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anacra  作者: 源 三津樹
27/27

26.立ち込める暗雲は感染性

生きてます。

いえ、ご無沙汰しています。

色々あるけど、何となく生きてます。

26



「あぁ……」


 つまり、だ。

 『人形姫』曰く、副作用的な意味があって「任意の存在を別の空間へ封印する」と言う事が出来るそうだ。

 どこぞの漫画に出て来る、ご都合主義的なアレである……が、この場合は以前の異世界人もそうだし。シオも「そう」だから可能なのだそうだ。


「どうして?」

『通常の生物をこの中に入れた場合、わずかな時間ならばともかく、数百年単位になると元の時間軸とずれが生じる。その為、本来の時間に戻ろうとする作用が起きる……実際の所を言えば、本来であれば元の時間に戻ろうとする作用など存在する筈もないが、こと生物に限っては生じる』


 しかし、そこに生もので作った品物を入れると問題なく時間経過に左右されずにいるのは理由が不明なので。生物は通常であれば入れる事はないらしい。


「シオにおススメしたのは、何か理由がありますの?」

『主は人造人間である上に精神も、この世界のモノとは異なる。何より、関わった時間がうぬらを除けば無いと言っても変わらぬ程度であれば、通常ならば受けるだろう悲壮感も必要が無いと言う事になる』

「ひそうかん……」


 そう言う意味なのだろうかと言う気がするが、同じ程度にカールから背中ををぽんぽんと叩かれるのは無性に悲しみを誘う……何故だろうか?


『主よ、その精神は元の世界でも未だ幼いままだと言う言葉が事実であれば。

 人との出会い、別離、そのものに対する認識は年老いたモノより、遥かに未知なる感情である。加えて、この世界にあり元の肉体と異なる存在となっている以上、精神的な剥離がある為に、「次にこのモノ等と会う時」がどの様なものであろうと精神にかかる負担は少ないものと思われる。それ故に、提案をした』


 聞き様によっては「お前は薄情ものだから、何があっても大丈夫!」と言われている様なものではあるのだが……誰かを揶揄うものではない『人形姫』の口調から、別に悪い意味で言われているわけではないのだろう。と判断した。

 実際の所、それはある意味で正しく。ある意味で間違っているわけだが、それはこの世界の誰一人として。本来の世界の、元のシオの姿も生活も知らない誰一人にだって、真実理解など出来るわけもなく。。


「それって、どう言う意味?」

「一朝一夕では行かない、と言う事ではないでしょうか?」

「場合によっては、隔離空間からお戻りになられたシオ様が数百年後になる……と言う、可能性もあると言う事になりますね」


 当然、その場合にはシオを知っている存在……少なくとも、目の前にある二人も。そして、戻ってくる度に何らかの失態を行い外に排出しまくっている魔術師も、この世にはいない事だろう。

 シオの中にある「知識」は、植え付けられたものだ。しかし、元の世界の時間軸に変換する事も出来る。

 元の世界に戻る為の手段……かつて、この世界に『堕ちてきた』と言われている二人の「巫女姫」とやらの、一人が残したと言われている技術。大陸全土やら、別の島々を巡らなければ稼働しない上に、実際に元の世界に戻れるのか(その際にシオの元の肉体やら精神やら時代やらと言った)問題点は吐いて捨てる程の山となっているが、それ以外に縋れる手段が存在しない以上、シオにはそれ以外に求める手段など存在しない。

 何しろ、今この瞬間にとて一刻も早く元の世界の元の時間軸に戻らなければならない「理由」が存在するのだ。

 だが、その「理由」は未だにシオを強引にでも取り戻そうとしていない……始まってしまえばどうにもならなくなる可能性っがあるが、かと言って今のところ放置されている理由が判らない。可能性としては、時間の流れが違うとか、向こうの世界からシオを察知出来ないのではないかとか、そもそも、こちらに来た時にシオの存在そのものが消されたのではないかとか、色々とある事はある。だが、それはそれでシオには納得が出来ない。

 それだけの「理由」があるのだ。


「そうしたら……」

「判りません……判らないわ、正直な話。貴方達の話は初めて耳にするものばかりで、判断材料がないもの……だから、今ここでどんな答えを口にした所で、誰よりも『私自身が信用出来ない』もの。

 そうね、ここで『貴方を信じて待ち続けるわ』と言う言葉と『じゃあ、シオとの付き合いはここまでね』と言って、シオはどちらを信用するかしら?」

「いずれにした所で、『人形姫』様のお言葉に対して私共が口に出来る事があるとすれば……シオ様を鍛え上げると言う事だけでしょうか」

「え……?」


 たらり、とシオのこめかみから汗が流れ落ちた。

 実際の所を言えば、この世界に(生まれ)落ちてきてから、元の世界の時間軸で換算(計算したのは『人形姫』だが)した所。およそ一年ほど前、この城に訪れるまでの時間で居住地と定めていた「森」では意識がなく、その意識と肉体が融合したと、使いこなせるようになるまでの間に関して、シオに記憶がない。だが、第三者目線で「監視」をしていたと言う『人形姫』の言葉を信用した場合、それはそれは「憐れまれて当然」と言う環境だったらしい。


「何言ってんのっ?」

「それ以外に、私共に出来る事は……残念ながら、今のところは……」

「カールっ?」

「仕方ないわよ、何しろ。シオがそもそも速攻で戻ってくれば問題のない話でしょう?」

「アレクまでっ?」

「ならば問うけれど……私たちに、他に今。何をどうする事が出来ると言うの?」


 それは、決して茶化している様な眼差しではなかった。

 外見的……それは、この世界に堕ちてきて姿形を変えられてしまったので、覚えていないけれど恐らく元の世界でも平均以上の成人男性程度の体躯をしているだろう事はシオにも想像がつく。着くけれど、あくまでも想像であって確実に断言できるわけではない。

 だが、それにも増して元の肉体だったとしても、それよりも内面は幼い年齢の筈だろうとシオは思っている……あくまでも、想像に過ぎないのだが。そうして、とても特殊な育ち方をアレクはしている。

 ……アレクの教育にカールが関わっている以上、心身の守護は疑問に思う必要はないだろうが。たまに天元突破するアレクの性格形成に関してカールが関わっている部分が欠片もない、などと言われたら全力で反論するかも知れないが。


「大変申し訳ございませんが……お嬢様の人格につきましては、私が出会った時にはすでに各個たるものが形成されておりました事をご報告申し上げます」

「あら、わたしの性格に何か問題でもあるのかしら?」


 人の思考を読まないで欲しいものだ……と、推定中学生程度の知識しか持っていないと判断されるシオが思った所で。それは致し方のない所ではあるだろう、何しろ……これでも傷つきやすいお年頃なのだ。一応。


「まさか! お嬢様の人格形成に問題だなどと……その様な事、あろう筈もございませんっ!」


 ここは舞台か劇場か? と言いたくなるほどのオーバーリアクションで繰り出されるカールの、いつもの「わたくしめのお嬢様!」について声高らかに叫ぶ姿と言うのは……とりあえず、舞台を見ている観客ならば頬を赤く染めて潤んだ眼差しで見つめる事もあるかも知れないが。


「……始まったね」

『始まりもうしたの……』

「言わないで」


 無駄な言動に関して言えば、以前から回数は「減っている」と言う事なので同情の余地はあると見て良いだろう……そう、減っているだけで無くなったわけではないのだが。

 アレクが、一年を経て美しさに更に磨きがかかった顔を僅かに視線を逸らして。


「いずれにしても、シオ。

 まずは、貴方が貴方自身の使える能力を理解しなければ、話は何一つ始まらないのでは無くて?」

「まあ……その通り、って気は。するんだけどね」


 実際問題、シオにはそれ以外を言葉にする事など出来なかったわけで。

 同じ程度の問題として、アレクも似たようなものであり。

 ……ちなみに、システムの一部であると自称する『人形姫』はともかく、何やら他にも色々と手段やら考察やら手札を隠し持っている様な気がするカールに関して言えば。


「たまに、物凄くカール見たいになれたら人生楽なんじゃないかなあって気がするんだよね……」

「まあ、いけませんわ! シオ、人生は諦めたらそこで終わりですが、諦めない限りは割と何となくそれなりにうっかりと、ついでに言えば思わずとか知らない間に何とかなったりならなかったりするのが世の中と言うものですわ!」

『その方、あからさまに動揺するにも程があるぞ』

「いやまあ、動揺する気も判らなくはないけど……」


 じとっとした目で、思わずカールを見つめる三対の眼差し……だが。

 その先には、周囲の目など何一つ気にする事なく「我が永遠にして美の誉れ高き(中略)お嬢様」を称える言葉を延々と続けている姿がある……流石に、初めて見た際に『人形姫』ですら扱いに迷ってスルーしたのは遠い昔の話で無くても良いだろう。

 これが複数回……しかも、一日に……。

 黒歴史も良い所だと、シオは内心で思っている現在進行形である。


「本当なら、カールこそ入れてみたい所ですわね……」


 動揺が激しくなると、今もって元の言葉遣いが出てしまうらしいアレクの言葉は……重い。


「でも、確か……」


 思わず、延々と「我が(中略)お嬢様(略)」と称えまくっている一糸乱れぬカールを指さしてしまうシオではあるが……果たして、その指は震えていないだろうか?


「ええ、そう……様々な能力の異常なまでの高さを引き換えにしても、ある意味で最もマシな部類なのよね……」


 思い切り遠い目をしながら語るアレクは、どこか……疲れ切っていた。

 そうして、どこかを。何かを諦めている様だ……どこの何とは言えぬが。


「言っても良いのよ、シオ?

 『アレ』で最もマシって、一体全体我が国はどうなっているのかとか、もっとマシなのが存在しないなどおかしいとか……そうよね、そう思うわよね? その筆頭が血縁者で、我が父で、政敵で、それでいて……」

「アレクアレク、ストップ! マテ! それ以上は危険、かなり危険だからっ!」


 どよんと歪んだ瞳をこちらに向けているが、決してシオや『人形姫』を見ているわけではない瞳だ。視線は、どこか透過した虚ろの先を見ているに違いない……様な気がする。


『以前にも増して、精神が病んでいないか?』

「ふふ……ふ、ふ……ふふふ……」


 確かに、アレクは最後にシオが分かれた一年前より身長が伸びて、手足も伸びて、美しさは増していた。

 それこそ、十代の女の子と言うくくりからすれば世の男共は高根の花と妄そ……否、想像すら不可能なほどの完璧さにひれ伏してしまう事だろう。

 だが、同じ程度に儚げさも増していた……白い肌も青白い肌となり、貴重な化粧品等の薬品のおかげで、一見すると「どこのお姫様」かと問いかけてしまいたくなるほどの美しさだ。と同時に、何やら疲れ切っている様子が見受けられる……本人は口を割ろうとはしなかったが、こっそりとシオは『人形姫』からアレクは物理的にも精神的にも上限を超えた無理をしているので、数時間もしないで倒れてしまう可能性が非常に高いと言われていたのである。流石に、こんな所で床に倒れられたりする可能性は(カールが控えているので、そう言う意味でも優秀すぎて涙が出そうになるが)無いとしても、やはり目が覚めた時に倒れていましたとか言われても目覚めが悪いので、シオは「アレクが不調だと目に見えてわかった時には自分と同じ様に寝具で眠らせて欲しい」と注文していたりした。


「あ、アレク……さん?」

「ええ……いいのよ、シオは良い子ね?

 あれ程に素晴らしい寝具で休ませて貰ったのは、初めてだわ……心の底から、何よりも『安全』に休むことが出来る事など、いつぐらいぶりかしら……?」

「アレク、アレクさん? ちょっとしっかりしてくれないっ?

 てか、そもそも『安全』って何? そんなに危険地域でアレク生きてるの? まさかの紛争地帯とか? 戦争中?」

「いいえ、お嬢様はご自宅の寝室でお休みになられておいでですが」

「うわぁっ!」

どうしてこいつら、いつまでたっても話が続かないのでしょうか……。

作者としては、とっとと次へ進んで欲しいのですが……。

正直、この話が終わらないとこの後に続く2作品が書けないんですよね。

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