに「命を奪う」と言う事が日常になる人って言うのは滅多に存在しないだろう。


「ある程度の……剣道の型はつけて貰った事はあるけど、どうかな?

 実戦形式とは言っても、結局は『生命を奪う』と言う行為をした事は無かったけど」

「……そうなると、半殺しくらいの事はしていた、と言う事。かしら?」

「もしくは、物体の破壊と言う点に置いては日常だったと?」

「人を暴力団予備軍みたいな言い方をしないでくれませんっ?」


 とは言っても、今はカラーギャングって言う言い方が主流らしいけど……。

 ギャングとマフィアとヤクザと暴力団の違いがよく判らん、今は現代日本でも暴力団って名乗るだけで警察につかまるらしいけど、ギャングとかマフィアとかって言っても捕まらないのかな? 歴史上で嫌われている団体は好きだと公言するだけで坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎いとでも言いたいのかとばかりに憎々(にくにく)しい目と言葉と態度をされる事もある。

 あ、いや余談だけど。

 少なくとも、対人で仕様で武器をふるった事は……ないとは言わないけど、牽制! 牽制程度だから!


「もしくは……物理法則ではないお相手、と言う事かしら?」

「……ええと、アレクさん?」

「はい、なんでしょう?」


 何だって、そうにこやかなんですかねえ……?

 てか、お前達が人の何を知ってるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 とか言う事を涙目で言っても良いですかね?


「体さばきが、あまり対人仕様ではないと言う事と。

 後は、感覚的な所でしょうか……世界に溢れている魔力を感知する能力が高いと言うのも判断材料でしょう。

 通常の認識として魔力を認識すると言うのを肉体から感知するのは、ある程度の人格を得た状態から行おうとするのは肉体としての判断力である五感が阻害する事があるのですよ。

 樹木でさえ傷つける事に躊躇(ためら)うシオ様ですが、時に鋭い動きを見せる事がおありになるのを度々拝見する事がございます」

「男に見られても嬉しくないかもぉ……」


 いや、だからと言っても女性に見つめられて嬉しいかと言われると困る。非常に困る。何がって、年齢イコール彼女無しってわけじゃないけど、現在進行形で彼女居るけど、その彼女に「美人の女の子に見つめられた」なんて言った日には……色々な意味で明日はないかも知れない……。

 別に、その子は可愛いです。昔からの顔馴染みって言うか、幼馴染って言うか、ツンデレって言うか、滅多にデレないけど。

 でも、初めて会った時に泣いていたくらい本当は感情表現が豊かで。

 なのに、本人が周囲を怖がって虚勢(きょせい)張って平気な顔なんてするから周囲も当然「この子は大丈夫なんだな」って思うようになって、それが当然の事となる。

 だから、それが悪循環を引き寄せる事になる。あの子はどんどん周囲に感情を見せる事を無くして行く……流石に、初対面で隠れて泣いている姿を見られた相手には遠慮とかないけど。別に、だからって嫉妬心で何かするとかはないけど、どうにも周囲にはあの子の意識を上手にくみ取ってこっちに影響を起こす奴が多い。

 愛されているのに、愛がどんなものなのかを知らない。

 強い力を持っているのに、本当に幼い頃に親から引きはがされた女の子。

 今頃、元の世界ではいなくなった事を知って大変な事になっていなければ良いんだけど……。

続きます。

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