15・使いこなせないとは無用の長物
人形姫の城がどういったものかと言えば、形状としては普通のお城ではあるのですが一般的な水道だとか言った物が一切ありません。全部外部から持ち込まなければならない上に水源を引いていないのでわざわざ自分で探そうと言う人がいないので、非常に住み辛い仕様になっています。
これは一般的に「人形姫の為の人形の城だから」と言われていますが、この時点での真実は闇の中です。
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森から出たら地平線が見たけれど、森の外周をまわると言う事は基本的に湾曲した道沿いに歩くと言う事になる。
ちなみに、持っている荷物は一応は誰かに会っても大丈夫な様にそれなりの剣と胸当てと脛当てに帽子。それと、旅の必需品が入った背負い袋が一つ……何でも、中に入っているものはアレクとカールの国で最近になって初心者の旅人や緊急避難道具として開発されたもので試作段階なんだそうだ……説明書と一緒に渡されたけど、そのうちにじっくり読もう。使い勝手とか今聞かれても使ってないから判らないし。
ちなみに、ご丁寧に日本語で書かれてるって驚いて良いレベルだよな……ちなみに、この世界に日本はないので当然日本語も存在しない。
カールはともかく、アレクは特殊な能力とやらが関係しているのだろうな……深くは聞くまい。聞いても判らないだろうし。
ちなみに、この国の共通言語は自動翻訳されてるのか。素材となった人達の遺伝子っぽい何かが解釈してくれているらしくてそこまで困らないのは、心の底から非常に助かっている。流石に専門用語は期待しないけど、それは仕方ないだろう。どんな人達が「素材」となってるのか判らないし、知りたいと思えば知る事も出来るかも知れないけど……流石に、そこまでは。なあ?
「流石に、無限収納とかは無理かあ……」
「この世界の人に重力とか言っても理解されないと思いもの、その辺りは仕方ないわよねえ……それに、下手なものを作ると異端審問にかけられる恐れがあるし。逆に、入れ物ごと盗難されたら逆転されちゃうし。後は、持ち主と魔力を繋げている状態だとすると生死にかかわる程の枯渇状態に陥ったら中身が全部出てしまう可能性があるとかも色々と問題点はあるけど、何よりも気に入った上で持っていても問題のない素敵なバッグが存在しないのよね……世間の流行を先取りしすぎるにしても、段階踏まないと周りが煩くて……」
「身分不相応って事になるから?」
何でも、ある程度以上の地位を持った男性もそうだが女性も大変なのは。金持ちは広告塔になる事が少なからずあると言う事が前提で、その為に献上される品を少しくらい改造する……チャームを着けてみるとかはともかく、一からオーダーする事は滅多にないし。貰った物をがらりと作り変えると相手のセンスを全否定される事になるから気を使わなければならないそうだ……かと言って、全くの新人とか自分で作ると言うのはアレクの(知らない)地位的にあってはならないと言う事だそうで。
……書類にサインする以外をして、周囲に全力で止められるなら。お茶くみが気分転換って言うのも……どうしようもないんだろうなあ?
「自分で作るにしても、材料とかは普通のお嬢様は持っていないのよ。技術もね」
「御命令を頂ければ、常に最高級な御品物を用意させていただくのですが……」
「それは目立つもの」
何でも、下手にカールは目立つ容姿をしているので常は色々な手を使って存在を隠蔽しているとかで……いんぺい……?
あの顔を晒して歩いていたら、そりゃあ女性は放ってお……え、男性からの声をかけられる事も?
「ええ、割と普通にございます」
とても邪魔くさいから何度か気絶させて色々やったとかって……その色々の一部がアレクに見つかって怒られたから今は隠れてる方が良いって……何やったんですかねえ?
「お嬢様のおっしゃる通り、姿を認識されにくくしている状態の方が以前より格段に仕事をしやすくなりました。
やはり、お嬢様は素晴らしい慧眼の持ち主でいらっしゃいます」
「気分的には女子トイレみたいなものなんだけどね」
「なんで女子トイレ……」
「学生の女生徒のトイレなんて、情報の坩堝ではないの?」
「いや、女子トイレに入った経験ないから判んねえし……!
とか言うより、人に何のキャラを求めてるわけっ?」
「ええと……暇つぶし? かしら?」
「ちょっとカール! お前のお嬢様ってば可愛い顔してトイレとか口走ってるけど止めなくて良いわけっ?」
こんな可愛い顔してトイレ……将来は確実に美人になる、その下地がすでに出来上がっている顔でトイレ! しかも一応は異性(従者と異世界人。普通の異性がどこにもいないけど)の前で口走るのってありなの? 無しでしょ!
「この世界に『トイレ』と言う単語はありませんので、大目に見てセーフ……でしょうか?」
「いや、アウトだろ。それ。
俺みたいな異世界人や、単語の意味判ってる奴らの前で言ったら確実に可哀想だから。相手が」
「いいじゃない、今は貴方達しかいないんだから……それに、私だって場と言うものは弁えて使い分ける事くらいは出来ますぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
……て、その目は止めて欲しいわ」
流石にジト目で見つめられるのは嫌か……と言うより、アレクの知識はどうなってるんだろう?
俺の世界のふた昔前の女子高生が使っていたような、正直むかっ腹が立つ言い方をされるのは個人的には好きではない。何だか、馬鹿にされてる気がするし。相手がどう思ってるかは別、だって意味ないし。
「と言うより、シオは女の子に幻想を見すぎではないの?」
お姉さんは将来が心配だわぁぁぁぁぁと言う風で言ってるけど、どう見ても実年齢は俺の方がアレクより上だと思う……顔に関しては、今は言わないでくれ。別にイケメンになりたいなんてまだ思ってないし……いや、そりゃ彼女の顔は綺麗だから? 側に居てつり合い取れるかなって思わないでもないけどさ。
でも、きっと何か違うんじゃないかなと言う気はしないでもない。流石に、性別逆転していたら卑屈になっていたかも知れないけど。
男の顔が綺麗って、女性からしてみたら嫌じゃないかな?
「それは……ないと思うけど……?」
「家族で女性が多いと、幻滅するって言う話もあるけど……」
「……個人差がないとは言いきれませんが」
そっと視線を逸らしたカールさん、あんた家族女系なんですかね?
「私も、どちらかと言えば女系家族になるのかしら?
お母様と妹もいるし……お父様と弟、五人家族だもの」
でも、表情からは読み取れないけれど。
少しだけだけど、何となくだけど。
何だか……あんまり、家族仲が良くない気が、した。
「所で、さっきから風景が全く変わってない気がするんだけど……」
だからと言って、別に話題を変えようなんて思ったわけじゃない。
本当に。
風景が変わっていないと言うのは、確かに若干の嘘がないわけでもない……でも、それって間違い探し程度の実感しかない。僅かに緑の色が違うとか。そもそも、森に沿って歩いているのに目印も何もないってどうなんだろう? さっき見た地図からすると、割と周辺にはそれなりに幾つか色々と見られそうなものがないわけでも……あったっけ?
「そうかしら?」
「そうでもありませんよ、先ほどはあの緑があの辺りにございましたし」
「間違い探ししてんじゃねえよ!」
「距離的に通常の動体視力ではご覧いただくのは少々難しい事かと……シオ様は中身はともかく肉体は人造人間なので、調整次第では遠距離からの標的を狙う事も出来るのではないでしょうか?」
ナニソレ怖い。
「中身はともかくって……」
「魂だもの、仕方ないわよ」
「人造人間ってそんな高機能なわけ?」
どちらかと言えば、廃スペックな気がしないでも無い……上手い事言ってない、言ってないから。
「製造者の意図が判れば想像もつきますが……外見からでは、流石に即座には。
ですが、粗悪な素材でもない様ですし劣化具合からしてみてもなかなかの一品ではないかと思われます」
「……なんだろう、人間の話をしている様に聞こえないんだけど?」
「地域によって違うけど、人造人間は人権ない場所もあるもの」
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「普通は人形みたいなものが多いから、シオは一見すると人造人間には見えないけれどね?」
人形、ゴーレム……つまり、単純な命令を糸がない状態でやる操り人形みたいなものだ。
これは入れ物があって素養がある人が魔力を詰めると魔力切れを起こすまでって言う限定に限り、割と自在に動かす事が出来る。とは言っても、やはり大きさによって魔力量とか質とかの関係で動ける時間とか耐久性は変わるし。素材によっては弱点があったりするんだそうだ。土なら水、布なら火みたいに。
大体はちょっとした町で魔力を持った旅人が大道芸としてやるか、物流関係ならフォークリフト替わりに浸かったりしているみたいだ。説明された限りだと、多分それで大体は間違っていないと思う。
「と言っても……調整、調整ねえ?」
体の機能の調整とか言われても、どうしたものかな……例えば、目の焦点を当てる感じ?
「うわっ!」
「シオ?」
「シオ様っ?」
思わず、ひっくり返った。
びっくりした、驚いた。
何が起きたのかと思った。
いやさ、思ったわけだ。
目の焦点を合わせるって言うのは、カメラとかテレビとかで急にズームになる感じってどうだろうって。そう言うものが無くても、遠くを見ていきなり近くを見たり。近くを見続けて急に遠くを見ると視界が一瞬ぼやけてピントを合わせる感じってあるだろう? だから、それを実践してみたわけだ。
「何かあったの?」
「いえ、周辺にはこちらを伺う動物の気配はありましても敵意や害意を持つ存在は感知出来ません。存在の否定を進言致します」
戦闘モード(と勝手に呼んでる)に入った二人を見て、正直笑いがこみ上げないでもないんだが……これ、一応は俺の事「も」心配してくれているのは判ってるからなあ。流石に笑うのは悪いし?
「ごめん、ちょっと目の焦点を合わせたら驚いた」
この二人、誤魔化そうとしたり嘘をつくとすぐに判る感知機能でもついているのかと言う気がしないでもないけど、正直に話すと大抵は笑って許してくれる。そう言う意味では善人だと思う。
「あんまり驚かせないでちょうだい……驚いたわ、いきなり倒れるからドジっ子でも発動したのかと思ったわよ?」
心配したのは本当だろうと思うけど、その言いぐさは何気に酷いと思いますお嬢様。
「お嬢様がここまで育てられたシオ様が無駄にならずに、よろしゅうございました」
「心の底からブレねえなあ!」
しかも、個人的に心配しているかと言われたら……おそらく、1%もない気がする。
あ、なんか目から水が滴って来る気が……。
「それで、どちらまで見えたの?」
「ええと……いきなりカエルっぽい生き物と目が合ったから、よくわからん」
「カエル? ですか?」
って言われてもなあ……それとも、この世界にカエルっていないんだろうか?
俺の世界だと古くはガマの油とか最近は忍者の召喚魔獣扱いとか、どっかの小説だと上位生物扱いされてる本もあるって噂があったんだが……?
「ええと、こんなの?」
地面は芝生と言うわけでもないから、そこいらにおちている石ころで簡単に絵を描いてみる……美術は5段階評価の3ですが何かっ! 泣くけど答えは聞かない、聞かないから!
「アニマリア……でしょうか?」
「私にも、そう見える……かしら?」
なんでも、アニマリアと言うのは古代魔物の原種的な扱いらしい。
今では滅多に見る事も無くなったらしい絶滅が危惧されていると言うが、民間伝承的に言えば非常に縁起の良い生き物だとかで……雨上がりの虹とか白蛇とか、ツチノコレベルって考えれば良いかな?
俺の世界で言う所のカエルに非常に形状が似ているらしい……角、あったけど。
カールさん、着けたしたのは写実的と言うよりデフォルメしたのはアレクに気を使ったのかな、それとも、こっちの絵のレベルに合わせただけなんだろうか?
……女の子には確かにきついかも知れないしね?
と言うか、アレクってカエル苦手なのかな……普通の女の子は苦手だとは思うけど。
「何か?」
「いいえ、何でも!」
続きます。




