17.一年ぶりなのは次回です
前回の最後に公開したのは2015年9月30日でした。
……ごめんなさい(土下座)
17
「周辺に人っ子一人いないんだけど、それでもダメなわけ?」
流石にしびれが切れたのは、いい加減に変わらない風景に飽きた頃ですこんばんわ。
朝のうちに森から出て、速度計なんてないから判らないけど。恐らくは普通に歩いた場合の何倍かの速度で歩き回っていた気がしないでも無い……いや、もしかしたら普通に歩いていただけなのかも?
気が付いたら夜です、夜中です、真夜中です。
流石にのんびり散歩気分で歩くにしても、ちょっとのんびり過ぎないかな……周辺を「探る」って言うのも暇つぶしを兼ねてやってみたんだけど。人どころか動物すらほとんどいないってナニソレ?
「おや、ようやく周辺の探索が終わりましたので?」
「……はぁっ?」
「しかし魔術使用ではないので問題は少ないですが、魔術を行使する場合は現状より周囲から探知されやすくなりますので気を付けて下さいませ」
「魔術習ってないからその心配はないけどさ……」
「おや、そうでございましたか?」
「ちょっと待とうか?」
暇だと言うアレクは、さっきからあっちへ行きこっちへ行きして好奇心の赴くままに行動している……あれか、小学校前の子供だとでも言いたいのかと言いたくなるが。実際の所からするとアレクにとって今この時間はとても自由だと言う……本当に。
常に誰かが側にいる、誰かに見られている、それは監視されている事と見守られている事の違いが不明な程に。
芸能人だって、恐らくは自分の部屋なら他人を入れない事は出来るんじゃないかと言う気がする……知り合いにいないから知らないけど。でも、アレクは本当に「一人きりになってはいけない立場」なのだそうだ。本人に言わせると「お蔭で、悪だくみもそうそう出来ないのよ? 信じられないと思わない?」と不機嫌そうに言われたのだが、そもそも悪だくみってするモンなのかね?
「はい、何でしょう?」
「ようやく終わったとか、言った?」
「はい、申し上げました」
「そんな話、いつしたっけ? 覚えがないんだけど?」
「そんな話とは、どんな話でしょうか?」
「周辺調べるとか、そんな話したっけ?」
「基本中の基本でございますよ?」
「いや、聞いてないし!」
あれか……教えた「つもり」とか「常識の壁」って奴か?
そりゃ、周囲が危険か安全かは知らないより知った方が確実に良いとは思う。知らない間に危険な状態になっていても困るし、対策だって取れないわけだし。
でも、森の中でもそんな話したっけ?
「口にしてはおりませんので、当然の事であるかと存じ上げます」
「オイマテコラ」
「何か問題でも?」
言われて、問題らしい問題を考えてみる。
考えてみる……。
考えてみる……。
考えて……。
いや、問題ならあるじゃないか!
「社会人として報連相が出来ないって問題ならある!」
「シオ様は社会人でいらっしゃるのですか?」
「いや、学生だけど……」
「それでは、短期就業者で?」
「違うけど……けど、打ち合わせもしないってナシだろ、普通!」
「何を持って普通と口にされるのか、ご教授を頂いても?」
オカシイ……間違った事は言ってない筈だ。
そりゃ、確かにバイトも経験ないけど。おこぼれでお小遣い貰う事くらいはあるけど、せいぜいそんなもんだけど!
「カール……あまりシオを虐めすぎるのはよくないわよ?」
ひょこっと現れたアレクは、いかにも楽しいピクニックを堪能している少女に見える……実際、アレクは少女なんだろうとは思うけど。
それ言ったら、今の俺は何歳くらいなんだろうなあ……肉体的に?
「ごめんなさいね、シオ。
カールは私がはしゃいでいるから時間稼ぎをしたかったのよね……少しだけ、とは思ってたんだけど。思ったよりも少し、はしゃぎすぎてしまったみたい。
シオでも判るくらい、時間はあまりないのでしょう。
だと言うのに……カール、優先順位を間違うものではなくてよ?」
「申し訳ございません、お嬢様。
ですが、わたくし目の優先順位はいついかなる時であろうとお嬢様が最優先事項でございます」
「それは『ありがとう』と言っておくけど……カール、それも程度と言うものを考えるべきではないかしら?
シオは異なる世界の神の愛し子にとってかけがえのない存在……時間軸がどうなっているのか判らないから外界の動きこそ想像以上にはなれないけれど。場合によってはこちらの世界をも揺るがす事になりかねないのよ?」
もしかして、アレクは意外と苦労性なんだろうか……。
仕事放棄の父親、隔離された母親、ろくに会えない弟妹に言う事を聞かない部下達。
あ、完全に苦労性だわ。
「異界の神がどう動こうとも、お嬢様より優先されるべき存在はあってはなりません。わたくしが許しません」
年齢が年齢だから仕方ないけど、大半の女性枠に入る性別の人が見れば見惚れてしまうんじゃないかと思わせる美形っぷりは心の底からどうしたものかと思う程度にブレないもんだ。
「カールの許可はどうでも良いとして……」
が、それを欠片も気にしない。と言うより、もしかして慣れてるとかそう言う感じなのか?
アレクってすごいなあ……。
「判っていないかもしれないけれどね、カール?
この世界に関わる可能性があると言う事は、この世界で生きる『私』にも影響があると言う事だと思うのだけど……私、何か間違った事を言っているかしら?」
にこっと小首を傾げたアレクの表情は……目が笑ってねぇぇぇぇぇぇ……。
正直、物凄く怖い。
「お嬢様御一人であられるのでしたら、このわたくしめがいかようにでも誠心誠意を持ちましてお守り通す所存であります……」
「それは嫌」
ざっくり切り捨てる所も漢を感じさせるあたり、どうなんだろうねえと言う気はしないでもない……。
「まあ、世界がぶち壊れてアレク一人だけ生き残れたとしても。そもそも世界が壊れていたら人が生きられないのは自明の理だし?」
とか言っても、世界が壊れたらどうなるんだろう?
この世界の場合、地球みたいに丸いのか。それとも世界の外側に宇宙っぽいものでもあるんだろうか?
「それに、私は放り出したくはないの。
だってね? そうでなかったら、もし今ここで放り投げてしまったら、これまでの私が『可哀想』ではないの……これからの私も大切よ、でも『これまでの私』が大切にしたかったものは全て無意味なのかしら? 私を構築した要素の全てだと言うのに?
もし、カールが『これまでの私』が大切にしていたものに何ら価値を見出せないと言うのであれば……それは、カールが私に何一つ価値を見出していないと言う事になると解釈するわ。
いいえ、カール自身がその口で何をどうこう言おうとそんな事はどうでも良いの。どうとも解釈出来る事だもの、嘘をつく事だって出来るわ、それは否定も肯定もしない。
単に私が、カールに対しての信用度を引き下げなければならないと言う悲痛な感情を覚えるだけだもの」
「……お嬢様、それはわたくしに対してあまりと言えばあまりなお言葉ではないかと思われます」
「仕方がないわ、それが事実である以上は」
やれやれと言った風のアレクを、思い切り目じりを下げて見ているカールの心情など判ったものではないが……。
これって、どっちに解釈したら良いんだろう?
「ですが、お嬢様。
お嬢様がご懸念されておられる『例の者達』に関しては打ち捨ててしまっても構わないのではないかと……少なくとも、今からでも手立てを行う手段はあるのではないでしょうか?」
「カール……その話は何度もしたわ、私は彼等がどんな風に成長するかは知っていても今はどうしているのかは知りたいとも思ってはいないの。これまでが手一杯だったと言う事は否定しないわ……でもね、彼等も彼等としてのびのびと生きる権利はあると思うのよ?
何しろ、彼等は『まだ何もしていない』のだから。一体、どんな罪科を押し付けようとするつもりなの?」
「確かに、お嬢様の仰るように何度も交わされてきたお話でございます……それでも、全てがどこの誰だか知らぬ者の掌の上でお嬢様が転がされるのを黙って見ていろと、その様に仰られるつもりでおいでなのですか?」
「ええ、そうよ。
わたくしがそうである様に、彼等もまた自らの意志を持つ一つの命ですもの。
彼等がどこの誰とも知れぬ台本で転がされるのであれば、その時に突き付けてしまえば良いではないの……ええ、真実を」
「あのう……二人とも、ずいぶんと人の悪い顔してるんだけど……」
それって、俺が聞いても良い話なのかなあ?
いや、何を言ってるかさっぱりだけど。固有名詞も出てきていないし? かと言って固有名詞出されても結局は判らないとは思うけど。
と言うか、何だか俺の話以外でもこの二人には何だかわけの判らない、それこそ家の話以上に面倒な話って奴が基本的に備わっていたりするのかなあ……巻き込まれる? こまれちゃう?
勘弁してくれないかな……。
「あら、ごめんなさいね。
もう……カールが面白くもなんともない事で意固地になるからシオの貴重な時間が余計に削られて行っているではないの!」
「お嬢様のお時間を削ってしまった事に関しては、大変申し訳なく……」
「私じゃなくて、シオだってば!」
……俺、なんかすっげえいたたまれないんですけど。
何て言うか……本家から来た兄ちゃんが「カップルと同じ密室に閉じ込められた感じ」と言う奴はこんな感じなんだろか? いや、ここは外だけど。
片側は森の壁が広がってて、反対側は砂漠が広がってるけど。
もう帰りたい……物理的に帰っても良いかな? ダメ?
あ、帰れないんだっけ。
「シオ……ほら、カール。
見てごらんなさい、シオの目が死んでしまっているではないの……可哀想に」
誰のせいだとか、そんな空気の読めない事は言わない。
流石に、ここで何か言えば身の安全が保障されないのは判りマス。
「これはこれは……困りましたね、埋めて差し上げるのは親切でしょうか?」
「お待ちなさい、カール……何の為にわざわざ、こんな遠方まで足を伸ばしたと思っているのです?
当初の目的を果たさずに放棄するなど、わたくしが許さなくてよ?」
うん……アレク、さっきからボロが出てる。とかも言わない。
普通のボロって、身分の低い人が上流階級に入り込んで育ちが出るとかじゃなかったっけ? 逆?
こういうのもボロって言うんだろうな?
「それは当然、お嬢様の慰安旅行でございます!」
「カール……この世界に慰安旅行と言う概念は無くてよ?」
沈痛な面持ちのお嬢様……いや、女王様?
下手に有能なので、うっかり捨てられない部下を持つと大変だね。
いや、だってカールの飯すっげえ旨いし。こっちの世界のファミレスとかって行った事ないけど、もしかしたら元の世界の飯に引けを取らないんじゃないかな?
俺……元の世界に帰ってやってられるかな?
「それ以前に、お戻りになられると宜しいですね?」
「カール!」
「……カールって、俺の事そんなに嫌いかよっ!」
「お嬢様の御心を向けられていると言う点に関しましては……」
「いい加減になさい、カール!」
……嫉妬されても、応えられないんですけど。
その辺り判ってる? 判ってて言ってる? よね?
思い切り|精神値(SUN)削られて、どうしたら良いんだよ……?
「ごめんなさい、シオ……」
「判ってるならしつけて置いてくんない?」
「それは……」
「お二人とも?」
「「無理だ(です)よねー?」」
と言うわけで、次回はいきなり一年後です!
……正確には色々と暦的なアレコレとかありますが、その当たりはスルーをお願いします。




