24.物理と言う壁と幼い少女の幸福
全く持って進んでいない話にイライラしていらっしゃる皆様、お待たせ致しました。
地味に続いている話ですが、ご覧になってる方はどれだけいる事やら……。
とりあえず、シオを含めて大多数の人々が持っているだろう「魔法による結界術」に対して思いもよらぬ「物理の壁が立ち塞がるとは意外にも意外過ぎて脳みそが思考を止めた。
シオ……と言うより、今のシオの肉体に入る前の「彼」と言うのは単なる学生だ。
しかも、どちらかと言えば名門校でトップを走るとか言う性能の良い頭ではなくて一部授業には「諸々の関係」で合法的にサボりがちだった為に成績は落第しない程度の脳みそしかない。
「と言うより、物理とかまだ習ってないしっ!」
ぐるぐる考えてしまった所、考えすぎて爆発してしまった様である。
「シオ?」
「シオ様、お加減でも悪くなりましたか?」
『考えすぎは体によくないぞ、主』
三者三様であるが、とりあえず心配していない事もないと言う事らしい……。
それにしても、テーブルの上にはいつの間にかウェハースの添えられたバニラアイス等が出ているあたりタイミングをよく読んでいるものである……これを生物学的に肉体を持っている二人のうちどちらかが出したと言われたら、その方が驚くだろう。
『主、少しは落ち着かれたら良かろう』
「ああ……うん、まあ……」
「シオは悩みすぎてしまったのね……割合なんて数字でしかないのだから、そこまで気負う必要があるとは思えないけれど……」
「お嬢様、シオ様をお嬢様とご一緒にされるのは哀れかと……」
「お前ら人の事を馬鹿にしてないっ?」
二人はそれぞれ「えー?」と言う感じに見えなくもないが、割合とか言われてもシオの脳みそのどこを探しても難しい事には変わりはない……。
どうやら、この体の中には各種様々な能力が頭脳に至るまで色々と詰め込まれている様ではあるが。
幸か不幸か、現在進行形で元のシオが理解出来る範囲でしか今のシオでも理解する事は出来ない様だが……まあ、それは当然だろう。現在のシオの知識で理解出来ない固有名詞等はともかくとして、物理だの化学式だの「これって魔術なんだよねえ?」と言いたくなる元の世界で言う所の物理とか科学とか化学とかに当てはまる分野についての知識がないので理解など欠片も出来ないのだ。当然と言えば当然かも知れないが、アニメや漫画、ライトノベルとは異なるものである。
「魔術の勉強は一日では困難でございますよ、シオ様」
「うう……何だって違う世界にまで来て勉強しないといけないんだ……」
「人生は死ぬまで勉強と言うもの、仕方ないのではないかしら……?
私なんて、ねえ……?」
「遠い目と言うか、死んだ魚の目になってどうしたのさアレク?」
「ふふ……人生が勉強、死ぬまで勉強……」
「アレクっ?」
遠い目と言うか、死んだ魚の目をしながら虚空を見つめる美少女……。
それだけだと、何となくホラーである。気がする。
「お嬢様は物心ついてから、お父君の手伝いをされておりますので」
「手伝い……アレが、手伝い……」
「ちょ、アレクさん? しっかり!」
『これは……人が言う所の「壊れた」と言う状態ではないかと判断する、主』
「カール!」
「お嬢様……これほどシオ様に心を許しておいでになられるとは……宜しゅうございました……」
「感動しなくて良いから! てか、判ってやってるだろう!」
「おや、お判りですか?」
とは言うが、カールに言わせると実際問題として「感情を素直に表す」と言うのは難しい環境なのだと言う。
要するに……シオの脳みそで理解出来る範疇と言うわけではないと言う事になる。今のシオの脳みそにはそれに対する情報や対応策はあるが、元々のシオの脳みそはその辺りに特化しているわけではないのだからどうしようもない。
世の中とは、本当に上手く行かないものである……。
「三日に一度は逃亡する父親に全仕事を押し付けられると言う事が、どう言う事か理解出来ましてっ?」
「ごめん、わからん!」
「……そうですよね、ごめんなさい」
反射的に答えてしまったとは言え、まあ普通と言えば普通の回答にアレクは勝機を取り戻したようである……シオとしても、このまま話が進まないのは大変困るので良かったと安堵する。
「いや……気にしてないから……」
「と言うより、本来の話から脱線しているわね……本当にごめんなさい」
「ああ、うん……」
ほとんどトラウマ化していると思われる程の状況になっているあたり、アレクの父親と言うのは一体全体どう言う人物だと言うのだろうか……正直、好奇心に駆られるような知りたくない様な気がする。
「お父さ……父さんは、ちょっと困った所があって。
いえ、別に普通なら悪い事ではないのではないかと言う気もしないでもないのよ? 多分?」
若干言葉が乱れる程度に入ってしまったのだろうトラウマスイッチだが、復活も早いのが助けと言えば助けだ。
「私が物心ついて仕事が出来る様になると……正直に言うわ、私がある程度の事が出来ると判断したら速攻で仕事を仕込んで。私が代わりになれると判断したら三日に一度は姿を晦ませる様になったの」
どんな駄目親父だ、それは……。
シオがそう思ったのは仕方ないと言うか、当然と言う所ではあるのだが。
駄菓子菓子、仮にもアレクは命の恩人らしい。覚えていないのでその辺りはさて置くが、森の中での生活ではアレクにもカールにも世話になった覚えている部分はある。その点だけでも、恐らくは間違いではないだろう……記憶が書き換えられたりしていなければ。
「行方は判っているのだもの」
「どこに行ってるわけ?」
「お母さ……お母さんの所よ」
「お母さん?」
夫婦仲が良いのかな、とシオは思った。
それにしても、だからと言って子供に色々押し付けて良い事にはならないと思うのだが……。
「事情があるんだけどね……お父さんとお母さんの住んでいる所は少し離れてるのよ。大体……一日半くらいかかるかしら? だから、お父さんがいなくなると即座にお母さんの所へ連絡を入れるんだけど。
一応、お母さんの所に連絡を入れると同時にお父さんの迎えを入れるから。文句は言われるけど顔を会わせる程度の時間しか上げられないんだけどね……」
「ほとんどとんぼ返りか……抜け出す程の意味ってあるの?」
と言うより、今こうしてこの場にアレクがいるのは大丈夫なのだろうか?
「お父さんったら最近までお母さんに私が仕事している事は内緒にしていたものだから、あわや離婚の危機にまでなったらしくて。私にも特定の休みを与える様にってなったのよ、勿論国せ……外せない仕事の時には私だって優先するけど」
「そうしたら、お父さん暴走しない?」
「お母さんも同じ事を思ったらしくて、元々はお母さんもしょっちゅう現れるお父さんをうざ……うっと……不審に思っていたみたいで。私へのフォローの一つもしないお父さんなんて会いたくないって閉じ籠ったそうなのよ、流石にお母さんが別れるとか家出するとかだったらお父さんも怒ったかもだけど、お父さんが仕事しないなら自分が仕事するって言いだしたら慌てて戻って来たわ」
「……お母さん、調子悪いの?」
「三人目の弟を産んだら、流石にね……夫婦にも色々ある、と言う事みたいよ?
私は……お母さん達には年に一度会えれば良い方だけど」
「……じゃあ、こっちに来るよりお母さんに会いに行った方が良くない?」
言うと、アレクは寂しそうに笑みを浮かべる。
聞いたらよくない事だろうかと、言ってから思い至ってしまったのは自分でも判る程度に悪かったとは思うが。かと言って、この状況から理解しろと言うのも情報が全くないのだから無理と言えるだろう。何しろ、アレクもカールも言葉の端々で「恐らく貴族かそれ以上の立場の存在で腕っぷしが強い」と言う程度の事しか知らないしシオも聞こうとしないのだから当然だ。
「お母さんに会いに行くとね……」
「うん?」
「何が起きると思う?」
はて、とシオは思う。
一体何が起きると言うのだろうか?
「降参、わからん」
「少しは考えなさいよ……それはね」
先程の寂しそうな笑みに比べればマシだが、今度は苦笑している。
肩をすくめて笑うあたり、やはり外見年齢と実年齢は合わないのだろう。
アンバランスな美しさ……それを今の外見で持っているあたり末恐ろしい。
「お父さんにバレるのよ」
しかし、シオは「綺麗」と言う事は理解しても「恐ろしさ」にまで思考は至らなかった。
ただ、それが理解出来なかったからこそシオは「見逃されている」と言う可能性もあるのだが。
当然の事ながら、それさえも気が付かないのがシオだったが。
「は?」
「そうしたら、今度は私にずるいって言って私の休暇はご破算。こうしてシオや『人形姫』達と一緒にお茶の一杯も飲む事は出来なかったでしょうね」
そうなると、やはり母親や。いると言う弟とも会えない事に変わりはないのではないだろうか……?
「シオ、そんな顔をしないで?
私、こうして自由時間を持てているだけで幸せよ? お父さんの代わりに机にかじりついて、寝る間も惜しんで頭をひねって、腹の中が腐った大人の相手をしない時間が持てるのよ? これほど幸せだと感じたのはここ数年であり得ないわ!」
「……そう」
うまく、笑えている自信がシオには無かった。
すんまっせんっしたー!
どうして進まない、何故進まない!
とりあえず来週以降、また地味に進めたく存じます。
あ、でも多分次は別の話になると思います。




