18.一年ぶりの環境説明
やっと帰って来たよ、おっかさん!(誰が?)
彼にもリアルで旅に出て貰っていました…嘘です。
18
物語と言うものは、常に日常から非日常を連れてくるものだ。
と、どっかの誰かは言ったかも知れないけど聞いた事はない。
少なくとも、どっかの小説とか童話とかドラマとかアニメとか漫画とか映画とか、その他の世界の話でも無ければ滅多にない。事もない。
「たっだいまぁぁぁぁぁぁっ!」
『おお、帰ったか』
「……ちっ」
「御機嫌よう、シオ」
「お帰りなさいませ、シオ様」
「ただいま、へっぽこ魔術師。
来てたんだな、アレクにカール。
今日も元気に透けてるな、人形姫」
とりあえず、今の置かれた状況に比べれば。人生の大体は何とか乗り越えられると思うんだ……うん。
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さて、いきなりだが俺こと『田川汐』。この『世界』に置ける『シオ』は何となくだけど一年ぶりにこの「人形姫の城」に帰って来た。
話が唐突すぎるのは仕方ない……こっちだって、本当にいきなり唐突だった。
生まれも育ちも別世界の住人である所の男子高校生な俺は、ある日突然拉致られた。
異世界召喚、それを憧れる人は悪い事を言わないから物理的文明社会万歳と三回唱えてからお風呂に入って眠る事をオススメする。
この一年、拠点としている「人形姫の城」を出発してから色々あった……本当に、真面目に色々。
まず、この城を拠点とするためには城を目指して。その間にアレクとカールの力を借りて近くの町でお別れをした。寂しくて泣くかと思ったのは……まあ、別にいいだろう。
最初、俺をこの世界に召喚した奴が「人形姫の城」にいるんじゃないかと思っていたんだ。で、その下準備の為に訪れたのが最接近町。「森と人形姫の城の境界線」と言うのが町名で、長いなあと思ったのは良い思い出だ。
所が、最接近とは言っても「人形姫の城」まで片道三昼三夜……つまり四日目にならないと着かない距離だし、更に俺が「この世界で最初に意識を取り戻した」と言う意味での森なら入口に至るまで普通の人なら追加一か月くらいかかる位置にあるらしい。正確な位置な場所まで辿り着くなら追加半年くらい必要らしいけど……まあ、それはともかく。
簡単に言えば、俺を召喚した奴は俺の魂を人造人間と言う器に入れて簡単な命令を少しひねった細かい指示も聞く人造奴隷を作るつもりだったらしい。
ここで「だった」と過去形なのは、すでに俺を召喚したとか言う奴を踏んじばって引き渡したから。攻撃力と言う意味で言えば敵にもならなかったが、そいつは元々は確かに儀式を「人形姫の城」で行ったがちょっと小技が使える程度の魔術師なんですと……魔術ですってよ、奥さん! と言いたくなったのは同類だ。
そいつに言わせると単なる偶然で俺は召喚された事になる……しかも、そいつ曰く「異世界から魂を召喚するなど、やはり私は天才だ! あいつらに復讐してやるんだ!」とか言い出したので思わずアレクと二人で手を足が出て、うっかり意識を飛ばさせたのは俺たちのせいじゃないと思う。
確かに、通常ならばそこいらに存在するとか言う雑多な……霊? 意識? 存在? 固定されていない「何か」であって具体的に説明をされても理解できなかった。最終的に「塵芥の様なものですよ」と言うカールの言葉に若干アレクが冷や汗流して引いてた気がするけど……。
どっかの学会に牢破りして現れたりとかして、何とかは爆発だとか言い出さない事を祈っていたら不審がられた。何でだ? 様式美だと言ったら追及されなかったけど。
最初は、この町で装備を整えてから。いざ出陣! と気負っていた所、手持ちの金も少ないのと経験値稼ぎに少し準備運動を兼ねて小さな依頼でも受けるかと言う話になってから「怪しい事をしてる奴がアクショに居て近隣の住民が怖がっている」と言う依頼があった。
アクショっていうのは悪所みたいな漢字が当てはまって笑った……感じの判らない奴らには意味が判らないらしくて孤独を感じたけど。現代日本の知識だとスラムとかの方が馴染みはあるかも知れない? つまり低所得者階層町って言えば判りやすい? 犯罪の温床の部分もあるから、金がないわけじゃないらしいけど。
この世界にも傭兵互助会みたいなものはあって、その国ごとに色々と分類があるらしいけど。手間はかかるけど必ず登録した方が良いと言われたとかあって。報酬もそれほど高くないらしいが、まあ対人戦の練習にはなると言う事から乗り込んだら。どうにも胡散臭いので問い詰めたら魔術師に雇われているとか、まあ色々あった。
途中で、どっかのマフィアとかそんな感じの奴らが幾つか出張って来たけど嬉々として蹴り上げるクレアのすらりとした足を見た奴が軒並み不幸になったのは俺のせいじゃない……俺にカールを止めろとか、そんなのは無茶とか無謀であって勇気じゃないと思うんだ!
とまあ、そんな感じで連鎖反応的に色々と乗り込んだ先の一つに居たのが魔術師だったわけだ。
そいつは、手持ちの金が無くなった事もあって付近の金持ちに「手間暇がかからない違法じゃない手駒」として人造人間を売り込んだんだと……「研究素材」を始末するって言うのもセットで割引価格として提示したから悪名高い奴らの下っ端くらいの奴らに名を売り込んだらしい。
と言うのも、蓋を開ければソイツは独善的で居丈高の割に人と関わる事を大変苦手としているとかで、コミュニケーション恐怖症と言うか症候群とか、そんな感じだから周りから見ると単なる暴君に見えるらしい。ただし、その技術は小手先の知識しか持たない割に弟子を取る程度には器用にやっちゃったと言う感じで、弟子とかを含めて人が見ていれば無口な冷静沈着に見えるのに。人の目がないと思い込むと金持ちの坊主みたいに癇癪玉がはじけるかの様な怒り方をするんだと……面倒くさい人だよな。
人造人間を作る事は、決して違法ではない。
一時期、それを作って軍隊を作ろうとか言うはた迷惑な事を考えた奴もいたらしいが……人造人間には「決定的な弱点」がある。
それは、作り上げるのに馴染ませる事も含めて二か月くらいかかるんだが。実際に稼働出来るのはせいぜい一週間から十日前後。しかも、基礎知識を勉強させるのに五日ほどかかるんだから、効率が悪い事この上ないと言うありさま。しかも、普通なら単純な命令しか聞かないし生命体である事は変わらないから飲み食いも睡眠も排出も必要とする……人形の方が楽じゃね? とか言わない。思ってても言わない。目が言ってるとかアレクとカールに言われたけど、口にしていなければセーフ。セーフ! の、筈。
ここで、さっきまでの事を思い返して欲しい。
俺の「この世界」での構成は「肉体=人造人間」だ。異世界の住人である俺から魂をひょこっと引き抜いて勝手に詰め込んだのが、例の魔術師だ。
でも、俺はこの一年を過ごしてきた……森での生活については、ほとんどが意識は朦朧としていた関係で覚えていないと言った方が近いと思う。
推定どこぞの姫と思われる美少女アレクと、自称姫君の家臣カールが、森で意識を取り戻したと言うか作り上げたと言うか、その時にはすでに二人が生活の拠点を作っていたからなあ……一体、どこから二人がどんな風にやってきて過ごしていたのか今もってわからん。
カールに言わせると「姫様のお傍に仕えるには、この程度……造作もありません」などと無駄な美貌を光らせたりして言うんだが……俺一人しか見ている者がいない時は必要なくね?
俺が生き残った理由は、幾つかある。
まず、俺の魂がこの世界ではなく別世界の愛し子の彼氏である事……彼女持ちですが何か?
肉体を作った魔術師は、特化型で人造人間作りに関しては確かに通常以上の出来だったらしい。そんな器に俺の魂をねじ込んだから、すぐに体と魂が馴染まずに森へ捨てられたんだが。
俺の魂は異世界産であると同時に、異世界でも特殊な条件。見鬼の才を持っていた事。ついでに言えば、遥か古来よりうちの本家はその手の事について生業をしていたりするって事……見えるだけで映画みたいな技は出来ません。物理攻撃一択なのは体質のせいだよ……泣かねえよっ!
判っているのは、とりあえずここまで。
俺を召喚した魔術師を踏んじばったのは良いけど、例に漏れずソイツは色々と喚いていた上に人の話を聞かない。ついでに、召喚は普通にやるけど償還が出来ないとかでアレクとカールに冷たい目で見つめられていた……通常、呼んだら返せて「当たり前」らしいのに、そいつをしない呼ぶ専門だと不具合が起きた時に対処が出来ないんだと……現在進行形で。
ただ、あっさり捕まったのは弟子に裏切られて裸同然で追い出されて装備不足だったからだとか言うのもあったけど。判っているのは、そいつには俺を元の世界には返せないと言う事だけだった。
期待はしていなかったけどな!
……泣いてない。
いきなり行き先を失ったので、仕方がないから裏切った弟子とやらが占拠したとか言う「人形姫の城」に向かった。最初から、そこを目指していたからだと言うのもある。
そこで出会ったのは、一人の全身長衣だった
いきなり飛び蹴りをかましたのは悪くない……胡散臭い恰好をしている方が悪い。
流石に、いきなり飛び蹴りをかましたから一気に敵認定をされた……今でもネチネチ言い続けてくるあたりは様式美的なお約束にしたいって事なんだろうが。そんなツンデレ気質は「間に合ってます!」と言いたい、ぜひ。
大体、別に「人形姫の城」って言うのは焼け付く砂漠のど真ん中とか。凍える氷原の真っ只中とか。四方八方を敵に囲まれた中心で今にも死にそうってわけでもないのに、どう見ても布地の塊が突っ立っているって言うかずるずる布を引きずって室内を徘徊していたら俺じゃなくたって飛び蹴りの一つもかますと思う。
魔術師の戦闘形式としては一般的なものだが、何しろアノ師匠に追従していた弟子だったんだから操作系が得意のもそうなんだが。嫌らしい事に、操作付与系……つまり、自分で作り出した子供である人形っぽいものに炎や氷と言った特殊効果を追加させる事が出来ると言う。
ある意味で尊敬するのは、人の形を模した人形だけじゃなくて手元にある物体ならばなんでも操作対象にする事が出来るんだそうな。もっとも、対象物によっては使用する魔力量だけでも跳ね上がるらしくて基本的に自分が一から作った物体の方が楽に使えるんだそうな……誰かが手を加えたり、自然のままの物体をそのまま使用しようとすると「抵抗力」を感じるんだと。
間違ってないんだろうとは思うが……微妙によく判らない。
感覚的なものだから、操作系魔術師でも無ければ判らなくても不思議はないらしい。
魔術師に言わせると一時休戦、俺にしてみりゃ歩み寄り? を始めたのは、魔術師の目的が問題だった。
弟子の方が能力高めなんじゃないかとは、完全に武装した師匠の方を相手にしなかったから思わなかっただけかも知れないけど。どちらかと言えば研究職に近かったらしいから、余程の事が無ければ最終的には負けなかっただろうとは弟子のセリフだ。
元々、魔術師は「人形姫の城」と言うより人形姫そのものに興味があるとかで操作系魔術師へ弟子入りをしたんだそうだ……魔術師の世界って言うので平均的なものかどうかは知らないが、師匠の身勝手さと金銭感覚の無さに見切りをつけたけど。暫く黙って従ったのは「人形姫の城」まで行く旅費をケチったからだそうだ……それでも弟子入りをしたのは、あの魔術師の実家は知名度が高い為に情報が集まりやすいと言う事。あと、さっきも言ったように旅費をケチったからだそうだ。
魔術にも色々と種類はあるが、一般的なのは素材を集めて魔力を流し込むことで発動する任意媒体型と呼ばれる方法なんだと。同じ操作系魔術師として、子供の寝物語にまで語られる人形姫の研究を己の使命で命題でライフワークと認めたらしい……そもそも、魔力だけで物や人を操作するなんて基本的にうんざりするほどの魔力が必要な上に条件が厳しくて失敗当然と言うのが魔術の世界。その手助けをしてくれる媒体って言うのが魔力を通しやすい素材だったり魔力が籠っている素材と限定されるものだから、当然金を出して買おうとすれば値段が張るし自力で素材回収に行けば命の危険を伴う面倒な場所にある……そうでなきゃ素材が高額にならない理由がわからん。
んで、前置きが長くなったけど魔術師が俺を放置……うん、放置した最大の理由は城の主? とも言うべき一人の少女……(自称)「人形姫」と名乗る少女。の、幻影。
そこからが、まあ……話が早いんだか遅いんだか……。
幻影の少女の姿をした人形姫……本人が「本人ではないけれど偽物でもない」と言うので受け入れたんだが……伝説からこっち、城そのものは何人も持ち主が入れ替わっても誰一人として城を扱いきれずに次々に持ち主が変わったのは「封印状態」にあったから。
城は「この世界」の人の為のものではないので、どうした所で使える方がおかしいんだと。
んで、本来の人形姫と言うのは元々は俺みたいに召喚された異世界の存在で。それが俺と同じ世界から呼ばれたのかは不明だけど人形姫本人の生物としての命は世界を超える負荷に耐えられず亡くなったんだそうだ。
けれど、人形姫はこの世界でろくな目に合わなかったらしくて魂だけの姿になっても還る事を願い、この「城」を作り上げた……言わば、この「城」はこの世界から逃げられる唯一の「装置」なので、この世界純度百パーセントの存在に使いこなすのは出来ないんだと。
そりゃそうだわ。
魔術師は純度百パーセントだったから、今まで目の前に現れる事が無かったし興味も無かったし、あったとしても胡散臭いのが先に立った上に出来なかったんだと……その時の魔術師は、どっかの顔文字みたいで面白かった。
問題はここからで、確かに「城」はこの世界に堕とされた異世界人を救済する装置ではあるんだが……この装置を使って行ける「かも知れない」と言うのが人形姫が元いた世界一択。
……かも知れないって何? と聞けば「当の本人が旅立ったのは確かだけど、無事に向こうまで辿り着いたかどうかまでは知らない」とか言われたら、そりゃ双方向じゃないんだから無理もないとか納得する自分自身もいるんだけど。人形姫の元の世界と俺の居た世界が本当に同じかどうかなんて本人がいない以上は判らん……幻影姿の人形姫は、いわゆる残留思念的な。とりあえず幽霊っぽい存在で、プラズマっぽい存在なのかとも思ったけど本人曰く「火の玉は出せないわよ? 城は動かせるけど……今の残存エネルギーだと生活用品くらいしか動かせないけど」と皮肉る程度の可愛らしさはあって魔術師がキモチワルイ……悶えて今にも笑点……じゃない、昇天しそうな顔ヤメロ。子供に見せたら親から苦情が来る……幻影の逃げるなと言ったやり取りは楽しかった。気がする。
生前と言ってよいのか判らないけど、人形姫の人となりを聞くと何だか身に覚えがあると言うか聞き覚えがあると言うかと言う気もしないでもないが。とりあえず行ってみないとわけわからんって言う「事実」だけは変わらないわけど。
つまり……「城を稼働させる」為のエネルギーを集めていたわけだ。
この一年。
ああ……長かった。
まだ終わってないけど。
まだタイトル「anacra」にたどり着けていません。
も、申し訳ない。
しかし、次回!次回からは出ますから!
…たぶん?




