14・人形姫の人形のいない城
ここに出て来る「人形姫」は、別作品(まだ書いてない)に出て来る話です。
本来は繋げる予定は欠片もなかったのですが、シオの呼ばれた時代から随分と昔の時代と言う事にしました。
基本的持論として「異世界召喚に肉体のあるまま行けない」と言うものがあるので、基本的に(あくまでも基本的に)元の肉体から魂を抜かれるか、仮に肉体が引きずられたとしても命の糸っぽいもの(魂とも言う)繋がりはブチ切れていると言う設定です。
ゾンビと言うかも知れませんが…。
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人形姫の城。
この世界、と言うより。この付近では有名な建物。
人形姫と言う存在そのものが歴史上で存在したのは数百年以上前の話で、その間に国境線が変わったり国の名前が変わったりした事が2度ほどあったらしい。しかし、城は当時のままで朽ちる事も無く、また住み着こうとした者は数日も待たずに逃げ出すと言う場所なのだそうだ。
と言うのも、水源が全く無いらしい。近くに川や湖があるわけでもなく、池があるわけでもない。井戸さえない場所では水の確保は難しい。では地下水があるのかと言えば、そう言ったわけでもないのだからどう言う事かと思うが、考えてみれば人形姫は生きた人物で無くても良かったのだから水が無くても平気だったのかも知れないと大部分の人は思うそうだ。
国としての出入りをする為の国境線に関所があるわけでもないから、目印としては非常に優秀な造りだけれど住みたいかと言われると嫌だと答えるのが普通だそうだ。
で、だ。
何でそれが次の目的地かと言えば、まずは人形姫のB子さんがこの世界に召喚された俺のお仲間と言う事。数百年前に召喚された大先輩とは言え、何か。もしかしたら、何らかのヒントを残しているのではないかと言う淡い期待めいたものがあるらしい。
あとは、最近になってそこへ住み着いた物好きがいるのだそうだ。もしかしたら、何か関係しているか知っているかも知れないと言う事があって目的地を定めたと言う。
「所で……現在位置ってどこ?」
確かに、紙と違って空中でふわふわするでもなく存在感ばっちりで見えるのだから光源とかどうなってるのかとか考えると、別にろくな知識があるわけでもないから気にしない方が良いんだろうなあと言う気はするので気にしない事にするとして。
地図が読めないわけでもないんだけど、そもそもこの地図を見ても現在位置が判るわけでもないし。ついでに言えば太陽の位置から現在位置を割り出すとか、そんなの無理だから。と言うより、太陽三つあるし……元の世界のサバイバル術なんて役に立つわけがない。
ちなみに、月は一つで大きかった。
この世界を外側から見た人が知っている中では見た事があると言う話は聞いた事がないらしいが、三つの太陽は小さく大体同時に上がって沈むらしい。そうして、大きな月が昇るのだそうだ……よくわからん。
「この辺りになります」
「本当は突っ切って直接伺いたい所ではあるのだけど、いきなり森の中を突っ切って現れると言うのもね……危険だから」
何でも、人の命などそこいらに生えている雑草よりも脆弱な存在として認識されているのが流刑地として使われてきた森タピオニドムである。そんな中から、普通は森に沿って中に入らない様にしつつ位置を確かめて移動するのが普通だと言うのに突然現れるとか。ましてや、流石にひゃっはー! なんて言ったりはしなかったけれど俺でさえ「よっぽどの変則事項でも無ければ一人で生きられる気がしないでもない……あ、やっぱり寂しくて死ぬかも……嘘です、割と平気です。
どうにも、こっちの世界に来てから五感も向上してる気がして「これってチート?」と内心で不安になったりもしたものだ……アレクやカール見てると、まったくそんな気がしないけど。
不安になるのは、機能が向上したからと言って使いこなせるかと言ったら別の話だから。もし、使いこなせなくて暴走したりして、万が一体が損傷したりしたら……今の体に傷でもついたら、生死にかかわる可能性が非常に高い気がする。それは、同時に元の世界に戻れない可能性が高くなると言う事だ。
それとも、今の体が壊れて生物的な死を迎えれば元の世界に帰れるだろうか? その保証は、残念ながらどこにもない。
アレクやカールが言っていた事も、本人達さえどこまで信用出来るか確証がないと言っていたのだから。
「危険って……人?」
「当然でしょう?」
「人は空を飛ぶ翼もなければ攻撃する為の牙も爪も持ち合わせてはおりません、ですが替わりとばかりに繁殖力は無駄に高く好奇心と言う最大の武器がございます」
「剣とか銃じゃなくて?」
あと、この世界だと魔法と言うか魔術が最大の武器だろう。
広範囲的な大量虐殺を目的とした魔術に関しては成功よりも失敗する確率が高く、発動するのに時間がかかる上に準備段階で術者が無防備になるのと触媒となる道具とやらが非常に高価でポンポン使えるものではないのだそうだ。そんな触媒とやらを2~3回分でも仕入れた時点で国家間の戦争を危惧されて周辺諸国からの密偵が嬉々として探りを入れて来るから逆にそんなものは使えないそうだ。
上手くできてるのかな?
その代り、肉体の強度を増すとかの体内で魔力を純粋に動かす的なものになると体の中だけで動かすので触媒とかは必要にはならないらしい……手足を動かすのと要領的には同じようなものだからだそうだ。
では、この世界で魔法使いと言うか魔術士と言うか、そう言った人達は役立たずかと言えばそうでもなくて。基本的には研究職がメインの戦場に仕込みを入れておく密偵と共同戦線を張るのが主なお仕事なのだそうだ……うん、防衛って大事だよな。
「好奇心は人を突き動かす動力源となります、例え肉体が疲労を感じても時に肉体の限界を凌駕する事もございます。
故に、人は魔術を会得し武器を手にし発見を行い、そうして脆弱な造りでありながら大地を我がものとした顔で闊歩して参りました。
更に、人は情報を駆使すると言う事を覚えました。これは味方とすれば大変心強いですが、場合によっては大変対処の難しい攻撃となります」
「ああ……まあ、ソウダネ……」
「シオにも、何か心当たりがありますのね……」
黒歴史ってわけではないんだが、噂に振り回された事がないわけでもない。
特に、女の噂はもっと怖い……。
「お嬢様もシオ様も、眼球が死んだ魚の様になっておられますが話を進めさせていただきます」
恐らく、よく似た目をしていると言われた俺とアレクの心はこの瞬間だけ繋がったんだろうと言う気がする。
内心で「どうぞ勝手にしてください」と言葉にしなくても判ったのだろう、しみじみとカールは頷いた。
「わたくしとお嬢様はともかくして、シオ様の様な影響を受けやすい御体の方であればどこで噂になるか判ったものではないと言うのが問題なのでございます。加えて、人里の至近距離に森の中から突如として現れるなど、それはもう問題を抱えて飛び込んで来たとしか思えずにそっぽ向かれてしまう可能性が非常に高いかと……」
「そして変な人達に世間知らずな奴は目を付けられるわけですね……判ります」
おまけに、こちとら謎の美少女と謎の美形と言う謎だらけの二人のおかげでタピオニドムを突っ切るくらいならば可能と言う使い勝手さえわかれば裏社会でかなり役立つんだろうなあと言うのは想像するまでもなく判ります……と。
「ご理解が早い様で、大変けっこうでございます」
「本当はね……私の事さえ問題が無ければ、そのままシオの一人くらい連れて帰ってうちで面倒を見ると言う手もないわけではないのよね……」
「嫌な予感しかしないよっ?」
「そうですね……お嬢様へのあらぬ疑い、事情を知る為にもたらされる刺客、それが判明した際には研究機関と研究員達の壮絶な戦闘による略奪行為からなる政治の停止にまで追い込まれる可能性がございます」
ここで、うっかり「政治って何っ!」とか聞いたら危険度が上がる気がするっ!
内心で戦々恐々とするけど、ここはじっと我慢の子で乗り切るしかないっ!
「……思ったよりも耐久率が高い様ですね?」
「カール、悪趣味なのはいかがなものかと思うわ」
「失礼を致しました、お嬢様」
「ごめんなさいね、シオ……カールも悪気はないのよ? ものすごく善意がないだけで」
「フォローになってない気がする」
それって、どう見てもカールは俺に全く興味ありませんって事で……いや、男に興味持って貰っても嬉しくないけどさ。と言うより、一刻も早く元の世界に帰る為には些細な事は気にしない方向性にしないと色々な意味で冗談じゃない、本気で冗談じゃない事になる。
かと言って、まだまだこの世界から抜け出す方法が思いつかない以上は目立つ真似は極力避けた方が良いって事も判っている。だから、時間はかかっても確実な方法を模索するしかない。けれど、アレクとカールは本格的に時間が足りない……どうしたものかな?
「そこで、わたくしに一つ提案させていただきたい事がございます」
「提案……どう言う事ですの?」
「お嬢様とわたくしは『人形姫の城』までシオ様をお送りしてから脱出する、と言うものでございます」
「まさか……シオを見捨てろと言うつもりではないでしょうね?」
ひやりと、アレクから物理的に感じない筈の冷気を感じる。
幾ら五感が向上しているからと言っても、こんな第六感的な部分まで向上しなくても良いと思うんだ。
「これは仮定法なので確かであると言う証拠は、どこにもございません。
ですが、現行では最もシオ様の希望を叶える為の友好的な手段であると考えられます」
「説明なさい、カール……私に納得出来る、首を縦に振らせると判断したのだと思うのならば」
「当然でございます、お嬢様」
カールの説明を端的に説明すると、こんな感じだ。
人形姫として歴史書に語られているB子ちゃん、実はオチがない。
A美ちゃんは……実は、A美ちゃんもこの世界に来た時点で死んでいたらしい。肉体としてはね。
ただ、本人の魂が元の肉体にしがみついていたと言う。死にたくない、死んでなどいないと言う思い込みから元の体を使っていた為に非常に効率が悪かったのではないかと言われているそうだ。
B子ちゃんは最初の頃にすでに己の肉体に見切りをつけて色々な物体に宿りまくったのが、人形姫と言う名前の由来だったそうだ。当時の魔獣を統率していた者達、通称を魔族と呼ばれている人達の中にどうやってか潜り込んだ人形姫がA美ちゃんを含めた人々の前に現れたから呼ばれていたんだと。
最終的に、召喚された国に戻って来たA美ちゃん御一行は己がすでに死んでいる事や国の目論見……例えば、召喚された存在は常に最後には「神の塔」と言う祈りの場所に入って人々を生涯見守ったのだと言うオチになるらしい……そいつら、召喚された相手が死ぬって判ってたって事なのか。それとも、単に役目が終わったからさっさと殺しただけなのかは時間が経っていて判らないそうだ。
所が、その後のB子ちゃんがどうなったのかは歴史書に記されていない。唯一残っている可能性があるのは、人形姫の城が当時の召喚国の王城だったからなんだそうだが、城は何百年も経っていてほとんど人が住んでいないのに朽ちる事もないそうだ。
ここで「余程丈夫に造ったんだな」と思うのは浅はかと言うものだそうで、実際には状態保存の魔術がかけられているらしいと言うのは判ったそうだ。ただ、水の件も含めてどう見ても長期滞在するには不向きな環境な事と、それだけの建築物ならば至る所に魔術の痕跡がある筈なのに箸にも棒にも掛からぬ状態なんだそうだ。
つまり、何らかの事情で城の機能が封印されているのではないか?
と言うのが、割と初期の頃に専門家の間では噂されていたらしい……何の専門家なんだろう?
「……とりあえず、行くしかないって事だけは判ったわ」
「確かにね」
続きます。




