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anacra  作者: 源 三津樹
20/27

19.ある一人の人物の話(二人いるけど)

もしも、それが一度だけ起きたのならば「奇跡」と呼ぶだろう。

けれど、それに二度目があったのならば? 三度めが起きたとしたら?

それは、果たして「奇跡」と呼ぶに相応しいのだろうか?

19



 さて、スケスケの若い娘さんと言って喜ぶ人ってどれだけいるんだろうか?

 なんて下らない事を考えてしまったのは、別に大した問題でもなければ大した理由があるわけではない。

 目の前にいるって言うだけの話だ。

 とは言っても、別に色っぽかったりお子様禁止な話ってわけではない……相手、一応は服着てるし。

 ん? 服、なのか?


「期限までに間に合って良かったわ、遅れたらどうしようかと思ってたのよ。

 正直、迎えに行った方が良いかしらって思ってたくらいよ?

 でもね、カールったら酷いのよ? 私が迎えに行こうって提案すると『甘やかすのはよくありません』とか言うのよ。

 人の事をなんだと思っているのかしら? 誰のおかげで、こんな素敵な所を使わせて貰っていると思っているのかと何度も言ったのよ」

「お嬢様、それは心外でございます。

 私は単にお嬢様以外のあらゆる存在へ頓着する予定は生涯これまでもございませんでした、そして。未来永劫、その予定がないと言うだけの話でございます。

 これまでもこれからも、何一つ変わる事のない安定を提供はいたしますが私の生涯で他に何が必要だと仰られるのでしょう?

 ねえ、シオ様?」


 この部屋、と言うより小さな外見的城……まさしく城は、近隣の歴史は古く「人形姫の城」と呼ばれている。

 どれくらいの歴史かと言えば、少なくともシオがこれまで出会った人々の中で人形と呼ばれている存在と会った事はないと言われる程度だ。一部は人でないのもいたが、その当たりは話が長くなる。


「相変わらずだな、二人とも……」


 城は、外見的にはさほど大きくはない。城と言うよりも、ちょっと大きめのお屋敷程度の大きさだと言うと想像が付くだろうか?

 土地の広さは、とりあえず近くに家らしい家がない点から見ても「見渡す限りのちょっと先」あたりで良いと思われる……片道三日もかかる敷地ってどうなんだろうかと言う気がしないでもないが、その辺りの管理とか利権関係は本当に5年10年のレベルではないので勘弁して貰いたい。

 しかし、この城は「曰く付き」物件だ。物件と言ってよいのか判らないけど。

 ついでに言うと、この「曰く」もどう言ったらよいのか……。


「とっとと帰ってきやがってご苦労」

「それ何語?」

「生活をする上でお前がいた方が人形姫様にお会い出来るが、お前が居なければ人形姫様と二人だけの時間を過ごせるのにと言うジレンマだ!」

「二人きりとは言っても、姿も見せてくれないのに……」

「アレを二人きりと言うのは、医者でも治せないと言う事ですよ」

「まあ、難しい問題なのね!」

「人の心の内とは、とかく難しいものなのです」


 最初の話に戻ろう。

 全身がすっけすけ(服は着ている)若い娘さんがそばに居たら、果たして嬉しいと思えるだろうか?


「ただいま、人形姫」

『うむ、ご苦労だった』

「アレクやルークの宿題が面倒だった……今すぐ寝たい……」

『ならぬ、まずは旅の汚れを落とす事だ』


 ぱちんと半透明な娘さん……彼女は人形姫だ。彼女が指を鳴らすと、それまで何もなかった壁に突如として穴が出現する。今の所は疲れとかもあるのか大して感じないが、最初は流石にビビった……自動ドアだと思えば良いわけで。


「ありがとう、人形姫」

『気にするでない、これが妾の役割である』

「人形姫様! 今のは……」


 ふらりと体を向けると、意識と体の動きに若干の誤差を感じた。

 一般的には、極度の疲労感と言う奴に相当するのだろうと言う気がする。頭のどこか向こう側では魔術師の弟子だった男が半透明な若いドレス姿の娘(半透明)に言い寄っている様にしか見えない姿が展開されているのだろう……なかなかに一般向けしないだろうなあと言う気はする。


「シオ様」

「……何、カール?」

「お疲れ様でございました、シオ様のご活躍は人形姫様から伺っております」

「……へえ?」

「お疑いでいらっしゃいますか?」

「うんにゃ、単に疲れてるだけ」


 穴の向こう側に足を踏み出すと、続くのは廊下だ。望めば立っただけで勝手に進む自動廊下になるんだけれど、今それをやられると確実に倒れる気がしてならないから人形姫の気遣いなんだろう。

 人形姫は、姫と名がついているけれど城の管理人の様な存在なのだ。


「アレクは良いの?」

「魔術師殿は、お嬢様へ不埒な真似をなさる肩ではございませんので」

「随分と信用してるんだね?」

「実際にお会いした時間は、シオ様とさほど変わりありませんが……何より、あの女神もお美しさに嫉妬し、創造神も頭を下げ、近隣の諸侯は一目見る為だけに私財の半分を投げうって順番待ちをなさるお嬢様を前にしても、欠片も気になさらない方でございますから……余程、人形姫様への恋慕が強いとお見受けします」

「……色々言いたい事があるけど、アレクが自爆するから今のセリフはお口チャックの方向性にした方が良いと思う」

「なるほど、お嬢様を確実に仕留めるおつもりである……と?」

「どうしてそうなる……」


 アレク、この顔ぶれの中ではすっとぼけた金持ちの道楽だけれど割と庶民生活を満喫している様に見える恐らくどっかの国の現役お姫様なんだろうと思われる……聞いてないから知らない。調べてないから判らない。

 確かに将来が楽しみな美形顔ではあるけど、確か貴族は顔を綺麗にさせる様に配合実験したとかしないとか。元の世界で誰かがそんな事を言っていた気がするけど、その手の事はたぶん基準が違うだけでどんな世界でもやってる事なんだろうなあと思う。

 でも、まだ10代前半じゃないかと思うんだけど。いいけど別に、幼児愛好家じゃないし。


「顔の綺麗さで言えば、アレクもだけどカールも相当だとおもうけど?」

「まさか、私の様な者はよくある顔です」


 嘘つけと言いたい所だけど、これには理由がある。

 俺は最初から今のままだった気がするから知らなかったんだけど、カールは顔を。アレクは存在そのものを「気が抜いたら忘れられる」と言う魔術をかけているらしく、二人と町中に初めて出た時には一人旅だと思われた事が何度もあった。驚いた。

 身を守る為には必要なんだろうけど、カールは「すごく綺麗な顔」と評したらほとんどの人はうなずきそうな気がする。アレクはまだ年齢が若干低いから今のうちだけの愛らしさはあると思うけど、だからと言って美人かと言えば感じる人によりけりだと思う。

 二人の場合は実力でやりそうな気もするけど、恐らく存在を薄くさせるとか。気配を薄くする魔力の籠った道具とかを持っているのか、それとも空の魔石でも持っているのか、もしくは普通の石を魔石にする為に膨大な魔力を常に注ぐために持ち歩いているかの3パターンだと思う。


「いっそ女装でもしたら似合う……かどうかは、ちょっと意見が分かれるかも……」

「長身の女性もいるとは思いますけれどね」


 ちなみにカール、現在は170を超えているとおもうけれど成長期真っ只中だから最終的に2メートル超えたらバスケかバレーの選手になりそうな気がする。

 この世界、流石に娯楽は少ないけれどバスケっぽいものやバレーっぽいものと言うか。混ぜた様なスポーツがないわけではない。ただし、獲物を使ったりするからラクロスとかホッケーの方が近いんじゃないだろうか?


「ところで、例のモノはいかがでしたでしょうか?」

「やっぱり……あんたがアレクを置いてこっちに来るから、そんな所じゃないかと思ってた。

 一休みしてからも良いか?」

「あまり信用度は高くないんですけどねえ……何しろ、ここは人形姫様のおわす城です。

 『魂が異世界の存在』であるシオ様の為でしたら、万全のサポートをお約束された方でございますからね……同じ、主を持つ者としては負けるつもりはございません」

「言っておくけど、別に人形姫は『俺』だから手を貸してるんじゃなくて、あくまでも『この世界の者ではない魂』に対して力を貸してるだけだぞ? その基準だって、自意識が『こっちの世界』基準になっているか『別の世界基準』になっているかのどっちかだから、俺みたいに入れ物だけこっち産で、中身が向こう産だったら入れ物も中身も向こう産の意見を重要視すると思うぞ?」


 もっとも、いかにこの世界に異世界の記録があったとしても。別に異世界と交流しているわけでもないし、魔法でもともと丈夫ではない世界間の壁を肉体ごと通り抜けられたとしても、生物として生き残れるかと言えば……ちょっとどころではない程度に無理らしい。

 生身で宇宙に放り出されるより、ちょっと酷い状態になるとか人形姫は言っていた。

 ……どんなだろう?


「それは……」

「じゃあ、おやすみ」


ーーーーーーーーーー


 さて、簡潔に一人の人物の話をしよう。


 その人物は、二人いた。

 二人なのか一人なのか、どっちかにしろと言われそうだが大丈夫。

 主人公は一人だ。

 現代の女子高生A(仮名)とB(仮名)とでも言っておこう、あまり彼女達の本名は関係がないから問題はない。

 かつて、この世界では割と頻繁に「召喚術」が流行った事がある……初期の召喚とは……とりあえず、難しい事を省くと一冊の本の別のページに存在するキャラクターを呼び出す手段、と思ってくれると判りやすいかも知れない。

 本来は、そういうものだった。しかも、最初は相手の意思を尊重してお互いの意思確認をした上で「来てもらう」と言うのが当然だった。

 しかし、劇的に変化する事が起きた。

 まず、一人の突然変異が生まれた。当時は色々な意味で不明だったが、今時ならば「過去持ち」「記憶もち」「前世あり」とか言う言葉が当てはまるか、もしくは本当に突然変質してしまったのか。何か「この世生らざる何か」に憑りつかれてしまったのか、人ではない存在と入れ替わってしまったとみるべきだろう。

 その人物は、最初に「召喚術」を生み出した人物の素体を紐解き理解し、自分に都合よく改造した。

 つまり、術者の求める「相手」を探す範囲を術者の魔力が届く範囲であったものを世界に広がる魔力の流れにつながる事で極端に捜索範囲を広げ、しかも召喚される存在を「無理やり呼び寄せる」と言うものにしたのだ。

 ただし、呼び出しただけで相手を支配下に置ける様にする事は流石に出来なかったらしく「名前」を名乗らせる事で相手の「魂」を縛り付けると言うものにしたのである。ただし、呼び出した途端に相手が死んだりされても困るので名前で縛り付けたら相手の思考回路を「ある程度」は支配出来ると言う風に書き換えた。

 あまりにも拘束を縛り上げると、今度は手を上げるだの足で歩くだのいった事まですべて命令しなければならないのだ。その為に、色々と失敗したと言う記録があった。

 そう、「あった」のだ。

 今、その記録は何の役にも立たない。


 ある時代、あちこちで召喚術は行われた。

 最早、流行と言っても良いだろう。ただし、別に人類共通の敵とか魔王とか子供の寝物語に出てくる様なものが出て来た未曽有の危機と言うわけではなく。

 単なる戦争が理由だ。

 それぞれの国が、お互いにとって敵だった。

 それぞれの王が、お互いにとって魔王だった。

 それぞれの敵が、お互いにとって滅ぼすべきものだった。

 誰もが誰もを疑い、戦火は起こり、人々は生まれては消えて行った。

 昨日笑っていた友が、明日には強敵となった。今日を過ごし行く為には、代わりに差し出される生命を必要とした。

 何故、こうなったのかと嘆くものがあれば。

 生まれる前からこうだったと、応える声があった。

 生きる事が怖いと恐れる声が上がれば。

 ならば希うものを与えようと振り下ろされる、力の塊があった。


 故に、人々は願ったのだ。

 都合の良いお人形と言う名前の、人々の安寧を全て受け入れる為の物体を。

 人と似た様な姿で、人とは全く異なる存在を。

 ソレはこの世界の壊れて砕けた本能で生きる人々の為に呼び出され、そして最後は全てを受け入れて消え去る事を望まれた。


 その名を、聖女と呼ばれた。


 最初、戦う為に呼ばれたのは巨大な姿をした威風堂々とした獣の姿をしたものが多かった。

 ただし、それらは存在感の大きさの為に即座に戦争に入る事となり被害が拡大して行くのを逆に止められなくなった。

 巨大で畏怖の見た事も聞いた事もない生き物を、自分達と同じ存在が自在に操る……それは、救いであると同時に恐怖である事を人々が理解する事は決して長くはなかった。

 幾つもの国々が簡単に生まれては速攻で消え去り、最後に呼び出された「聖女」と呼ばれる存在。

 その姿は自分達と全く変わる事のない存在でありながら、この世界とは無縁の場所で生まれた「化け物」でしかない。

 「終焉の目覚め」とも呼ばれる聖女、彼女は「色々」とあってこの世界に呼び出された存在であるにも関わらず召喚主の奴隷の様に使われる事もなく。呼び出されてしばらくの後に出奔したとも廃棄されたのではないかと言われていたりもするが、その当たりについては記録が残っていないので判明しない。

 最初に聖女を持て囃された存在は、戦争のどさくさで命を落としたのだと言われている

 所説あるが、より大きな戦争を齎した存在は自らを「人形姫」と名乗り大陸中の国々を巻き込んで戦争を終結させたと言われている。

 後の歴史に人形姫が国を興したり王となった話がないのは、人形姫がその時に宣言した様に自ら作り上げたと言う城を残して姿を消したからだと言われている。

どんなに走っても、どんなに手を伸ばしても。

果て無き向こう側に届く事はないのだろうか?

天いっぱいに広がる空に、伸ばした手は。


でも、そこへ行く事は多分出来るよね?

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