3・子育てと魔王と世界の真実
元々あった別の話の、ある意味で前哨戦の話なので元の話を読まないと意味が判らない部分があるかも知れません。まだ書いてません。
保護者二人がシオに固有名詞を教えないのは、単なる親切です。
別にバカにして教えないわけではないです。
シオが言っていた話は日本の話ですが、調べたわけではないので本当にソレで出来るかどうかは科学的知識をお持ちの方にお任せします。
03
「いいえ、大切なのは切欠です。
シオには同じ場所を堂々巡りをするわたくし達に一筋の光明をいただきましたのですから、これはとても大切で素晴らしい事ですわ」
「そうですね、他の物質の中に含まれている場合があると言う事に思い至らなかったと言う点では非常に素晴らしい意見であると存じます」
思い付きで言っただけ、なんて今更言ったら怒られるだろうか……どうしよう?
まさか、ちゃぶ台返しはされないと思うけど。されてもちゃぶ台はここにないし、あるのはテーブルとイスだし。
「後は法陣を中に詰め込む技術開発に速度を上げるだけですわ、国元に戻ればいの一番に始めなければなりません」
「畏まりました。では……」
ん、あれ? 何か話の雲行きが怪しい様な怪しくないような……?
もしかして、今すぐ帰る話してたりします?
「お待ちなさい、カール。
今すぐに帰るわけには参りません……たかだか数日、たまにはお父様にも国益を担っていただかなくては……」
あれ……何か、二重の意味で危険なセリフが出て来た様な気がするんだが?
もしかして、アレクって家出少女ってイメージも確かにあったんだけど。そりゃ、俺の都合に良かったから深く聞かなかったのもあるんだけど、もしかして……。
国出奔姫様だったり……する?
どこにいるんだか知らないけど、アレクのお父さん! 娘さんを拉致ったの俺じゃないです! 無実ですから!
……よし、現実逃避完了。
でもなあ、俺の知識では……なんか果てしなく良い家とかって言うのないし。商人や地主以上って全部まとめて「逆らったら殺される」って心象あるんだけどな……きっと、俺の体の素になった人。もしくは、人達? って、すごく経済的な階級の低い人達だったんだろうな? でも若干の知識があるから、もしかしたらあの召喚主の体液も入ってるのかも……。
「あら、シオ? どうかなさいまして?」
「お加減でもすぐれませんか?」
「いえ……お構いなく……」
己の想像力に精神が負けただけです、とは。
流石にちょっとばかり情けなくて言いたくない……言いたくはないけど、自分からは言わない努力!
「で、ええと……とりあえず、今後の方針。決まった?」
「決まるも何も、当初の方針を曲げないだけですわ」
くすりと笑みを浮かべた美少女アレクは、本当に可愛いのだが……。
何でだろうか、あまりにも可愛いと言うか綺麗と言うかで恋愛的要素が欠片も見当たらないんだが……いや、別に浮かばなくても良いんだけど。
世間で言う妖艶な色気と言うと、どっちかと言えばカールの方が近い気もしないでもない……カール、男だけど。
どっちにも食指が湧かないのは、幸運だったと言う事だろう……見捨てられたら三日くらいで死ねる自信あるし。
サバイバルな筈なのに環境が良いから、あんまりサバイバルって気はしないけど。
あ、でも朝ご飯はともかく昼と夜ごはんは自給自足だし。寝るのは基本野宿だからサバイバルって言えばサバイバルかな? 風呂もあるし。水だけど。
最初、頭にある記憶の中で食材と思わしきものを取ってきて食べている記憶があったから。それに従って採ってきたらカールは無表情なままで「毒殺専門でいらっしゃいますか?」と聞かれた。ビビった。
ちなみに……採って来たキノコやら草やら果物は全部致死性の高いもので、確かに記憶でも一度は食べた記憶があるけど何度も食べたってものはなかった。うっかりと言うか迂闊と言うか……いや、同じ意味だけど。
でも言い訳を許されるなら言いたい……知識としての記憶じゃなくて、記憶としての記憶しか頭の中にないんだから仕方がないと!
確かに、後から「複数回口にした記憶のある物体ならば毒物ではないと言う事になるわね?」と言うアレクの言葉に「ああ、確かに……!」と思ってしまったのは確かだけど。
「少なくとも、一人で旅を出来る程度にシオを鍛え上げる。
その為に、全力で助力をすると言う当初の方針に違いはないわ」
嬉しい。
確かにね、嬉しいんですよ。
日本で平和に暮らしていた(と思われる)俺と言うのは、何の関係も無い異世界の(恐らく一国の姫君と従者が)何故か世話を(スパルタだけど)してくれる。
恐らく貧乏だったり奴隷だったり体を売ったりで、本人たちでさえ「大した事のない意味のない人生だった」と思われる人生を歩んできた人達……たぶん、生きていない。生きていたとしても、どんな目にあっているかと想像しただけで御先は真っ暗な気がする。
何しろ、召喚主が人の話もろくに聞かないでさっさと部屋から追い出す様な奴だからな!
アレクに言わせると「人造人間として起動した時に意識と接続するのに時間がかかったのでしょうね……流石に、異世界の魂がこの世界の器に馴染むのに一瞬で行うのは無理と言うものだもの」と言っていたから、同じ世界だったら少しは早かったのだろう。もともとの知識の差と言うのもあるわけだし。
でも、でもですね?
何だか、それだけではない気がしないでもないと言いますか……?
「そうね……それは間違いではないわ」
裏があるんじゃないかと思った、と言ったらアレクがさくっと答えたりする……泣いて良いかな?
「とは言っても、シオに一人で生きるだけの力を得てほしいと思う気持ちは事実よ?
何故なら……この世界にはお伽噺の定番、魔物の大量発生による襲撃事件が発生する事になるわ」
「……それって、魔王が現れるって事?」
ごくりと、俺の喉が鳴った気がした。
俺は平和ボケした戦争を知らない日本人で、大都市では未だにカラーギャングみたいなのがいるらしくて……あれ、でも地方都市にも広がったらしいけど。喧嘩とかって言うのも滅多に見るもんじゃなくて、かと言って「戦う」と言う点については全く知らないわけでもなくて。本とゲームが好きだから、やっぱりファンタジーの王道は戦略シミュレーションだと思うけど、当然「生き物に致命傷を与える」なんて事はしたことがない。
今の所、俺はこの世界で獣に止めを刺したこともない。後処理はするけど……皮剥ぎと内臓取り出しは褒められました……。
「いいえ、魔王は存在しないわ」
流石にそこまでお約束に忠実で無くて良いよ! と思ったら、空気を読んだ神様ありがとう。
とりあえず今は貴方のしもべです……今だけ。
「でも、暫定聖女が原因を突き止める旅に出る事になるでしょう」
「暫定……聖女? 暫定って、一時的って言うアレ?」
「ええ、そのアレよ。
聖女候補となる娘が、仲間とともに各地を巡り原因を突き止める。各地の神殿の力を回復させる事で、初めて彼女は聖女として認められるわけですヨ」
「ゲームみたいだなあ……」
ちなみに、聖女候補が複数いる場合はどの聖女が幾つ神殿に力を取り戻したかで決まるらしい……神殿の力が弱れば付近の集落に魔物の被害が増える事になるから、どっちにしても神殿の力を強化しなければならないんだそうだ。
聖女候補は大陸で二人ないし三人が出る事になる……当然、ある程度以上の力を持つ娘で無ければ聖女として神殿に力を取り戻す事は出来ないし。かと言って一人で放り出すわけでは無くて各地に神殿と言う名の拠点を置いて常時同行するのは両手の指で足りるらしく、戦力的な意味で大人数で移動するよりも通常は足を軽くさせて移動距離を稼ぎ、各地の神殿の兵士を使って戦闘場所に挑んだ方が完全に聖女任せにするわけでもないから罪悪感が薄れると言う事なのではないかとアレクは言う。
……大人って汚い。
「うら若き乙女じゃないといけないって……神様も選り好みが激しいって奴?」
「それは否定しないけれど、外聞的な問題もあるのよ。
男性で騎士や兵士だと見た目的に好感度が上がらないし、魔術師と神殿はいがみ合っている者が個人的にいないわけではないの。そうなると、後は神殿の高位神官とかになるけど大体が金と汚職に塗れた金の亡者でしょう?
何より、同じ護衛が守るのならばガタイの良い男性や脂ぎった中年、今にも死にそうな老人より若くて穢れを知らぬ綺麗な女の子の方がやる気が漲るのは生物として悲しいけれど止めようもない事実なのよね」
「……世界の真実って、残酷だな」
「そうね」
言われると納得するけど、なんだか釈然としない。
確かに、じゃあ護衛するならどっちが良いよ? と言われれば断然「若い女の子」って答えるのは全面的に賛成だけど。
ちなみに、聖女候補が必ず一人だけじゃないのは各国に面子ってものがあるからだそうだ……別に、聖女を排出した国だからって特権とかあるわけじゃないらしいけど。外交カードを切る時に使い勝手が良いのは他人の罪悪感と善意に獲物でぎりぎりと突きまくる程度の使い勝手の良さと、ついでにダメージがあるらしい……酷え事しやがる……中には、まったくそんな事を意に介さない人もいるらしいけど。
あくまで神殿が絡む「善意」だかららしい。
「どちらにしても、その時までにシオには一人で生き残れる程度の力は着いていて欲しいわ。個人的見解、異世界の友としてね?」
「わたくしもお嬢様と同じで同感です、シオ様にわたくし共がいつまでも一緒にいるわけには多方面の見地として出来かねます。ならば、今から様々な知識と経験を得ていただく事に何の問題があるでしょう?」
「いやまあ……善意的に言って貰えるのは嬉しいけど……」
それでも、ヘタレ大国日本人としてはご飯が絡んでいない所では生き物を平気でぶちのめす人種にはなりたくないと言う気がどうしてもする……もし、この世界での生活に慣れてしまって元の日本に帰ったら、うっかり日本でこの世界と同じ様な言動をしてしまったら、犯罪者だ。
「あ、そう言えばさっき言ってた人造人間の話のあたりだけど……」
「ええ……」
ちなみに、ご飯大好き日本人なので朝ご飯はきっちりいただきました……洋食だってご飯です。美味しいは正義です。だから無駄にはしません。ごちそうさまでした。
「俺の元の体ってどうなってるわけ?」
「ああ……魂の召喚ね、それについては世界が違うから判らないけれど。
可能性の一つとしてならば、元の魂を複写してこちらの世界で再生させる方法と言うのもあるけれど。人の召喚で異世界から呼ぶだけで恐ろしい程の幸運を使っている筈だから無理でしょうね。元の時間軸に戻れば魂だけが老成して若い肉体に戻ると言う可能性もあるけれど、そもそも論として元の世界を特定するのが難しいから今死んだ所で魂が無駄に消費されるか、もしくはこの世界で下手すれば循環する可能性があるわ。
ガフの部屋は全ての世界に通じている様に見えて、扉は二つしかないのよね……取り込まれたら逆召喚でも起きない限り終りね」
「ガフの部屋って何?」
名前だけ聞いたら、どっかの風の魔道王の搭乗員の様だ……って、これ判る人しか判らないネタだな……。
「簡単に言えば、ヘブライ人の伝説で神の館にある魂の住む部屋のことね。
もう少し平たく言えば、この世界のあの世とシオの世界のあの世は繋がっていないと言う所かしら?
シオは上位世界からこの世界へ落とされたと言う形になるから、そう言う意味からすれば神の許しを得て存在はしているけれど。だからと言って神は自力で生きようとしない者どころかどんな幸運値も依怙贔屓をしないと言えば良い方で悪い言い方をすれば無関心だわ」
「何か嫌なセリフ聞いたっ? てか、ヘブライ人とか普通の日本人は知らないよっ!」
「え……そう、言うものなのかしら?
まあ、でも良いじゃない? 私が知っていると言うだけであって一般的な日本人がどうとかは気にしないわよ? 私。それに、世代によっては一部地域で有名なセリフみたいよ? 流石にスズメについては知らない人の方が多いとは思うけど」
「出来れば気にしてくれても良い気がする……」
続きます。




