2・秘密がいっぱいで着いて行けません
アレクの口調が定まらないのは仕様です。
これからも当分定まりません。
シオがどんどん壊れて行きますが仕様です。
カールが不動なのは仕様です。でもどっかの銀髪執事ではありません。
ホントダヨ?
02
問:異世界で、俺は日本語をしゃべっているつもりで異世界語をしゃべっています。
でも、異世界人が(恐らく)日本語を理解できると言っています。何でですか?
答:乙女の秘密です!
問:乙女の秘密とか答えられたら、どう反応すれば良いでしょうか?
答:嘲笑えばよいと思います。
脳内質疑応答、完了。
今から、嘲笑いたいと思います……。
「何て言うのは冗談だけどね?」
……どうしよう、気負って嘲笑ってやろうと思ったのにタイミングを逃した。
「ちなみに、私はカールの方は知らないわよ? 見当が着かないわけではないけれど確かめるつもりは今の所ないし……。
私の場合はね、特殊能力持ちだからなのよ? でも、それ以上は秘密」
「お嬢様……」
「別に構わないわ、シオはこの世界の者ではないのだから。とは言っても、仮に敵に回ったとしてもシオは私とカールを相手に戦おうと言う気構えは出来ないのではないかしら?
だって、私の知っている日本人ならばね……そう言うものだもの。
たまに一部例外と言う人もいるけれど、シオにとっての最上位はこの世界ではないわ。だから大丈夫。
この世界の召喚主でも肉体ごと召喚する事は出来ないでしょうね……だから、場合によっては肉体と魂の軛を引っこ抜いて書き換えれば良いのだし……とは言っても、その書き換えが……」
「ちょっと待って!」
だむ!
朝食の席でお行儀が悪いとは思うけれど、こればかりは容赦して欲しい。
何と言っても、アレクは今。とても重大な話をしたわけで!
「あら、どうかしたの?」
「お茶のおかわりでございますか?」
呑気なのか判っててやっているのか……それとも、所詮は他人事だと思っているのかと挫けそうな心が弱音を吐く。
どう見ても生まれも育ちもよさそうな二人が、(この二人の目からすれば恐らく)どこの馬の骨とも知れない胡散臭い俺を相手に何日も一緒に居てくれたのだから、間違いなく善人だと思う。この世界での知識は偏っているんだかなんだか判らないが、元の世界の常識とせめぎ合って判断だ着かない状態になる事も珍しくはない……流石に、好きで森の中でサバイバルをやっているわけではないが「最低限の戦闘術を身に着けないと速攻で死ぬ」と言われればボーイスカウトよろしく野宿も慣れてきましたと言う感じになるのも当然だろう。
悲しい事に、この世界では危険な獣や魔物がわんさかいるので平民の死亡率は大都市に居ても高目と言っても良いらしい。国による部分もあるみたいではあるが。城壁に囲まれた大都市は大都市で、今度は犯罪の温床率の高さが問題になるのだと言う。そんな状態で、平和ボケ万歳日本人がどれだけ生き残れるかと言えば、高確率で鴨が葱を背負って来るどころかすでに鍋の中で良い出汁が出ていて箸をつける状態と言われても否定はしにくい……渋谷のぷち家出女子高生が笑えない確率だろう。あれは犯罪に巻き込まれるか犯罪をする側になる確率が割と高いんじゃないかと勝手に思ってる。
「いやいやいや……今、アレクなんて言った?」
「どうかしたの?」
「その前!」
「私の知っている日本人ならば」
「惜しい、わざとじゃなかったらその後!」
「ああ……それなら、この世界の召喚主でも肉体ごと召喚する事は出来ないでしょうね?」
「それ!」
びしっと俺がアレクに指をさすと、一瞬だけアレクとカールの主従コンビは視線を合わせた。
「今更ですの?」
「お気づきではありませんでしたか?」
「てか、結構重大な話じゃないの? それ!」
言い訳をさせて貰うなら、はっきり言って俺は今の姿を見ていない。
森の中で全身を写す鏡なんか存在しないし、かと言って己の手足を見てもぼんやりとした感じで違和感はあるんだけど「俺の体」と言う固定観念があってしっくりこなかった。
着慣れない、新品の。しかもアイロンまでびっしり糊付けされてる下着を穿いている感じと言えば近いだろうか? いや、そんな恐ろしい下着を身に着けた事はないけど。
ちなみに今? 下着は身に着けてるよ!
「じゃあ、今の俺って何なの?」
ちなみに、疲れたら寝るし腹も減ります。トイレも行きたくなるし風呂も入りたくなります……日本人だしね! 流石に熱い風呂はないけど、森の一角で身を清めるのに使っている少し下流の川があるのは助かった。雪とか降っている状態だったら風邪を引くのと水風呂入るのとで悩む所だった。
いや、本当に悩むんだって。
「厳密にはどう言えば良いのか製作者ではないから判らないけれど……人造人間ではないかしら? 作りたてほやほや、生まれたてのつるつるぴかぴか?」
「今ならば、柔らか頭で学習能力が高いと思われます……フラスコの中の小人としては出来立てでも、中に入っているのが人生経験を多少なりとも積んできた人材であるのならば学習能力は飛躍的に早いかと思われますね」
「人造人間……フラスコの中の小人?」
アレクの説明によると……アレクも実際に製作はしたことがないが。そんな事をしたがる輩は常に一定数存在しており、その度に神殿などの宗教と対立する人々と論争になると言うが、実際に作れば出来るのだそうだ。
まず、蒸留器に人間の体液や数種類の薬用植物とを入れてから40日密閉し腐敗させると、透明でヒトの形をした物質ではないものが形作られる。そこへ毎日人間……これは諸説あり、同じ人物であるとか似たような人物であれば数人に渡っても良いとかあるが、その辺りは実働件数が少ない為に今後の研究待ちで血液を与え、馬の胎内と同等の温度で保温し、40週間保存すると人間の子供ができる。ただし体躯は人間のそれに比するとずっと小さいという。
何故人の形をしていながら小さいかと言えば、使用するフラスコの大きさに合わせているとか使用する材料の分量が一定数に決まっているとか。後は配合率の問題ではないかと言われているらしい……その過程に置いて、血の中に含まれる遺伝子情報がある為に俺の中には複数の知識があるのではないか、と言うのだ。
また、フラスコの中には外気を取り入れたりするために小人を出すと消え失せるらしい……文字通り、溶けて消え失せるのだそうだ。
なんだか、それだけ聞くと魔法っぽくない? 科学的?
アニメとかなら普通にありそう……クローンとは違うんだろうか? 今度、帰ったら聞いてみよう。
「でも……俺、別にアレク達より特別小さいとか。フラスコの中にはいないけど大丈夫なのか?」
「恐らくは、その肉体そのものがフラスコの役割を担っているからではないかと思われます。
例え人造であろうと、体外から活動するための原料を取り入れない限り消費するのみで枯渇されますからね」
「そう言えば、世の中にはガラスの玉の中にバクテリアと植物と水を入れて永久機関を作ろうとした者もいたわね……結局、あれって光源があれば一生水を変える必要もないと言っていた気がするけれど成功したのかしら?」
カールに言わせると、どうやら俺の体を造った人……と言う言い方は何となく気持ち悪いが仕方ないとして。そいつは中々に雑な仕事をするが間違ってはいないらしい。誰のものか知らない体液で作られたって……一体、どんな部分の体液なのか想像すると怖い。そして二人とも、そんな俺のささやかな疑問に視線を逸らさないで下さい。どこの部分の体液なのか気になるじゃないか。
で、それはそれとして。
肉体そのものがフラスコである以上、ある程度の耐久度を高める為に良い食事と適度な運動、質の良い睡眠が必要だと言う事で今の生活があると……食事は判る。運動も沢山しているから夜もぐっすりだ、この世界には娯楽が少ないのか知らないのか、俺の知識には生臭い知識もあるけど夜は寝るものって言う知識もあるから本当に俺の体の素になったのはどんな人なのか半泣きになりながら問いただしたい……出来れば、襟首ひっつかんでがんがんに揺さぶって中身が出てしまう程度には。
いいよな、それくらい?
「フラスコとは言っても、別にガラスで出来ているとは限らないのよ?
ガラスの圧縮技術はこの世界には存在しないし……だから、クリスタル・ガラスもこの世界にはまだ存在しないの。魔術的見地からすると、混ぜものになってしまうから天然宝石の方が確かに需要は高い事は確かではあるのだけど……加工技術が向上すればガラスにも一定数以上の需要は見込めると思うのよね。何と言っても、素晴らしい宣伝素材があるのだから活用するには絶好の機会だもの。
でも、流石にクリスタル・ガラスを作るには材料が足りないのよね……」
ため息をつきながらミルクティーを口にする姿は、まさしく優美の一言に尽きる。
年齢等は色々な意味と理由から聞いてはいないものの、西洋系の顔立ちをしている以上は東洋の魔術的な年齢ではないだろう……童顔と言う素敵魔術はどこの世界でも通用する気がしないでもない。
「そう言うものなのか?」
憂いの美少女を邪魔するには何となく憚られて……いや、視線を向けたらカールがなんだか精神的危険人物な要素のある視線でアレクを見つめているのは気のせいだと思いたい……真面目に。
幸いにも、俺の視線に気が付いたカールは元の美形に戻ったが……戻った、んだよ。な?
「私も詳しい事は存じませんが、お嬢様のお言葉ではクリスタル・ガラスには『酸化鉛を含む、酸化鉛を主要成分として含むガラス』と『酸化鉛を含まない、酸化カリウム、酸化バリウム、酸化チタニウムなどを主要成分として含むガラス』とがあるそうです。
ですが、残念ながらお嬢様の仰る酸化鉛と言う物質は我が国の領土で取れると言う話は聞いたことがありません。一部地域では似たような物質が排出される事もあると言う話は聞き及んでおりますが、なにぶんにも他国の領土となりますとわたくし共の手が及ぶ範囲ではありませんので……」
「……なんか、大変そうだな」
見た目的には同じくらい=逆欧米人的外見年齢設定と言う事は下手をすれば俺より年下になると言うわけで。
そうなると、内心で若いのに苦労しているなあと言う気がしないでもない。世界からして違うんだから、苦労の方向性も度合も異なるのはどうしようもないけど……ついでに言えば、信用していないのではなく俺の身の安全の為に身分を明かしていないと言う善人なわけで……善人、だよな?
「酸化鉛……鉛……鉛って言えば、日本だと鉛そのものは取れなかったみたいだけど方鉛鉱なら取れたみたいだけどな?」
「方鉛鉱……ですか?」
「前に地理か何かでやった気がするんだが、日本は銀山が有名で結構取れたらしい。今……俺の居た時代だともう閉山しているけど。銀山の中には方鉛鉱が結構あったらしい」
方鉛鉱って言うのは鉛の交じった銀の事で、それを採掘した後で加工した過程で鉛病が広がったと言う話がどっかにあった様な無かった様な……これは超憶測だから言わない方がいいだろうなあ?
「姫様……」
「ええ、確かに盲点でしたわ……銀山の中に鉛が含まれている場合がある事は確かにあります」
あ、姫様とか言っちゃってるし口調も戻っちゃってるけどいいのかなあ?
だからって、正体とかは判らないけど……どっかの国のお姫さんなんだろうとは思うけど。
この世界の地理とか、全く分からないから二人がどこの国の誰だとか言われても全くわからんし。仮にえげつないくらい超大国の偉い人達だったとしても、そんな人達がこんなどことも知れない森の中で野宿よろしく生存競争に自分から乗り込んで来るって言うのもおかしいし。
おかしい、よな? それとも、この世界の偉い人ってそれが普通?
「礼を言いますわ、これでわたくし達の憂いが一つ晴れました」
「御礼を申し上げます、シオ様」
「いやいや……役に立ったなら良かったよ、俺も世話になりっぱなしより一つくらい返せるものがあって……まあ、俺の知識が本当にこの世界に役立つかどうかは判らないけどね?」
続きます。